二巡目
見知った玄関。僕は…………
「おい! 何ボケっとしてる? 早く酒を買ってこい!」
振り向けば…………田代道次が立っていた。
………………抑えろ。抑えろ。抑えろ。
目的を履き違えるな。ルシアさんは殺人を犯した僕を転生させたことで堕天させられた。
こいつを殺せば……その二の舞だ。
「聞こえねえのか? 早く行け!」
僕は窓に目掛けて走り出す。
「おい! どこに行く!」
首元を掴まれたが、振り払う。
「バイバイ。お父さん。」
僕は迷うことなくその身を投げ出した。
風を切る音を感じながら、目を瞑る。
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身が覚めると、真っ白なドアの前だった。前回はこの景色を見て、愕然としたのを覚えている。天界なんて信じちゃいなかったからな。握りしめた手を開くと、そこには鈍い光を放つ宝石があった。おそらく、この宝石は廻天の時に感知できているなら、僕と共に時を逆行するのだろう。
「次の方どうぞ。」
「失礼します。」
真っ白なドアを開けると、机の奥にルシアさんが座っていた。涙腺を涙が通るのを感じた。
……………まだだ。堪えろ。涙の再開もルシアさんにとってはただの変質者になる。
僕は喉を通る言葉と湧き出る涙を押し殺す。
「少年。どうしたんだい? 席に座りなよ。」
「………はい。」
僕はルシアさんの正面に正座する。
「うーん。君はなんとも酷い人生を送ったようだ。それは君自身が一番わかっているだろう。そこで一つ提案がある。異世界。違う下界に転生してみないかい?」
「……お願いします。」
ルシアさんは優しく微笑む。
「じゃあ、少年。それにあたって一つ力を与えよう。どんな力が欲しい?」
あの時、ルシアさんが解毒しなければ、オリオスと言われたあの少年は助からなかっただろう。なら…………
「あらゆる物を解毒する力が欲しいです。」
「その願い、聞き届けよう。」
彼女がそう言うと、次第に僕の視界はぼやけていった。
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知った味だ。それでもやはり、この空気は美味しい。僕はゆっくりと目を開けて、辺りを見つめる。僕が転生した場所は前と変わらないようだ。
僕はゆっくりと歩き出した。
おそらく、もうルシアさんに危険が及ぶことはないだろう。そもそも罪人を転生させたから落とされたんだ。これで安心できる。
ふぅっと軽く息を吐く。これからは僕の人生だ。
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思ったよりもずっと早く森に着くことができた。森にはあの黄色の実もあるし、食料には困らないだろう。だが、あのナメクジに出会うことだけは避けなくてはならない。かといって慎重に進むのも本末転倒だろう。1人でいる中、できるだけ早く森を抜けなければ何が起こるかわかった物じゃない。
草木をかき分け、奥へ奥へと進んでゆく。
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所狭しと立っていた木も、だんだんと間隔が空いてきて、少し見通しが良くなってきていた。
「おい。兄ちゃん1人か? 持ち物全部置いてきな。」
………っ 木の裏から5人の追い剥ぎが出てくる。僕は咄嗟に身構えた。
あぁ。こいつらの存在をすっかり忘れていた。本当にまずい。今回は武装もルシアさんもいない……………
「兄貴ぃ。こいつほんとに何も持っちゃいませんぜ?」
「…………だな。」
ん? この展開は知らないな。追い剥ぎたちは見境なく襲いかかってきたはずだけど。
「兄ちゃん。もしかして一文無しか?」
「…はい。」
「よし! お前ら、武器を下せ。安心しな、兄ちゃん。貧乏人から盗む趣味はねえよ。」
