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その後もわたしたちは魔王城に向かって旅を続ける。
途中魔物に襲われる美女を助けたら、うっかり転びそうになったその美女にジェイドくんが押し倒されたり、立ち寄った町のギルドでジェイドくんの冒険者ランクがSであることを知った人々がざわつく……みたいな、正直いらないイベントがいくつも起きる。
その度にジェイドくんはジトーっとした視線を無言で向けてきた。……なにも言ってこないのも地味に効くんだけど、わかっててやってる?
一応言い訳をすると、美女の件については一緒に旅をするうちにジェイドくんをちょっと気に入ってきた魔王が、ちょっといい思いさせてやろうと魔法で美女を軽く押して転ばせたっていう理由がある。クソガキな魔王が心を開き始めていた伏線なのだ。
……ギルドの件? は? あれは完全に思いつきですけど?
ジェイドくんと旅を始めてから、三週間くらい経った。思ったより時間がかかった。でも、あっという間に感じる。
この頃になるとわたしは宿にベッドがひとつしかないことでいちいち騒がなくなっていた。
今のわたしは男の子なんだから、いちいち恥ずかしがっているほうがおかしいという開き直りと慣れ。
あと、最近やたらと疲れやすくなっている。だからシャワーを浴びたらジェイドくんより先にベッドに入って、すぐに眠るようにしていた。
……魔王の体は、こんなことで疲れないはずなんだけど。
そしてわたしたちは、無事に――シナリオどおりに魔王城に辿り着いた。
「よーし。行くぞ、ニト」
「……うん」
魔王城に近づくにつれ、わたしの体調はどんどん悪くなっていった。
ジェイドくんは何度もわたしを宿に置いて自分一人で魔王を倒してくると言った。「オレが魔王を倒すってシナリオなんだから、お前がいなくてもなんとかなるだろ」って。
それでもわたしが「賢者が一緒に魔王城に行くところまでは書いてあるから、強制力でどうせ一緒に行くことになります」と言うと、渋々だけど一緒に連れて行ってくれた。ごめんね、ジェイドくん。
でも、魔王不在じゃ物語が成立しないから……。
「お前はオレの後ろにいりゃいいんだよ。なんせオレが魔王倒すのは確定してんだから」
ジェイドくんが頭を撫でてくれたので、ちょっとだけ元気が出た。
ふたりで城の中を歩き回る。
魔族も魔物もなにもいないことに違和感をもったジェイドくんが、わたしになにか言いたそうにしていたけれど、言わない。だからわたしも、まるで初めてここに来たみたいな顔をしておいた。
ここに辿り着くまでの道中も、魔王城の近くにも関わらずほとんど魔族や魔物に遭遇しなかった。
魔王城に近い場所にいる魔族や魔物はレベルが高い。高位であるほど他者の魔力を察知する能力が高い彼らだから、わたしの中の魔王の気配を感じ取って避けていたんだ。
……ここに誰もいないのは、もう随分と前からだけどね。
わたしの具合の悪さは、多分、ここに残した自分の魔力のせいだ。あれに近くなるとどんどんつらくなっていく。
……よくわからないけど、体が拒絶してるみたいで。自分のもののはずなのに。
もう少しでわたしはすべての魔力を取り込んで本来の、魔王の姿に戻る。
ジェイドくんはどう思うだろう。騙されたって思うかな。そしてわたしをひどいヤツだって思うかな。
……思ってね。
『玉座の間』の扉の前に立つ。ジェイドくんの緊張が高まっているのを感じる。
……わたしの不調も、最高潮だ。
扉を開けた先に誰もいないのを知ってジェイドくんが声を上げる。
広間を見回しながら「どういうことだ? 他のヤツに先越されたか?」って言う声が――だんだん遠くなっていく。
足に力が入らない。床に膝をつく。視界が暗いのか明るいのかわからないぼやけ方をする。
ジェイドくんが駆け寄ってくる気配がした。
「……ジェイドくん……だめ……離れて……」
「は? なに言って……」
無意識に抑えていたものが溢れ出すみたいな感じがした。ジェイドくんがそれに吹き飛ばされる。……大丈夫かな。
懐にしまっておいた魔石が赤く光りながらふわりと浮き上がる。いつの間にか片割れの青い魔石も引き寄せられていたみたいで、私の頭上で赤と青の光がキラキラ回っている。
やがてそれは形をなくして、強い光を放ちながら砂のようにサラサラとわたしに流れ込んできた。
苦しいのは一瞬で、光が消えるのと同時に今までの不調が嘘みたいに体が軽くなる。
「ニト!」
ジェイドくんが駆け寄ってくる。……無事でよかった。
それじゃあ、わたしはわたしの役目を果たさないと。
立ち上がる。フードが外れた。これでよく見えるね。
「……ごめんね、ジェイドくん――」
――ボクが、魔王なんだよ。
そう告げると、ジェイドくんは言葉も表情も失って、ただそこに立ち尽くしていた。
「大丈夫。ボクを倒したら……ちゃんと世界は平和になるはずだよ」
そしたらようやく、わたしは意味のある死を迎えられるの。
君の手を煩わせてごめんね。




