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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
ドラスニト王国編

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62 「生きた人形と呼ばれる皇女」⑨

短めのデート回。

 ドラスニト王国首都ドラグレアの貴族街にルピナスとジェレミー、そして護衛騎士のトリシャは立っていた。

 目立つ容姿のルピナスとジェレミーは色変えの魔導具を使っている。特にルピナスは髪の毛の色と目の色がかなり目立つので、茶色の髪の毛に見える髪留めと、目の色を誤魔化すメガネをかけていた。

 それだけでちょっとした貴族のお嬢様のお忍びにまで抑えられるのだから、トリシャとしてはやはり髪と目の色の印象はすごいな、と思うのだ。


 踝までの長さの、ボリュームが少ないモスグリーンのワンピースに編上げのブーツという格好を帝国でした事の無いルピナスは、何度も足をパタパタとさせていて、同じく茶色の髪の毛に変わった頭にキャスケット帽を被り、シャツにループタイ、トラウザーズと言ったシンプルな格好をしたジェレミーはそんなルピナスの姿に悶えていた。


「ジェイ様。お嬢様が可愛いのは分かりますが落ち着いてください」

「ああ、うん、そうだね。ありがとう、声を掛けてくれて」

「トリィったら。ジェイ様は何時でも冷静なお方よ?」

「お嬢様以外のことでしたらね」


 何だかんだお互いに思いあっている二人なので微笑ましいのだけれど、恋愛に興味が無いとは言えども充てられるのは辛いんですけど!と内心で嘆くトリシャの声など知る由もない二人は、馬車から降りると何処へ行こうか、と話をしている。


 公爵家でのお茶会を済ませた二日後。約束通りルピナスとジェレミーは王都デートを遂行しようとしていた。

 帝国ですらあまり出歩こうとしなかったルピナスの活動的な様子に、トリシャは感動していた。そんな彼女の今日の格好は騎士服ではなく、ルピナスに合わせた大人しいワンピースである。

 剣を腰には携えられないが、魔石付きの指輪に収納魔法を付与しているのでここから剣が取り出せるようになっている。

 他にも至る所に護衛は潜んでいるが、行き交う人々に混じっていて誰がそうなのかは分からないようになっていた。


「ルル様はどこに行きたいですか?」

「ダメですよ、ジェイ様。今日は呼び捨てで砕けた口調で話してとお願いしたじゃないですか」

「は、はい!じゃなくて……ルル、どこ行きたい?」

「ジェイ様のお勧めのお店に行きたいです」


 毒物の効かないルピナスはそれこそ買い食いなるものも出来るかも、と期待している。

 幼い頃にカルミアがお忍びで帝都におりてレーグを見つけた際、串焼きが美味しかった話を聞かされたことがあった。

 今まで興味はなかったのだが、王都デートをするに当たってリサーチをしたところ、平民などは買い食いは当たり前で、串焼きの屋台はそれなりに出ているのだという情報を得ている。


「侍女に聞いたのですが、お慕いする方との王都デートは楽しいそうです。私もジェイ様とのデートを楽しみたいです」

「はぅ」


 トリシャは可愛らしく微笑む主の言葉に心を貫かれたジェレミーを見て、今のは仕方ない、と同情した。

 惚れ込んでいる相手にお慕いする方とのデートと言われたらそうなると分かる程度には、トリシャも乙女心くらいはある。


「お嬢様、ジェイ様。そろそろ移動を致しましょう」

「そうね」

「ああ。じ、じゃあ、ルル。手、手を繋ごうか」

「はい」


 エスコートの為に手を乗せる際でも皇女は基本的にグローブを付ける。しかし、今の彼らはお忍びスタイルで、グローブなどない。

 つまり、ジェレミーは婚約して始めてルピナスの布越しではない生身の手に触れるのだ。

 しかも、重ねるのでは無く手を繋ぐ、握る。それは初恋がルピナスのジェレミーにはとてつもない冒険であった。

 繋ぐ前にハンカチで手のひらの汗を拭っているのは仕方ないにしても、ここまで緊張するものなのかなぁ。とトリシャは思うが、ジェレミー自身が大公令息、かつ、皇女の婚約者ともなれば他の令嬢と接する事はまず出来ない。

 経験値がないからかー、と納得する要素はいくらでもあった。


 それはさておき、ジェレミーが恐る恐るルピナスの手を握ると、ルピナスは嬉しそうに微笑んだ。


「男性とこのように手を繋ぐのは幼い頃のお父様とのお散歩以来です」

「そうなの?」

「はい。お兄様方とは歳も離れているので、お散歩は基本的にお母様か侍女とで、ごく稀にお父様ともしたくらいです」

「忙しいから仕方ないね」

「ええ。でも、楽しい思い出です」


 父は多忙な中でも皇后や側室、そして子供たちとの時間は少しだけでも捻出していた。ルピナスはとにかく大人しい子供だったので、カルミアよりは手間がかからなかったと思う。


「今から向かうのは、若い令嬢に人気という雑貨店だよ」

「ふふ。誰に聞いたのです?」

「妹だよね。流石に女性の好む場所を男の俺が知ってるのはおかしいだろう?」

「ですね。楽しみです」


 そうして辿り着いた店には楽しそうに商品を眺める令嬢達がいた。

 ルピナスは眼鏡をかけているし、髪の毛の色も変えているけれど、顔自体は変えていない。その為、可愛らしいご令嬢の来店に店内にいた者たちの軽やかな言葉は止んだ。

 それにあえて気付かないふりをしながら、ルピナスは「ルル」と言う街歩き用の人物になりきってジェレミーを見上げた。


「ジェイ様。私に似合うリボンを選んで欲しいです」

「いいよ。そうだね、ルルは可愛いから、これとかどうかな」


 ジェレミーが選んだのは、淡い明るい黄緑色の布地の端に黄色の糸で刺繍が施された可愛らしいリボンであった。


「可愛いです。ありがとうございます」

「ううん。俺が持つから」

「はい」


 二人だけの世界を作っているせいもあり、周りはようやく声を出し始めた。それでも視線は吸い寄せられるようにルピナスに向かっていた。


 それから二人はカフェに行ったり、屋台で熱々の串焼きを食べたりなどして、滅多にできることではない王都でのデートを満喫したという。

次回から王宮でイゾルデと対決する予定なので、その前にほのぼの回

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