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1994年  作者: 夜空
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 ガシャァァンッ!!

 凄まじい質量兵器でもぶつかったかのような衝撃がスチール扉を直撃し、物入れ全体が激しく鳴動した。アフォンソは内側で背中を強打し、歯を食いしばって悲鳴を堪える。

 隙間のすぐ向こう。扉に顔面を叩きつけたネイは、鼻骨がひしゃげ、顔半分を己の黒い血で汚しながらも、すぐに次の行動に移った。

 ベチャ、ベチャベチャ……ッ、ガシャ、ガシャ……。

 ネイの、丸太のような腕が、物入れの表面を激しく引っ掻くように擦りつけられている。

 それはドアノブを回して開けようとする人間の動きではなかった。彼らはすでに、ドアを開けるという単純な知能すら失っているのだ。ただ、目の前の鉄板の向こうに獲物がいるという本能だけで、ノブの位置に関係なく、血塗れの手首をただ狂暴に押し当て、乱暴にガチャガチャと叩きつけ続けていた。

 赤黒いスチールの隙間から、ネイの眉間にある大きな黒子が覗く。完全に目が合っていた。

(頼む、壊れるな……動くな……っ!)

 アフォンソはバールを胸元で強く握りしめ、神に祈った。知能を失ったネイの、ただの力任せな質量攻撃でスチールごと引きちぎられるのは時間の問題だった。

 ――コン、……コーン……。

 その時。資材室の遥か遠く、リグのさらに奥深くから、低く妙に透き通った「音」が響いてきた。金属を叩いたような、あるいは何か巨大な生物が鳴いたかのような、不気味な残響。

 ピタッ。

 それまで狂暴に物入れを揺らしていたネイと、後ろに控えていた二人の男たちが、まるで操り糸を同時に切られたマリオネットのように、一瞬で完全に静止した。

 扉を叩く音も、犬のような荒い鼻息も、すべてが嘘のように消え失せる。

 静寂。

 次の瞬間だった。

 バキバキバキッ!!!

 悍ましい骨折音が資材室に響き渡る。

 ネイたちの身体は物入れを向いたまま、その首だけが、あり得ない方向――真後ろに向かって、肉をねじ切りながらグルリと一回転した。

 背中に向かってへばりついた顔。その反転した視線のまま、三人の怪物は弾かれたように走り出した。

 バタバタバタバタッ!!

 首を真後ろに折り曲げた奇形の影たちは、猛烈な速度で資材室を飛び出し、音が聞こえた闇の彼方へと去っていった。

 遠ざかっていく悍ましい足音を耳にしながら、アフォンソは物入れの中で安堵の息を漏らした。

(……行ったか。頼むから、もう戻ってきてくれるなよ)

 外は完全に筒抜けの地獄だ。迂闊に動くより、奴らが完全に去るまで一度このまま隠れておこう――そう考えた、まさにその束の間だった。

 ギギッ……パキィン!

 不吉な金属疲労の音が間近で弾け、アフォンソの目の前にあるスチール製のドアが、いきなり前方へと傾いた。先ほどのネイの凄まじい体当たりによって、蝶番が完全に破断していたのだ。ドアは重力に従い、凄まじい質量を伴って床へと向かっていく。

(しまっ――!?)

 これが床に激突すれば、この静まり返ったリグの階層に、鼓膜を震わせるほどの爆音が鳴り響く。そうなれば、今さっき去ったばかりの怪物の群れが血相を変えて引き返してくるのは火を見るより明らかだった。

 アフォンソは反射的に、物入れの奥から両腕を突き出した。

 日頃から過酷な洋上リグの現場で肉体を極限まで鍛え上げていたことが、この瞬間に彼の命を繋いだ。押し寄せる鉄板の圧倒的な重量を、アフォンソは歯を食いしばり、割れそうなほど筋肉を強張らせて両腕でがっしりと受け止めたのだ。

「ぐ、うぅぅ……ッ!」

 喉の奥で押し殺した悲鳴が漏れる。アフォンソは全身の骨が軋むような重圧に耐えながら、膝を曲げ、倒れかかる重いドアをゆっくりと、慎重に、数センチずつ床へと下ろしていった。

 ト……、と、かすかな振動だけを残して、鉄板が床に横たわる。

 何とか、ドアが倒れることで生じるはずだった致命的な爆音を、未然に防ぎ止めることができた。

 マスクの奥で荒い呼吸を繰り返しながら、アフォンソは物入れから這い出し、周囲を素早く見回した。だが、すぐに絶望的な事実に気づく。もう、この部屋には隠れられそうな場所がどこにも残っていなかった。

 廊下に面している資材室の木製の扉は、ネイたちの突進によって無残に粉砕され、大人が優に通れるほどの巨大な穴が空けられていた。部屋は外の通路から完全に筒抜けの状態になっている。ここに留まり続けること自体が、もはや自殺行為だった。

 行くしかない。

 アフォンソは唯一の武器であるバールを、いつでも突き出せるような形で胸の前に構え、音を立てない足取りで前に進んだ。そして、粉々に破壊された扉の隙間から、恐る恐る外の廊下に顔を出す。

 右、左。

 非常灯の赤黒い光が頼りなく這う通路には、今はあの化け物たちの影はない。

 安全を確認したアフォンソは、バールを強く握り直すと、完全に闇に包まれた不気味な廊下へと、その身をゆっくりと乗り出した。

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