74.初めて見た景色
「はぁ‥‥はぁ‥‥敵が退いた‥‥?」
暫くの間戦い続けた私は、自身の武器である双剣を握る手にもあまり力が入らなくなっていた。幸いにも魔物の攻勢は落ち着いていたが、そのせいで見ずに済んでいた光景がよく見え始めてくる‥‥‥
「ウッ‥‥‥‥‥オェェ‥‥‥!」
「新人!大丈夫か!?」
私が激しく嘔吐したのを見た先輩が声をかけてくる。
「ゴホッ‥‥!はぁ‥‥はぁ‥‥だ、大丈夫です‥‥‥」
「無理をしなくていい。この光景に慣れていなければそうなるのは当たり前だ」
そう、私の目の前に広がる光景‥‥それは魔物や人の死体の山だった。戦闘中は必死であったためあまり気にすることは無かったが、落ち着いてようやく認識してくる。そして戦闘中に足に感じた何とも言えない感触の正体も自ずと知れてくる。
(私は、人を踏んでいたのか‥‥‥これが大規模戦闘の最前線‥‥)
今まで経験したことのない地獄。以前ある魔法少女が『長く魔法少女をやっていける人間は精神異常者だ』と言っていた。当時の私はその意味が理解できなかったが、今の私は全く同じ感想を持っている。
「それにしても、なぜ突然魔物が退いていったんだ?色々と気になることは多いが、通信機が故障して情報が掴めない以上どうしょうもない。少し様子を見てくる」
先輩は耳につけているインカムのスイッチを入れたり切ったりしているものの、やはり反応がないらしい。その為近くの状況を確認しようと近くにあった鉄塔を登っていった。かくいう私も自宅から戦場に直行した身なのでインカムを持っていない。今戦っている魔法少女の殆どはみな私と同じだが一部の魔法少女は防衛省や自衛隊の施設にいたらしく、その魔法少女だけはインカムをもっている。
「‥‥‥」
登っていく先輩の姿を見送った私は、再び周りを見回した。そこには、傷ついて横たわる魔法少女や自衛隊そして逃げ遅れた市民の姿が見える。まだ無事な人々は重症者の手当などを行っているが、人も物資も足りなすぎる。早く応援部隊が来てくれればいいが、またあの数の魔物が来れば間違いなく全滅する。
「ん?あれは自衛隊の戦車隊か!?運がいい!通信を借りよう!」
鉄塔に登って辺りを見渡していた先輩がそう叫んだ。どうやら、運良く近くを自衛隊の部隊が通過していたらしい。
「新人!私と共に来い!」
「は、はい!」
そう言って鉄塔を飛び降りた先輩と共にその部隊のもとへと向かった。
「私はこの魔法少女部隊の隊長を務めているものです。戦闘中に通信機器を故障してしまい、よければ通信機器をお借りしたいのですが‥‥‥」
「我々は、港湾都市駐屯基地より皆様の援護に参りました。私はこの部隊の隊長を務める山本です。通信機器はご自由にお使いください。あと負傷者などおられれば、こちらで治療させて頂きます」
先輩が声をかけると、この部隊の隊長という人物が敬礼をしながらそう挨拶を返した。私はそんな二人のやり取りを先輩の後ろから見つつ自衛隊の車両などにも目を向けた。
(戦車10両に装甲車が30か‥‥)
かなり少ないように見えるが、港湾都市のみの戦力で二方向に戦力を割くとなれば仕方ないと思う。
「ありがとうございます!新人、お前は負傷者の元へ案内を。私は司令部と連絡を取ってみる」
「了解!私に付いてきてください!」
私は自衛隊の救命士の人が乗る車両の前を走り、皆がいる場所へと先導した。
「う‥‥うぅ‥‥‥」
「しっかりしてください!大丈夫ですか!」
周囲からは痛みに悶える声と、それに対して励ますように声をかける自衛隊員の声が聞こえてくる。ここで出来るのはあくまでも応急処置程度である為、その痛みなどは解消できない。目を背けたくなる光景だ。
(噂に聞く治癒魔法なら、直ぐに傷を癒やして痛みも取る事ができるのだろうか‥‥)
治癒魔法は一瞬で傷を癒やす事ができるのだと聞く。だが‥‥治癒魔法使いは、ここ数十年現れてはいないのだそうだ。だからもし現れたとすれば、世界中の国が黙っていないだろう。
「新人!様子はどうだ?」
私が治療の様子を眺めていると、いつの間に戻っていた先輩に声をかけられた。
「先輩!自衛隊の方々のおかげで、怪我人の治療は順調です。軽症者であれば、少し休めば直ぐに‥‥‥」
私がそこまで言うと、真剣な表情を浮かべた先輩に突如遮られる。
「いや、そう悠長な事も言ってられなくなった。司令部から直ぐに東の戦線に向かう様にと命令が下った」
「え!?それじゃあここは‥‥‥」
「どうやら、撤退したと思っていた魔物は東の群れに合流しているらしい。そのせいで東側が押され始めている。ここは自衛隊の戦力だけで問題ないという事らしいから重傷者を除き、中傷者までは全員東側へ急行せよとの事だ。それほどまでに東側が危険な状況なのだろう。そしてもう一つ悪い知らせがある。東の戦線を突破して内地へ向かった魔物が何体かいるらしい。強さは大したことは無いが、放置もできない。そこで、お前には内地に向かってもらう」
「そんな!!私も東に行かせてください!!」
「気持ちはわかる。確か東にお前の友人が行っていたな。だが、魔物が内地の奥深くに行けば避難している市民に犠牲が出る。だからこの中で一番索敵能力や機動力の高いお前が適任なんだ。分かってくれ‥‥‥」
先輩の言うことは最もだ。私は擬似的ではあるが空を飛ぶことができるため、建物などの中を走り抜けるよりも早く移動できる。それに高所からであれば魔物を早期に発見できる
「了解‥‥しました‥‥」
「すまない‥‥だが、内地にはお前や私を含めた全員の家族がいる。お前が行ってくれれば、私達は後ろを気にせず戦える。家族を‥‥頼む‥‥!」
先輩にそう言われ、私は不意に周囲に目を向ける。すると私達の会話を聞いていた仲間達が私を見て大きく頷いているのが見えた。
「必ず、任務を遂行します!」
「よし、頼んだぞ!」
私の返事に満足そうに微笑むと、先輩は大きな声で指示を出し始める。
「聞け!我等はこれより、東沿岸部の援護に向かう!重傷者はここに残し、中傷以下は直ぐに用意せよ!主力が居らずとも、我等だけで国を守れる事示すのだ!!」
「「「「了解!!!」」」」
覚悟の決まった顔でそう返事をする魔法少女達。彼女等はみな、大切な人達を守る為に必死なのだ。
「新人、これを持っていけ。自衛隊から借りた無線機だ。周波数は司令部に繋げてあるからボタンを押せば繋がる。これが終わったら、お前の好物のミルクセーキを奢ってやる。美味しい店を見つけたんだ」
「はい!楽しみにしています!!!」
先輩は動ける魔法少女達を連れてその場をあとにした。そして私も、北へと急いだ。




