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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を殺したい

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15/27

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 真っ暗な水の中に沈んでいるみたいに、なにも見えなくて音は遠い。

 身動きもとれない……というより、動かす体なんてなくて、ただぼんやりとした意識がそこにあるだけみたいな、自分が曖昧なものになったような感覚だった。


 わたしが考えていた結末は、ふたつあった。

 どちらも魔王城で正体を明かし、主人公と向き合うところまでは同じ。


 ひとつは、情が湧いた魔王がわざと倒される結末。

 主人公はその想いを背負って、平和になった世界で彼の分まで精一杯生きると誓う。


 もうひとつは、友情が芽生えたことでふたりとも戦えず、魔王が力を捨てて人間になる結末。

 正体を隠して、静かに一緒に暮らす未来。

 最初は倒す結末だった。でも、あまりにも魔王が可哀想で――ふたつ目を考えた。


 どっちのシナリオでも、大事なのは主人公と魔王が一緒に旅をして関係を深めること。

 主人公は人間の中ではかなり強いけれど、魔王にとっては虫けらも同然。

 主人公がハッピーエンドを迎えられたのは、強かったからじゃない。魔王にとって、特別になれたからだ。


 だから、魔王との関係を積み上げていないジェイドくんは……魔王を倒せない。

 一緒に旅をして関係を深める役割を、わたしが魔王から横取りしてしまったから。

 次こそ意味のある死に方をしたいだなんて自分勝手な願望を叶えるために……なにもかも台無しにした。


『魔王がいなくなったこの世界で君と一緒に過ごしてる妄想とかしちゃってたわけよ。ほんと妄想ばっかりで嫌になっちゃうよねー』


 魔王がジェイドくんに話しかけている声がする。きっと、これはわたしにも言っている。

 ……ジェイドくんに、知られたくなかったな。


『死ぬことしか考えてないクソ作家が、自分と一緒の未来を望んでたって知っちゃったもんだから、喜んじゃったんだよね? だってさっきのジェイドくんの目、希望を見出した主人公!って感じで最高だったもん』


 ……君は『最高だった』って言葉を、人を(けな)すために使うんだね。

 そして悔しいけれど、ジェイドくんが同じ気持ちなのかもって……喜ぶわたしがいた。



『でも虚しくない? 実現しないんだよ? だって、あいつがそう書かなかったからねー。あいつ、自分で書いたくせにクソ作家だから忘れちゃったのかな。バカだから夢見ちゃったのかなー』


 ねえ、なんでさっきから、そんなにイライラしているの?


『お前、オレのこと殺せないんだろ』


 ジェイドくんの声が聞こえて、一瞬だけぼやけていた自分の輪郭を取り戻したような感じがした。わたしって、本当に単純だ。

 魔王から怒りのような感情が流れ込んでくる。

 ……そうか、魔王にも強制力が働いているんだ。なら――わたしがすることはもうなにもない。

 強いて言えば、ジェイドくんと世界がハッピーエンドを迎えるために、魔王と一緒に倒される。それだけ。


 そういうわたしの気持ちが伝わったのか、魔王の苛立ちが更に高まる。

 そしてまるで当てつけみたいに吐き捨てる。


『殺してくれって俺に(すが)りたくなるまで遊んでやるよ。ジェイドくんは、クソ作家のせいで死ねないことを恨みながら俺の遊び相手するおもちゃになるんだよ』


 ……は?

 そして魔王は、わたしにだけ言葉をかけた。


――お前が考えたクソみたいなエンディングなんて、絶対見せてやらねーから。


 結末が気に入らないなら、終わらせなければいいって……そういうこと?


――お前のせいで俺を倒すことも俺に殺されることもできないジェイドくんが、『ただ死んでないだけのなにか』としてボロボロになっていくとこを、せいぜいそこで見とけよ。


 ……こんなやつ、本当にわたしが書いたの?

 魔王の言うこともやろうとしていることも、全部わたしの想像の範疇を超えている。

 わたしがなにもせずジェイドくんと魔王に全部押し付けて終わらせようとしていたのも、それで意味のある死に方をしたって満足しようとしていたのも全部見透かされていた。……そして、全部否定された。


 魔力の流れが変わったのを感じる。魔王が魔法を使おうとしているんだ。


――いーじゃん。これでお前、大好きなジェイドくんとずっと一緒にいられるなァ?


 ……いいわけない。わたしはこんなの望んでいない。

 好き勝手しないで。ここは……これは、わたしが創った物語。


 わたしが死に直すための物語。


 魔王の意識と魔力がジェイドくんに集中している隙に手を伸ばす。

 気配だけで『本体』を手繰り寄せる。

 それを掴む。

 触れた瞬間、あっちの意識が流れ込んできた。飲み込まれそうになる。

 でも――無視して、引きずり下ろす。


――……ンだよ。クソ作家のくせに。


 お前こそふざけるなよ。わたしに創られた分際で。

 沈んでいく魔王と浮き上がるわたしの視線が一瞬交わる。

 焦るでも怒りを(あらわ)にするでもなく、ただ冷めた目でわたしを一瞥する。そのまま闇に沈んでいった。


 心臓が痛いくらい激しく脈打つのを感じて、その感覚で体の主導権を取り戻したことに気がついた。

 目を開く。ボロボロのジェイドくんが不思議そうにこちらを見ていた。

 ……ごめんね。


「ジェイドくん。わたしを殺して」


 今度こそ、終わりにしよう。

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