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ぬしさま  作者: 里桜子
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あれから

 二人が落ち着いてから万里は清良に居なくなってからの出来事を話した。もちろんミツさんのことも。

「私がミツさんの子孫だったんだから」

 万里はてっきり清良が驚くと思っていたのだが、清良は落ち着いたまま、うなづいただけだった。

 つまんないの、なんだか、肩透かし。万里は唇を尖らせた。

 すると、清良はニッコリと笑って万里の短い髪を大きな手でクシャクシャにしながら頭を撫でた。

「最初から似てるとは思うてはいたからな」

「私が?ミツさんと?」

 そういえば叔父もそんなことを言っていた。自分ではよくわからないけれど。

 万里が不思議に思って何度も瞬きをすると、清良は笑ってまた大きな手で私の短い髪をクシャクシャにした。

 そして清良は万里にすべてを語り始めた。

 そもそも清良が泉で万里に話掛けたのはミツさんに似ていたからだった。オオサンショウウオを産み落とした時にショックで気を失ったミツさんに似た私が泉ではしゃいでたのが不思議に見えたそうだ。

「まさか、私が見える程、初心な娘だとは思わなかったがな」

 万里が『清らかな娘』だと思ってはいなかった清良が笑う。それを見た万里は「それ、余分だから」と頬を膨らませてむくれた。

「お前たち人間は私たちを永遠の者だと思うかもしれないが、そうではないのだ」

 そう切り出した清良の話は難しかった。要するに清良には過去も現在も未来もなくて、ただ『そこにある者』なのだというのだ。前にも一度聞いたことがあるけれど、想像もつかないなと万里は思う。

「んーー、じゃあ、犬井さんの夢に怒った清良が出てきたってのは、私がミツさんを調べたから?」

「そういうことになるな」

 自分が話したことで過去が動く。何だが、判ったような判らないような。 

 そして清良は自分が想像するに万里がミツさんの夢を見たのはそういう清良の時を超える能力が一緒にいたことによって少し移ってしまったからなんだろうと言った。しかし、そんなに強く作用するわけでもないから、せいぜいが血が繋がる身内の夢を見るのに留まったんだろう、とのことだった。

 そんな話をした最後に清良は私に「いいのか?」と聞いてきた。万里は「何が?」と聞き返した。

「私とこうしているという事は、万里が普通の人間としての生活と引き換えにするという事だ」

 具体的には結婚だな、と清良は言った。

「そんなの分からないよ?だって、明日は清良よりもすごく好きな人が見つかるかもしれない」

 そんなこと言いながらも万里は頬を清良の二の腕に擦り付けた。私の香りをつけるように。

「可愛くないな」

 清良はそう言って、口元を歪ませながら万里の鼻をつまんだ。よほど力を入れたのか万里は痛みで顔を歪めた。

 知ってるくせに冗談も通じないの?

 万里は清良を抱きしめた。

「いいの。今はこうして傍にいて。明日もこうして傍にいて。できれば明後日も、それから先も」

 そう言って万里は清良の胸に耳をあてた。心臓の音は聞こえない。でもいいの。これが私の好きな人。

「万里」

 優しい声が聞こえてきて大きな手が私の頭を撫でる。

 万里と清良は唇を重ねた。


 

 一年経ったある日の夕方、万里はキヨラの散歩をしていた。

 万里の就職先はなんと清良と出会ったこの村だった。今は近くの市役所の支所で働いている。

 住んでいる家も贅沢なことに庭付きの一軒家。万里は村が斡旋してくれた空き家を超低価格で借りて住んでる。

 休日には近くの農家でお手伝いをすることもあり、そのお礼にともらった野菜や卵とあとは給料で何とか一人でもやっていけてる。

 一人、っていってももちろん一人じゃない。犬のキヨラと相変わらず意地悪で勝手で私を振り回す清良と一緒。

 でも、おじいさんやおばあさん以外の村の人は万里を一人暮らしだと思ってる為、おじいさんの家にはいつも万里にと持ち込まれた沢山の見合い写真が積まれてる。

 ここは嫁不足なのだ。

 ぬし様の清良と一緒にいる事を知ってるおばあさんは、見合い写真を見ながら万里の花嫁姿が見たかったなと愚痴を言うのだが、そんな時万里は必ずこう答える。

「先の事なんかわからないよ」

 もちろん、今は冗談の粋をでない。しかし万里は笑う。

 時々、清良に飽きたら見合いもいいかなと付け加えると、犬のキヨラは唸るし、清良は睨む。しかし万里は平気だ。

「だって、人は変わるって言ったのは清良じゃない?変わるかもよ?私だって」

 そういうと、清良は鼻にも掛けずにフンっと笑う、それを万里はそうやって放っておくと分からないって言ってんの、とむくれる。

 今に見ていて、ギャフンと言わせるんだから。

「あれー、万里ちゃん、今日は役場を休んで街に出てるって聞いたけど帰ってきたの?」

 犬の散歩をしていた万里を呼び止めたのは愛車の軽トラに乗った住職さんだ。

「うん、さっき、帰ってきた。」

「玄関に作ったビワ茶置いといたから、飲んでよ。」

「本当?嬉しいっ、ありがとう」

 住職さんが作ってくれるビワ茶は万里のお気に入りだ。麦茶と混ぜて飲むと非常に美味しい。

 万里はこの村に来てから車の運転を始めた。まだ上手いというほどでもなく馴れたってところだが、万里のブルーの車が通ると「万里ちゃんカー」って村の人が見送っていると万里はおばあさんから聞いて知っている。

 今の万里は村の年寄りのアイドルだ。

 今日はその愛車で私は仕事を休んで街に行ってきた。理由はね、へへへ。

 あのね、おばあさん。花嫁姿は見せられないけど、ひ孫だったら見せてあげられそう。でも、まだ内緒。だって、清良にもまだ話してないの。


 清良、どんな顔して、何ていうかな。喜んでくれるよね。ね、清良。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。


知っていた方もそうでない方も楽しんで貰えれば幸いでございます。

よろしければ感想を入れてくれれば嬉しいです。


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