刻限
気持ちの良い朝だ。だが僕は一向に動く気にはなれなかった。昨日の夜は変人天使のせいで、夜中まで起きていたから、疲れが取りきれなかったのだ。あの後どうにか宿に戻れば、ルシアさんはいないし、ノージスは熟睡していた。あぁもーほんとに疲れた。低血圧のおかげで、体はだるい、頭は痛いでもう参ってしまう。だが、昨日のことをルシアさんに伝えなければならない。体を起こし、外を眺める。後2日か。
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僕は昨日と同様にノージスと街を歩いていた。今回はしっかりと目的を持っていることが前回と違うところだろう。
「ルシアさんはどこに行ってしまったんだろう。」
「さぁな。何か大切なことを伝えなきゃらならない。だったか?」
「うん。」
「なぁ、ヒイラギ。」
「なに?」
「ルシアさんのこと。何か隠してるだろ。」
「………………うん。」
「このご時世、人種差別とかがなくならないのは事実だし、それらを隠そうとすることは悪いことじゃないと思う。だけどさ。話してくれて、それで何か力になれるなら、俺はヒイラギたちの力になりたい。会って数日だけどさ、俺はもう、ヒイラギたちが大事だよ。」
「わかった。ノージスはさ。ルシアさんが天使だって言われて信じられる?」
「………普通は信じられないと思う。でも、ルシアさんがオリオスくんの毒を解毒したのは事実だ。信じるよ。ヒイラギ。」
「ありがとう。ルシアさんは天使なんだけど今はその力を失いかけてて、命を狙われているんだ。」
「なるほど。俄かに信じがたい話だけど、命を狙われてるってのはロクボクの時の追手のことじゃなくて?」
「うん。ルシアさんの命を狙っている奴は明後日に来るらしい。それを伝えなきゃいけないんだ。」
「わかった。ルシアさんを探そう。」
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「お兄さん方。人探しかい?」
少し戸惑いながらも振り向くと、昨日、広場で魔術を披露していた子がいきなり声をかけてきた。昨日は遠目でよく見えなかったが、綺麗な顔立ちに紫色の瞳をしていた。
「君は昨日の」
「そうそう。お兄さん方は私のパフォーマンスを見てくれてたでしょ?」
「覚えてるのか?」
「そりぁ、見にきてくれた人の顔ぐらい、数日で忘れませんよ。で、何かお困りで?」
「僕らは金髪のこ……子供を探してるんだ。少しクセのあるショートヘアの。」
「わかりました! お任せください!」
胸を叩きながらそう言うと、一つの本を取り出し、広げる。
たちまち本からはいろいろな鳥たちが飛び出していく。
「この子達が探してくれるので、もう安心です!」
「ありがとう。」
「あっお礼は結構ですよ。困ってる人を助けるのが私の人情ですから!」
「ほんとにいいんですか?」
ノージスがそう尋ねると、彼女は頭を落とした。
「………………………もしよければ、食事を恵んではいただけませんか? 昨日から何も食べてないんです。」
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彼女は大胆かつも上品に2人前を平らげた。
「いや、ほんとにありがとうございます。これで2日は持ちそうです。」
「いえいえ、僕たちも手伝ってもらってるしお互い様ですよ。」
「とこで、兄さん方のお名前を伺ってもよろしいかい? 私はレイノア。レイって呼んでね。」
「僕はヒイラギ。」
「俺はノージス。」
「よろしく………………あ! 見つけました。西区中央の灯台にいます。私はこの後、お仕事に行かないといけないからついていけないんだ。」
「わかった。ありがとう。」
「じゃあ、またね。」
レイノアは手を振りながら去って行った。
「さて、行くか、西の灯台に。」
僕たちは店を出て、歩き出した。
「ノージス。西の灯台ってどんなところなんだ?」
「本来は魔物から街を守るための設備なんだけど、このあたりは平和すぎて、ほぼ機能していないんだ。」
なるほど。ルシアさんは次代カルナを接近を警戒するために、灯台にいるのか。
「急ごう。多分ルシアさんはその追手に警戒してるんだ。」
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西区は不気味なほどに静かだった。
「なぁ、なんでこんなに静かなんだ?」