何はどうあれ、深く息を吸って、吐く。ほっとした。でもだいぶ酷い言いようだ。
「兄ちゃん。その軽装でどこに行くってんだ?」
「ロクボクの街に。行くあてもなくて。」
「おぉそうか。なら一緒にくるか? 俺らもちょうどロクボクに戻るところだったんだ。」
予想外だが、それが安全だろう。それに、この人たちに少しついて行きたくもある。
「お願いします。」
「よし。決まりだ。さあ、ロクボクに行こう。」
頭らしきその男はニカっと笑った。
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「そういやぁ、自己紹介がまだだったな。俺はバンゼル。この一味の頭をやってる。」
「ヒイラギです。よろしくお願いします。」
「そこのヒョロっこいのがアルゼ、大柄の男がロバート、そこのちっこいのがリュッタ。そしてそこの半裸がジビィ。」
言われた通り、アルゼは確かにヒョロっこかった。それでもその眼光は鋭く、一番若々しい顔だ。緋色の髪に緋色のターバンを巻いていて、耳まで覆われていた。ロバートは巨漢というに相応しい男で、ルシアさんが最初に蹴り飛ばした人だ。リュッタは顔を布で覆っていて、目元しか見えなかった。確かに小柄だが、なんだかとっても目力が強かった。この人は多分ルシアさんが逃した人だろう。ジビィは頭はテカテカ、髭はストレート、そしてムキムキの上半身。これを変質者と言わずしてなんと言おう。
「兄貴ぃ。その言い方はねーでしょう?」
「悪いなアルゼ。それぐらいしか表現する方法を思いつかなかった。」
「えーと。ヒイラギだな。よろしく。」
アルゼは手を差し出す。僕はそれを握り、あつい握手を交わす。
「バンさん。あいにく仲間が増えたとこ悪いんだが、乾パンは残り3つですぜ?」
「あー。忘れてたな。すまねぇヒイラギ。今日の晩飯は乾パン半分だ。」
「いえいえ。連れていってもらえるだけ幸運です。なんならなくても大丈夫ですよ。」
僕はあたりに実った黄色い実を取った。
「礼と言ってはなんですが、どうぞ。」
……………そして沈黙が訪れる。
「……なぁ、ヒイラギ。俺らを信用できないのはわかるが、毒をもるのはどうかと思うぜ。」
アルゼは僕を呆れた表情で見つめる。
僕は一つとって口に放り込んでみせた。
やっぱり、うまいなこれ。
「ほぅ。なら一つ頂こう。」
バンゼルは僕から受け取り、ヒョイっと口に突っ込んだ。
「兄貴!」
「…………んーー問題ねぇ。食ってみろ。うめぇぞこれ。」
「………っ」
アルゼは恐る恐る受け取り、実を食べる。
「………う、うまい。」
ロバートもバンザルから受け取り、放り込む。
「………なんと……」
「ヒイラギ。一体何をしたんだ。こいつは猛毒のはずだろ。」
「解毒の加護です。」
一同顔を見合わせる。
「たまげたな、この実って、こんな美味かったんだな。」
ロバートがそう呟く。
「ヒイラギ。お前、解毒の加護なんて、珍しいもの持ってるな。」
ジビィが言う。
「珍しい物なんですか?」
「正しく言えば、珍しくはない。だが、お前はこの実を解毒した。これはありふれた中和の加護じゃ消し去れない猛毒だ。これほどの猛毒を持つものもそうそうない。お前の加護はあらゆる毒の分解かもな。」
「詳しいんですね。」
「実は俺は昔、魔法学校にいたんだ。才能がなくて、すぐに逃げ出しちまったがな。これでも筆記テストでは、ちょっとした優等生だったんだぜ?」
「………僕も学業はできた方できたほうでしたね。結局、その力を使うことはなかったんですけど。」
「お前も苦労してんだな。まあ、安心しろ、ここには人の過去を掘り起こそうなんて奴らはいねえからな。」
「ありがとうございます。」
ジビィは微笑んできのみをつまむ。
「おい! ヒイラギ! これ頼む!」
「わかりました! 今行きます。」




