75.罪
「ハァァァァ!!!」
『グルァァァァ!?!?!?』
私の上空からの奇襲に、魔物は一切の抵抗もできずに悲鳴を上げて息絶えた。
「これで二匹目‥‥司令部、次の目標は?」
『その場所から200mほど南に反応あり。また、新たに複数の魔物が戦線を突破した』
「了解!大体の数は?」
『現在正確な情報を収集中ではあるものの、判明しているのは5体』
「了解!」
私は急いで次の場所へと向かう。休んでいる暇はない。私が立ち止まれば、その分被害が出る確率が跳ね上がる。自分でも焦りが出て来ているがわかる。
「見つけた!」
私は先程同様、高度を上げてから魔物めがけて一気に落下する。これで、不意をついて攻撃できる。
「芸のない脳筋思考ではあるけど‥‥確実だ」
私の能力は、対象が受ける重力の影響を自在に操るという物だ。正直、自分でも分不相応な能力だと思う。やろうと思えば広範囲の対象を拘束したりする事も、対象を自在に浮かす事もできる。そして使い方を間違えば、辺り一帯を崩壊させる事もできる。
「ハァァァァ!!!」
『ギゲェェェェェ!?!?』
見つけた魔物の息の根を止め、直ぐに無線で連絡をする。私が戦っている間に他の魔物がどこまで移動しているか分からない。時は一刻を争うのだ。
「司令部!次は!!」
『北東2kmに一体。あとは自衛隊によって討伐された。任務完了後は、別命があるまではその場で待機せよ』
「了解!」
どうやら、各地の自衛隊が頑張ってくれていたようだ。何にしても一大事にならなくて良かった。そんな事を考えながら私は最後の目標を追った。
「目標補足‥‥これより攻撃を‥‥‥ッ!?消えた!?」
私が今まで通り討伐しようと考えていると、先程まで目の前にいたはずの魔物は姿を消した。
「そんな!?確実にいたはず!?」
私は慌てて周囲を見渡すと、先程の魔物が私の後方にいることに気づいた。
「いつの間に!?クッ‥‥!こうなれば普通に戦うしかない!!」
このような動きをしてくるという事は、相手はこちらに気づいているに違いない。そうなれば、奇襲など何の意味もないため正面きって戦うしかない。
「ハァァァァァ!!!」
『キキ‥‥?』
「なッ‥‥!?」
私の剣の先が敵に触れそうになった瞬間、またもやその姿を消した。そして、私のすぐ横から攻撃が飛んでくる。
「速いッ‥‥‥!!」
コイツは今までの魔物とは何かが違った。一瞬で私の背後や横を取る圧倒的な速度に私は思考を巡らせる。
(普通に戦っていてはコイツはいつまでたっても倒せない‥‥なら、私の魔法を使うか?だが、ここは市街地のど真ん中だ‥‥‥)
私がそう悩んでいると、無線から声が聞こえてくる。
『こちらから見た限り魔物の反応は消えていないがどうなっている?』
「敵が反応速度が桁違いで‥‥私の攻撃が当たる前に避けられてしまい‥‥‥」
『君の魔法があれば、簡単に拘束できるはずだが?』
「ですが、ここは市街地です。無闇に魔法を使えば大変な事に‥‥‥」
『その心配はない。その一帯の避難は完了している』
「それは‥‥本当ですか?」
『周囲に自衛隊の姿はあるか?』
「いえ‥‥自衛隊どころか人の気配すら‥‥」
『であれば大丈夫だ。市民の避難が完了する前に自衛隊が撤退することはありえない。君もよく知っているだろう?それに建物の被害は全て国から保証されるし、この魔物が避難が完了していない場所に向かえばそれこそ一大事だ』
確かに、いままでも自衛隊は市民が避難している間は殿を守っている。市民よりも早く退却する事は無かった。
「分かりました。範囲魔法による攻撃を開始します」
私はそう言って無線を切ると、詠唱を始める。
『母なる星が与えし愛を、畏怖しひれ伏し享受せよ。無情なる重圧!!!』
広範囲に強力な重力場が形成されていく。もう間もなくで魔物すら身動き取れなくなるだろう。そして範囲内の建物はみな重力によって崩壊して瓦礫の山と化す事になる。
「一撃で終わらせて‥‥え‥‥‥」
その瞬間、私の目にある物が映った。
「そんな‥‥‥ここの避難は完了しているはずじゃ‥‥‥」
私の目に映ったもの。それは大きな建物の小さな窓からこちらを覗く顔であった。
(マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!!!!!)
