↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソティラス (前編)  作者: 明智 倫礼
PR
12/19

明かりの消えた街

 最後の遺跡、ステマ遺跡。ギギガが泉ーーワープゾーンへと消えてから、五ヶ月が経過しようとしていた。


 アルフは朝を迎える度、今日こそ、じいちゃんは戻って来る! そう信じて、毎日を送ってきたが、戻ってこないのでは? という想いが、彼の心をじわじわと侵食し始めていた。その度、アルフは頭をぶんぶんと大きく振り、戻って来る‼︎ と信じ続けた。


 遺跡前のゴツゴツとした岩場で、マジョルカが暮らす街の方をぼうっと眺めている。彼女との電話は相変わらず、毎日続いていた。その会話から、闇目病が広がり続け、とうとう街の灯りはひとつもつけられなくなったそうだ。


 アルフは岩の間から生えている草をむしり取って、風にただ吹かれた。自分もマジョルカも、数ヶ月前までは、闇目病を治すと張り切っていたのに、今はそれが叶わない。あの元気はもうどこにもなかった。


 ギギガの残していった荷物が視界に入って、ある考えが、アルフの中で膨らんでいく。ギギガは死んだのかもしれない……。彼との思い出が走馬灯のように浮かんでは消えてゆく。この世界のいたるところにある、遺跡をまわり、希望に満ちていた日々。


 アルフは目頭が熱くなり、視界がゆがんだ。ギギガが作ってくれた弓矢を抱きかかえて、弦を引っ張っては離すを繰り返し始める。祖父とともに信じて、ここまできた。エガフォスに闇目病を治す水があるという仮説は、間違いだったのか。自分で確かめに行こうと、泉の縁に手を何度かけたことか。その度に、薄暗い部屋で一人過ごしているマジョルカを思い出して、思い留まった。


 病気のマジョルカを想って、アルフは弱音を吐かなかった。他の人と会うことのない時間が長すぎた。アルフの心は弱っていたのだ。もう限界だった。アルフの頬を一粒の涙が流れていった。持っていた弓矢を、地面へ放り投げた。マジョルカを思い浮かべ、携帯を意識化で操作する。スリーコールで、


「もしもしーー?」


 マジョルカの明るい声と笑顔が映し出された。間髪入れず、


「アルフ、今ね、マントの実験ーー!!」


 彼の様子がおかしいことに、マジョルカは気づいて、言葉を止めた。アルフの何かをぐっと堪えている顔が気になった。


「どうしたの?」


 彼の顔は悲しみで歪み、涙が瞳に溜まる。


「…………」


 うつむいた彼から、次々と涙がこぼれ落ちてゆく。


「…………」


 マジョルカは何も言わず、アルフが落ち着くのを待った。しばらくして、彼は深呼吸を何度もし、心を落ち着かせた。


「ずっと……じいちゃんのこと待ってたけどよ……」

「うん」


 マジョルカは優しくうなずく。アルフは目を強くつぶり、今までの不安を一気に吐き出した。


「じいちゃん……もう、戻って来ねえんじゃねえかと思って」


 ギギガの小さな背中が、闇の中に吸い込まれていくのが脳裏に浮かんだ。


「…………」


 マジョルカは励ますことができなかった。五ヶ月も一人で待ち続けたアルフに、どんな言葉をかけていいのかわからず、黙っていた。


「死んだ……のかもしれねえ……」


 そもそも、ギギガはエガフォスにたどり着けたのだろうか。それさえも、疑問になっていた。道が開くのが同じように、十五日と三十日なら、もう戻ってきてもいいはずだ。五ヶ月も過ぎているのだから。アルフが待っていることも重々承知だ。


 それなのに戻ってこない。物言わぬ亡骸に成り果てたのかもしれない。その考えばかりが浮かんできた。


「…………」


 マジョルカも同じことを思っていた。アルフの出した可能性が、ゼロだとは言い切れない。彼女も何度か考えたりしたが、その度、打ち消し、アルフと楽しく話す日々を送ってきた。彼女は寂しげに微笑んで、


「一度戻ってきたら?」

「…………」


 アルフは視線を横へずらし、黙っていた。今日までずっと待っていた。闇目病の人たちを救いたい。それなのに、ここで戻るわけにはいかない。


 迷い続けて、答えを返してこないアルフの心中を察して、マジョルカは急に大人びた瞳になって、


「まだ、そうと決まったわけじゃないでしょ?」


 アルフを励まし始めた。マジョルカのやっていた研究も日々こんなものだ。仮説を立て、研究を重ねる。結果が出ないことなんて、当たり前で、途中で投げ出したくなる時も数え切れないほどあった。だが、ここは一度態勢を建て直す時だと彼女は思った。


「あなたが少し疲れただけよ、戻ってきたら? おじいさんを探す方法を一緒に考えましょう!」

「…………」


 アルフはそれでも、留まろうと、待ち続けようとしていた。


 店も家もない、岩だらけの荒野で、吹き付けてくる風をまともにくらい、よろめく日々。川があまりなく、蛍もいない、暗闇の毎日。林に出かけて行っては、獲物を狩り、それを一人きりで食べる。とうに疲れてきっていた、心も体も。家族とマジョルカの元へ帰りたかった。長い沈黙のあと、うつむいたままアルフの口が動いた。


「……だな」


 電話を切り、アルフはギギガ宛に手紙をしたためた。


『じいちゃん、家に帰ってる』


 アルフは書き終えた手紙を、遺跡の中へ置き、風で飛ばされないよう重しの石を置いた。ギギガの荷物は、いつ戻ってきてもいいように、遺跡の中へ整理した。


 使い古したリュックを背負い、遺跡の方をしばらく眺めていた。夢いっぱいで、遺跡巡りの旅へと出て、古代文字を解読し、闇目病を治す手立てをやっと見つけた。それなのに、ギギガを一人置いて、自分は帰ろうとしている。


 だが、マジョルカの言う通り、今が潮時かもしれない。アルフは遺跡に背を向け、オクト地区へと一人歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。