「中央区の広場に帝都騎士団が来るから、その見物だろうな。」
「へ〜。」
西の灯台は高く、細く、何より古かった。これはこの地域が平和なことの象徴のようにそびえ立っていて、一部石垣が剥がれていたり、長いこと放置されているようだった。
「ちょっと、2人ともここで何やってるの?」
振り返るとルシアさんがそこに立っていた。
「ルシアさん! 探しましたよ。」
「ん? なんで?」
「そもそも昨日の夜からいなくて心配しましたし、例の追手は明後日に来ます。だから今はまだ気張らなくて大丈夫です。」
「ツァイトから聞いたんだね。わかった。」
ルシアさんは肩を落とし、軽く息を吐いた。
「さっ、もう宿に戻ろ………………
「ヒイラギ!ルシアさん!避けろ!」
ノージスがただならぬ顔で叫ぶ。
「待って!ノージス。何が!」
ノージスは僕とルシアさんを突き飛ばした。その刹那。赤い爆炎がノージスを襲う。激しい轟音が響き、熱風が身を焦がす。
「………っ! ノージス!」
「ヒイラギくん逃げるぞ!」
「ルシアさん! でも、ノージスが!」
「つべこべ言うな! 早く逃げるぞ!」
ルシアさんは僕の手を引いて、走り出した。
「追え! 犯罪者を逃すな!」
振り返ると、そこにノージスはいなかった。代わりに何人もの白衣の騎士が、僕たちを追ってきて来ていた。
「シュルセイン!」
ルシアさんはそう叫ぶ。その瞬間、彼女の手のひらから眩い閃光が走り、騎士団を吹き飛ばした。
「今のうちに。急ぐよ!」
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灯台から離れて、僕らは路地裏にいた。
ポタポタと雨が降り始めて、頭が痛くなってきていた。
「あれは帝都騎士団だね。多分、ロクボクの暗殺事件を私たちのせいにして、派遣させたんだろう。」
「ルシアさん。ノージスが……」
「諦めろ。あれは憤怒の獄炎だ。ノージスはもうこの世にいない。」
「………わかりました。」
「クヨクヨするなよヒイラギくん。気を抜けば私たちも殺される。」
「………どうしてそんなことを言えるんですか?」
「ノージスの死を無駄にしないためだ。」
「…………悔しくないんですか!?」
ルシアさんは僕の胸ぐらを掴んで言った。
「悔しくないわけないだろう! 出会って数日の私たちにあそこまで尽くしてくれて、そして君の親友だったんだぞ。君が一番よくわかってるだろぅ?」
「……………っ」
何も言えないさ。ノージスは………僕たちのために…………
「いたぞ! 逃すな!」
「…っ クソ! ヒイラギくん立て! 逃げるぞ!」
ルシアさんは僕の手を引いてくれた。
「ほら!早く……………
3人の白衣の騎士が雄叫びをあげながら突っ込んできた。
「リヴィアロント!!」
ルシアさんがそう唱えると、あたりに神々しい光が漏れ出し…………………爆ぜた。
閃光で目が焼かれ、耳鳴りが治らない。
僕は爆発で吹き飛ばされ、床に転がっていた。這いつくばってかろうじて顔を上げる。
あたりの建物は爆発で木っ端微塵になっていて、焼けこげた匂いが鼻を刺す。近くにはルシアさんも転がっていた。
「ルシアさんっ! 」
「……っ。そう焦るな……ヒイ…ラギくん。」
ルシアさんの腹から剣が伸びていた。
それでも彼女は引き攣った笑いをする。
「ルシアさん! 剣が………」
「またあいつらが…来る前に…手を。」
僕は彼女の手を取る。
「………ごめんね……加護を君には渡せなかった………だから……」
彼女の手から、黄色い宝石が落ちる
それと同時にルシアさんの髪が黒く染まって行く。
「…………この宝石を握れば…………私の力が使えるからね……生きて………ここから逃げて。」
「ルシアさんは………」
「……行け!……いいから行け! 私に構うな!…………」
彼女に背中を押し出され、僕は振り向かぬようにと走り出した。
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ヒイラギくんは逃げられたかな。もう何も感じない。刻限だ。私は目を瞑る。
あぁ 短かったけど、案外悪くなかったよ。
ごめんな、ツァイト。お前の気持ちに答えられなくて。気づいてはいたんだよ。でもこの関係が崩れるのが怖かったんだよ。ごめん
ごめん。ヒイラギくん。君の助けになれなくて。私は君と私を重ねてたんだ。自らの思い描いた人生を歩めない。長らく何も持っていなかった私と君を……………………




