改変
「ついたな。」
一夜明けて、僕はロクボクの街へ来ていた。
見張り番はノージスではなく、緑がかった黒髪の青年が立っていた。おそらく、前ここに来た時よりもだいぶ早いからだろう、見張りは交代制でノージスは今待機中なんだろうな。
「旅の方ですね、どうぞ、お入りください。」
………旅人である証明を求められなかった。なぜだろう?
門がゆっくりと開き、耳に入る人々の喧騒がだんだんと大きくなる。
「バンゼルさん。証明書みたいなのの提示ってしなくていいんですか?」
「必要だぜ。まあ、俺らはここの常連だしな。見せなくても入れてくれるんだよ。」
「なるほど、ありがとうございます。」
「ところでなんでそんなこと聞くんだ?」
アルゼが僕に問いかける。
「えーと、聞いた話だと、そういうのが必要って聞いたから。」
「ふーん。」
もちろん嘘である。
「つまらない嘘はやめときなよ、ヒイラギ。」
もちろんバレてたみたいだ。
「そう言ってやるなよアルゼ。」
「兄貴、でも嘘つきは信用されませんよ?」
「ほぅ、ヒイラギの身を案じてか。昨日の今日で丸くなったな。」
「なっそんなことないっすよ。」
アルゼは顔を赤くしてバンゼルさんの肩を叩く。
「とにかく、なんか食べましょうよ。昨日だって、乾パン半分とヴァルセリアの実しか食べてませんから。」
あの木はヴァルセリアというのか。この世界では、新しく学ぶことに退屈しなさそうだ。
「と、言うわけだ。俺らは今から飯を食いに行く。ヒイラギ、お前はどうする?」
「僕はやらなければならないことがあるので。」
「わかった。もし何か困ったことがあれば、酒場なんかで湖上の月と言ってくれ。少なからず力になると思うぜ。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
「ちょっと待ってくれ。」
アルゼが銀貨を3枚僕の掌の上に乗せる。
「実の礼だよ。受け取れ。」
「ありがとう。アルゼ。」
「じゃあな。」
アルゼは小走りでみんなのもとへ向かって行った。
●●●
僕はロクボクの街を出ようと門に向かっていた。少しくどい手口になるが、自然に僕が統治者宅に伺うにはノージスを経由するしかないだろう。彼が息を引き取るのにもおそらく時間もそう長くはない。
僕はダッシュで門へ向かっていた。
●●●
門を出ると、そこに立っていた見張りはまだノージスではなかった。外に出て、木陰に身を隠す。
正直なんでこんな変なことしてるのかわからなくなる。もっといい方法あっただろうって。なんとなく自分の心に問いかける。答えはわかる。僕は前と同じようにノージスと出会って、同じような関係になりたかったんだろう。だからこんなことをしてる。
門をチラリと覗くと、ノージスがあくびをしていた。
よし。僕は立ち上がり、門へと向かう。
「こんにちは」
「こんにちは、旅の方ですか?」
「はい。」
「何か証明するものはお持ちですか?」
「すみません、ありません。」
「正直で結構。お引き取り願います。」
「見ての通り、この一着しか持っていなくて、まともに食事も取れていないんです。一晩でいいので、中に入れくれてませんか?」
「だめだ。」
僕は階段を降りながら、わざと聞こえるように呟いた。
「またあの実を食って行かなきゃならないのか。」
「ちょっと待ってくれ。君、解毒の魔法が使えるのか?」
よし! 食いついた。
「魔法というか、加護ですけど………」
「わかった。少し待っていてくれ。」
そうノージスは言うと、門の中に入って行った。
よし。よし。ここからが正念場だ。
●●●
ノージスは少しすると戻ってきてこう言った。
「どうぞ、私についてきてください。」
僕はノージスについて行き、僕はもう一度この門をくぐった。
「ご依頼がございまして………」
「オリオスさんの件ですね。街の方に聞きました。」
「……! 話が早くて助かります。」
統治者の家は相も変わらず曲がりくねった道を進んだ先にあった。
ノージスは扉を開けて言う。
「お待たせしました! 解毒魔法が使えると言う者を連れて参りました。」
「さようか……早く二階にその者を連れてまいれ。」
言われた通り2階に上がると、ノージスは統治者のもとに向かい、僕は奥の部屋に行くよう言われた。開けられた扉の奥に、医師と苦しそうにベッドに横たわるオリオスくんがいた。
「状況は?」
僕は医師そう尋ねる。
「熱が出てから3日です。痙攣していて、呼吸も不安定で、意識がありません。」
「わかりました。」
そう言って、僕は男の子の額にそっと手を乗せ、目を瞑る。加護を得たことで、自然と使い方がわかる。禍々しく、淀んだものが彼の中に満ちている。それを振り払う。
「これで大丈夫です。彼の中にあった毒素を消し去りました。明日には目が覚めると思います。」
「嘘をつくな。早すぎる。達人の魔法使いでも手遅れだと見放したんだぞ!」
まあ。こうなるよね。
「なんとか言ったらどうなんだ!」
統治者は僕の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
統治者の威圧感があたりを圧倒する。
「ラングスさん! オリオスさんの呼吸が安定しました。」
医師が急いで告げる。
統治者は僕を離し、息子に駆け寄った。
僕は降ろされる時、思いっきり尻を打って少し痛みを覚えた。
そして統治者は口を開いた。
「ノージス。この方を宿へご案内してやれ。宿代はこちらで負担する。」
「はい! わかりました。失礼します。」
そう言って、見張り番は僕らの背中を押して、部屋から出た。
「すいませんでした。非礼をお詫びします。」
「大丈夫です。ノージスさんが謝ることじゃないですよ。」
「…………いえ。なんでもありません。」




