第56話
「おめでとうございます!」
ジストに乗って、昼すぎにバートン家に着いた二人を出迎えたのは、屋敷で働く者全員による出迎え。
「・・ありがとう!僕、僕は、幸せだ!!」
感動に言葉を詰まらせるルイスに、使用人一同は、戸惑いの表情を見せる。
「あの・・ルイス?この方たちは、私たちの先ほどまでの会話はご存知ないのでは?」
セシルが尋ねると、ルイスはん?となったあと、いろいろと察する。
「ああ!セシルの誕生日の!そうか!」
一人の女性が一際大きなため息をついて、進みでた。
「こんにちは、セシルさん。私はバートン家長男の妻、フィネル・バートンです。ルイスさんの大事な方の誕生日をぜひ、お祝いしたくて、みんなで準備しましたの。お付き合いくださいます?」
セシルは恐縮してしまう。
「あ、いえ、そんな・・おもてなしいただくほどの者では・・。」
「いいえ!」
きっぱりとそれを遮るフィネル。
「あの!ルイスさんが!お見合いはすっぽかし、仕事も適当、アリシア姫の誘いまでも袖にしていたあの!ルイスさんが!やっと執着した女性ですもの!セシルさんは、我がバートン家の希望なのです!」
(ルイス、めちゃくちゃ心配されてるのね・・。)
ルイス単体に振り回されてきたセシルとしては、ルイスの家族は新鮮に見える。
「まあ、私としたことが!旅から帰られたのにこんなところで立ち話なんて!さあ、みんな、支度を始めましょう。」
口を挟む間もなく、セシルの荷物は丁重に、有無をいわさず預かられ、『支度』のためにいざなわれる。
「あれ?ねえ、フィネル。僕、大事な報告が・・あれ??」
ルイスも同じく連れていかれ、セシルはなんとなく、(バートン家って、逆らわない方がよさそう・・)
という勘に基づき、大人しく身を委ねた。
たっぷりと湯の張られたバスタブに体を沈め、大きく息をつく。
(なんだか、緊張する・・。)
出発前に、バートン家でのお誕生日会の話は聞いていた。断ることは不可能そうだったので、了承したが、決まってしまえばちょっと楽しみではあった。
だが、ちょっとばかり状況が変わった。
(さっき、プロポーズを正式に受け入れたのよね?)
夢だったのではないかと思ってしまう。でも、現実だ。つまり、近い将来家族になる人たちとの対面。
こんなに呑気にお風呂を堪能していてよいのだろうか?
「セシル様?そろそろ・・・。」
考え事のせいで、声がかからなければのぼせてしまうところだった。間一髪、セシルは無事に風呂をあがる。
(もう、考えてもしょうがないか。)
結局観念したセシルは、そのあと、素直に磨き上げられ、ドレスアップされた。
バートン家の食堂で、ささやかなパーティーが開かれる。身内だけの会。でも、めいめい着飾り、テーブルのしつらえも華やかだ。
「お誕生日おめでとうございます、セシルさん。」
当主のグランの声で、屋敷の人が口々にお祝いを述べ、晩餐会が始まる。
皆、雰囲気は温かく、始めは緊張していたセシルも、徐々に打ち解けた。
(素敵な方たちね。なんだか、やっていけそうな気がする。)
そう思った時、先ほどから物言いたげにしていたフィネルが、切り出した。
「もう、隠してもいないようですから言うのですが、ルイスさんの一方的な片思いから、お二人には進展があったのでしょうか?」
その場に緊張が走ったのがはっきりわかる。皆が固唾をのんで返事を待っていることも。
(そこからなら、ちゃんと順番に説明した方がいいよね?)
「あの・・。」
だが、そんなセシルの考えは、被さってきたルイスの声でかきけされる。
「僕とセシルは、もう、結婚を決めた!心配いらないよ!!」
満面の笑みで堂々と宣言するルイス。
だが。
バートン家の人々の反応は、沈黙・・からの。
「申し訳ない!セシルさん!今のは聞かなかったことに!!」
グランからの、全力の謝罪、だった。




