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番外編 ある合唱サークルの一コマ

「――いざ、覚めよ……っ♫」

放課後の音楽室に、怜司さんの驚くほど澄んだ美声が轟き渡った。

談笑していたサークルメンバーたちが、驚いたように一斉にそちらを振り返る。

普段の地声はあんなに低いのに、どうして男の人からこんなに高くて綺麗な声が出るんだろう。

オペラの歌なのかな?

地を這うようなバスパートの重厚なコーラスを従えて、一人センターで朗々と声を響かせる怜司さんの姿は、まるで数多の騎士を率いて戦場に立つ英雄のようだった。

「――その長き眠りより、今、覚めよ……っ♫」

ふと見ると、怜司さんがもの凄く苦しそうな表情かおをしていた。

あぁ、きっとこの曲の主人公は、本当は戦いたくないんだ。立ち上がりたくなんてなくて、ただ静かに平和を享受したい優しい人なんだ。だけど、愛する人や国のために、傷つくことを覚悟で、無理をしてでも立たなければいけない――そんな悲劇の英雄なのかな。

怜司さんの切なげな表情に、私はすっかり感情移入して胸を締め付けられていた。

「――立てよ、いざ、立テヨォオ――っ」

ピキッ。

次の瞬間、音楽室の空気を引き裂くような音を立てて、怜司さんの声が派手に裏返った。

ジャン、とピアノの伴奏が文字通りズッコケるように止まる。

怜司さんはしばらく耳までワナワナと震えていたが、やがて、

「……無理だ」

と、蚊の鳴くような低い地声でぽつりと言い残し、そのまま譜面台の陰へと沈んでいった。

周りの先輩や同期たちは、あまりに日常茶飯事の光景なのか、「あ、またやってるわ」と言わんばかりに、何事もなかったかのように自分たちの練習へと戻っていく。

「……怜司さんでも、出ない音ってあるんだなぁ……」

ぽつりと呟いた私に、隣でポテトチップスを引ったくっていた彩花先輩が、ジト目で信じられないものを見るような視線を向けてきた。

「みうちゃん。そのセリフ、世界中のプロのオペラ歌手に正面からケンカ売ってるわよ……。ハイCってテノール歌手の命綱だからね?」

「え、そうなんですか?」

「そうよ。あとさぁ……」

彩花先輩は、譜面台の陰で魂が抜けたように項垂れている大男を指差した。

「その、あいつに対する『過大評価癖』、そろそろやめてあげて。今のあいつの顔、悲劇の英雄でも何でもないから。ただ昨日、YouTubeでプロの動画見て『これ俺もいけるんじゃね?』って調子乗って喉ちんこ飛ばしただけの、ただのバカだから」

「うぐっ……」

胸に鋭いトゲが刺さる。

……私、やっぱり、大好きな人のことをちょっと美化しすぎちゃってるのかな?

恥ずかしさで顔を赤くしながら、私は遠くで「……もう一回、頭から……」と、懲りずにリベンジしようとして彩花先輩に「喉壊すからやめろ!」と怒鳴られている怜司さんの姿を、やっぱり少しだけフィルターがかった目で見つめ直すのだった。


何となく思いついたネタをGeminiさんが一発で決めてくれました。私自身がクスリと笑ってしまうくらいに。


作中歌はGeminiさんによると『誰も寝てはならぬ(Nessun dorma)』だそうです。そうだったんだ…。

正解はとある聖歌です。最初聞いた時の私に浮かんだイメージは「立てよ国民!ジークジオン!!」でした。実は「神の愛を知って目覚めなさい」という歌でした。何でジークジオン!!と思ったのかは当時の自分しかわからないです。でもメロディラインが無駄にかっこいいんだよなぁ…。

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