78.クレーンゲーム
「凄い勝負だぞ‥‥‥」
「どっちもレベルが高すぎる‥‥俺達、凄いのを見てるな‥‥」
そんな周りからの声が微かに聞こえるが、俺は今それどころではない。ランダムに決められた曲は、俺がほとんどやったことが無い曲だ。正直、かなりギリギリの戦いになっている。
「ラストのサビに入るぞ!」
その誰かの一言で、周囲の熱量は頂点に達する。他のゲームをやっていた人や、従業員まで俺達の方に目を向けている。そして遂に音楽は終わりを告げた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥どうだ!?」
俺はそう呟きながらゲーム画面を見つめる。お互いのポイントが加算されていき、やがてその数字の上昇が止まる。そして結果は‥‥‥
「勝った‥‥‥?」
俺のポイントが僅かに相手を上回っていた。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
突如湧き上がる歓声に、俺は思わずビックリしてしまう。
「負けたかぁぁぁぁぁ!!!」
そう言って対戦相手の男性は頭を掻きながらゲーム台から降りた。そして自販機の前まで行くと、俺の方を向いて口を開いた。
「さて、約束だ。何が飲みたい?それともアイスがいいかい?」
「じゃあ‥‥コーラで」
「ほいほい」
男性はスマホをかざしてからコーラのボタンを押した。
「いやぁ、ナイスダンスだったよ少年!また機会があったら勝負しような!」
「はい!また勝負しましょう!」
俺がそう返事をすると男性は満足そうな笑みを浮かべてその場を後にした。そしてそれを見ていた群衆は再び大歓声をあげる。
「うぉぉぉぉ!!二人ともすごかったぞ!!」
「またリベンジさせてくれ!!」
「少年!俺ともヤラナイカ?」
俺はその歓声に悪い気はしないが、何だか気恥ずかしく感じてくる。それになんか変なのも混ざっていた気もしたのでその場をさっさと離れようと出口の方に歩き出した時、ふと見慣れた人物が群衆の中に紛れていたのが見えた。
「え、鋼沢さん‥‥?もしかして見てたの?」
「うん、復音君すごかった」
何だろうか、知り合いに見られていたと分かった途端に余計恥ずかしく感じてきた。
「鋼沢さんもゲームやりに来たの?」
「そう、クレーンゲームで猫二郎のぬいぐるみがあるって聞いて来た」
どうやら響は猫二郎が好きで、それを求めてやって来たようだ。因みに、猫二郎とはここ最近話題となっているラーメン屋の格好をした猫のキャラクターである。
「なるほど‥‥それで取れた?」
俺がそう聞くと、ゆっくりと首を横に振った。
「無理だった‥‥惜しいところまで行くんだけど」
「因みにそれってどの辺にある?」
「あっち」
そう言って響は店内の奥の方にあるクレーンゲームをの方を見た。
「よっしゃ!どうせ暇だし、やってみるか!」
俺はお金を両替してから件の機械の前に立った。響も横でその様子を見ている。
「結構でかいな‥‥でもまぁ、何とかなるでしょ」
俺はお金を入れ、慎重にアームを操作していく。ぬいぐるみを見てみると、腕と胴体の間が極めて小さく穴が開いているのが見える。そこにうまく刺せれば、安定して取れる気がする。
「おお!刺さった!」
うまくアームが狙った場所に刺さり、響がそう声を上げる。このままうまく行ければ取れるはずだ。
「いけ‥‥‥耐えろ!」
「ゴクリ‥‥‥」
俺と響が見つめる中、猫二郎は宙を移動してついに穴の真上へと辿り着く。そしてアームが開くと同時に、猫二郎は穴の中へと落ちた。
「よっしゃぁぁぁ!!」
「おおお!!!」
俺は思わずそう声を上げて、ぬいぐるみを取り出した。そして響にそれを手渡した。
「え‥‥?いいの‥‥?」
「ああ、欲しかったんだろ?」
「そうだけど‥‥復音君が取ったのに‥‥」
「まあ、俺はゲームを楽しめて満足だから。貰ってくれ」
「おお!!感謝!!大事にする!!」
そう言って嬉しそうにぬいぐるみを抱える響の姿は、今の俺にはなんとも刺激が強い。
(春海のときは何とも思わなかったが、こっちで見るとまじで可愛いなこいつ!!)
小柄な見た目も相まって、ぬいぐるみを抱きしめている姿は反則級である。
(雑念退散!雑念退散!雑念退散!)
俺が心の中で邪念と大戦をしていると、響が突然お腹をさすり始めた。
「お腹空いた‥‥」
「え?あ、ああ‥‥もう昼だもんな。何か食べに行くか!この近くの地下道に美味い天ぷらの店があるらしいんだよ」
「おお‥‥!天ぷら‥‥!楽しみ!」
こうして俺達はゲームセンターを出た。しかしこの光景は端から見ると‥‥‥この後、それに気づいて精神的に悶える事になるのは言うまでもない。
「ここだ!」
俺は駅前の地下道にある、とある店を指差した。
「都内の老舗の天ぷら屋で修行した人が新しく始めたんだってさ。一度来てみたかったんだよ」
「おお!!」
この店は今日の目的の一つで、テレビやネットなどで話題になっていて気になっていたのだ。
「いくか!」
「うん!」
俺が意を決して扉を開けると、中から「いらっしゃいませー!」という元気のいい声が聞こえてくる。そしてすぐに店員がやって来た。
「いらっしゃいませ〜何名様でしょうか?」
「二名です」
「かしこまりました〜こちらへどうぞ〜」
店員に案内されて席に付き、メニューを見ながら店内を軽く見回した。
(落ち着いた雰囲気の中で上品さを感じさせる内装とかなり拘っているように感じる。妙に緊張するな‥‥響はどうだろう?)
俺は正面に座る響を見ると、メニューを真剣な表情で見つめていた。
「どうだ?決まりそうか?」
「ん〜‥‥中々に難しい‥‥全部美味しそう‥‥復音君と同じのにしようかな」
「じゃあ、天丼にしようかな。ここの店の天丼は日によって上の天ぷらが変わるんだってさ」
「おお‥‥つまり来るまで分からない‥‥!ワクワクする!」
「んじゃあ決まりな。すみませ〜ん」
俺は店員さんを呼んで天丼を二つ注文した。
「「おおおお!!!」」
目の前に置かれた丼ぶりに、俺達は揃って声をあげる。太くて存在感のある海老やキスを初め、茄子やシシトウなどの色鮮やかな野菜や椎茸など様々な天ぷらが丼の上に鎮座し、食欲のそそる香りを立ち昇らせている。
「これは‥‥予想以上だな‥‥」
「食べるのが勿体無いくらい‥‥」
そう言いながら俺達はゆっくりと箸を持ち、一緒に海老を口にした。
「「〜〜〜〜!?!?」」
プリッとした海老の味とサクッとした衣の絶妙な食感に、俺達は声にならない声をあげる。
「今まで食べた天丼の中でダントツの旨さだ!」
「うん!美味!!」
そして二人は無我夢中で天丼を食べ進め、あっという間に食べ終えた。




