73.四年前
「え〜明日から5月です。みなさんが中学生になりひと月が過ぎますが‥‥‥」
担任教師の話を何となく聞きながら、私は窓の外に目を向けた。私達がこうして日常を過ごしている間、精鋭の魔法少女はワルプルギスの発生予測地であるオーストラリアで今夜に備えているのだろう。日本にいる私達には何も出来はしないが、やはり気になってしまうものだ。
「唯ちゃん!今日唯ちゃんの家に行っていい?この間借りた漫画返すついでに私が新しく買ったゲームやろうよ!それとも今日忙しい?」
「大丈夫だよ。とりあえずお母さんには事前に連絡入れとく」
幼馴染で親友の笹山穂香の問に、私はスマホを操作しながらそう答える。
「やった!じゃあ、寄るとこあるから先行くね!」
「うん、分かった気をつけてね」
慌てて教室を出ていく穂香の背中に私はそう声をかけ、自身も帰る準備をして教室を出た。
「ねえ、唯ちゃん。今頃、先輩達はどうしてるかな?」
「今夜に備えて現地で訓練や会議なんかをしてるんじゃないかな?」
穂香の問に、私はゲームのコントローラーを操作しながらそう答えた。
「やっぱそうだよね」
「うん」
私達は何の因果か、幼馴染揃って魔法少女となった。まだ数回の戦闘経験しかない事と12歳という年齢の為、私達はそこまで大変な現場に出たことは無かった。正直、一緒に魔法少女になって運が良かったのか悪かったのかは何とも言えないところだ。
「いいなぁ‥‥オーストラリア。私も行きたいなぁ‥‥カンガルーとかコアラとかみたい!」
「いや、遊びに行く訳じゃないんだから‥‥」
「分かってるけど、やっぱ海外って憧れるよねぇ‥‥先輩達の話だと、ワルプルギスの夜が終わったあとは休養って事で現地で数日遊べるらしいよ?私もいつか強くなって海外を飛び回るんだ!」
「上手く行けばいいけれど、最悪死ぬ可能性もあるんだよ?私は今のままでいいかな」
「むぅ‥‥夢がないなぁ」
穂香は口を尖らせながらそう呟くと、持っていたパックのコーヒー牛乳を飲み始めた。
「そろそろ帰らなくて大丈夫なの?もう18時過ぎたけど、ほのちゃんのお母さんとか心配しない?」
「お母さんに唯ちゃんの家に行くって言ってあるし大丈夫だって!それに18時半には帰るって言ってあるし!」
「ならいいんだけど‥‥‥え?」
私がそう言ってゲームの画面に目を向けた瞬間、一瞬視界が揺れた気がした。始めは気のせいかと考えたが、揺れは徐々に大きくなっていく。
「っ!?な、なに!?地震!?」
「分からない!地震速報も何もなかった!」
私達が半ば混乱していると、外から大きなサイレンが鳴り響く。これは間違いなく、魔物の出現を告げるサイレンだ。そして部屋の外から、母の声が聞こてくる。
「唯!穂香ちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫!!」
「よかった‥‥とりあえず避難するから最低限の物だけ持って早く玄関にいらっしゃい!!」
「うん!ほのちゃん急ごう!」
「う、うん!」
私達は最低限の物だけを手に家を飛び出し、近くのシェルターへと急いだ。
「すごい人‥‥‥この辺りに住んでいる人達はみんなここに来てるんだね。お父さんとお母さんも来てるかな?」
「大丈夫だって。絶対避難してるよ」
シェルターに辿り着いたものの、多くの人々が押し寄せているため中々シェルター内へと入れずにいた。そんな中で穂香は自身の両親を心配しているようで、何度もRainの画面を見ている。
「お父さんも、会社の近くのシェルターに避難したって。あとは穂香ちゃんの御両親だけど‥‥私からも何度か連絡してるけど中々繋がらないのよねぇ‥‥」
母は父の無事を確認しつつ、穂香の家族にも連絡をしてくれていたらしい。
『唯ちゃん!』
『うん!私達も行かないと!』
私達は小声でそう話し、母に声をかけた。
「お母さん。ほのちゃんがお手洗い行きたいらしいから、一緒について行ってくるね」
「え、ええ‥‥二人だけで大丈夫?」
「うん!お母さんは先に行ってて。どこにいるか後でRainくれればそこに行くから」
「分かったわ。引き続き穂香ちゃんのご両親には連絡しておくわね」
そうして私達は人混みから離れて、自衛隊のいる場所へと向かった。
『状況は最悪だ。理由は分からないが、オーストラリアで発生するはずだったワルプルギスの大侵攻がこの都市で発生した。一刻も早く君達二人にも出撃してもらいたい』
あの後私達は、人気のない場所で変身してから自衛隊と合流した。そして通信機器を借り、指示を仰ぐ為に防衛省へと連絡をしていた。
『二人はそれぞれ別の場所へと向かい、戦闘中の部隊と合流してもらう。現状では東側の海岸沿いと南側の工場地帯の二つの場所が既に押されている。誰がどこに向かうかは任せる』
そこまで言うと、通信は一方的に切られてしまった。どうやらあちらもかなり大変のようだ。
「どうする唯ちゃん?」
「ちょっと本名を出すのは‥‥!」
「この車の中には私達しかいないしいいじゃない」
「はぁ‥‥私は南に行くよ。東の方が人が多いみたいだし安全だ」
「えぇ!?大丈夫!?なんなら私が‥‥!」
そこまで言った穂香の言葉を、私は手で制した。そして私は得意げに口を開く。
「私の方がほのちゃんより強いから大丈夫だよ」
「む〜!私だって直ぐに追い越すんだから!」
「はいはい、それもこれもお互いに生き残ってからだよ。頑張ろうね」
「うん!」
こうして私達はそれぞれの場所へと移動した。そして、ここから私は本当の地獄というものを目の当たりにする。
「何だ‥‥これ‥‥」
私は眼下に広がる光景をみて、言葉を失った。陸から海にかけて魔物が波のようにひしめき合っている。その数は数千か数万かは分からない。そして今まさに目の前ではともに戦う魔法少女や自衛隊と警察の特殊部隊の人々が魔物と必死に戦い魔物の餌食となっていた。
「これが、本物の戦場なのか‥‥‥」
「おい!何をぼさっとしている!早く前線の援護に向かうぞ!!」
「は、はい!!」
呆然とする私に対して、先輩の魔法少女が怒声を上げた。私はその声に我に返り、その魔法少女とともに最前線へと向かった。