私の脳内はパニックに陥っていた。魔法の詠唱はすでに完了し、発動準備も9割完了している。いまから魔法を取り消す事はできない。
「アアアァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
『ギギャァァァァァァァァ!!?!?』
私の叫びと魔物の悲鳴が重なった。そして、そのすぐ後に聞こえる人々の悲鳴と怒号である。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんで急に崩れるんだぁぁぁぁ!!!」
「あの子が下敷きに!?いやぁぁぁぁ!!」
私は近くのビルからその光景を呆然と眺める事しかできない。自分でも何が起きたのか未だに理解できないのだ。
(避難しているはずだ‥‥‥司令部はそう言っていた‥‥‥自衛隊も撤退している‥‥じゃあ‥‥これは一体なんだ‥‥)
「あ‥‥ああ‥‥あぁぁ‥‥」
最早言葉にならない声が口から漏れてくる。
(私は何という事をしてしまったんだ‥‥‥私のせいで何人死んだ‥‥?私は何人殺したんだ!?)
ガス管が破裂したのだろう。崩壊した周囲の建物から火の手が上がり始める。そんな時だった。
「あ‥‥え‥‥?」
突然、周囲の炎が大きな建物に向かって吸い込まれていったのだ。そして、魔法少女らしき謎の少女が突如として私の目の前に現れてその手に持っていた大きな鎌を振りかぶった。
『よくも‥‥‥家族を‥‥』
聞こえるか聞こえないかの微かな言葉が聞こえたような気がした瞬間、血飛沫が身体から吹き出すのと同時に私の意識が消え失せた。
「‥‥‥‥‥」
薄っすらと目を開けると、見知らぬ天井が見えた。そして軽く横に目線を向ければ点滴や様々な機械などが置かれ、そのチューブやコードが私の身体へと繋がれている。
(ここは病院‥‥‥?)
自分がどこにいるかようやく認識した。どうやらどこかの病院にいるようだ。
(私は‥‥‥生きているのか‥‥‥)
すると扉が開く音が聞こえ、何故か私は目を閉じて寝ているふりをした。
「まだ、目が覚めないか」
一人の男の声が聞こえてくる。するとまた別の男の声も聞こえてきた。
「医者の話では、生きているのが奇跡なほどだとか。それにしても大臣、住民がいる中でなぜあのような‥‥」
「あそこで仕留めねば、ここ東京が戦地となっていた。それだけは避けねばならん」
「ならば自衛隊と共に住民を避難させていれば!」
「あの数の住人を移送するのにどれだけの時間がかかると思う?最悪、自衛隊にも被害が出ていた。ただでさえ少ない戦力を失う理由はない」
「クッ‥‥‥!」
「そんな事よりも、あの謎の魔法少女だ。たった一人で魔物の群れを一掃するとは‥‥何としても足取りを掴んで我らの管理下に置くぞ。あの力があれば、我が国は他国に対して優位に立てる」
「了解‥‥‥」
そんな会話の後、足音ともに扉の音が聞こえて部屋は静寂に包まれた。そして私はまたうっすらと目を開ける。
(そうか‥‥あの魔法少女が魔物を一掃したのか‥‥‥)
私は身体を起こそうと力を入れて違和感を感じた。
(下半身に‥‥‥感覚がない‥‥‥?)
その事実を知った私は、ゆっくりとベッドに身体を沈める。そしてゆっくりと目を閉じた。頬を何かが流れる感覚を感じながら。




