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薔薇の死神  作者: 族猫


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72.贖罪

「私は4年前、この場所で過ちを犯した。取り返しのつかない過ちだ」


 そう言うと、唯は胸元からアクセサリーを取り出した。


「それは‥‥魔核‥‥?」


 魔核とは俺達が変身する際に使う魔力の根源。それにヒビが入っている。魔力が垂れ流しになる訳だ。


「魔核に傷がつくなんてね‥‥我ながらよく生きているものだ」


 魔核は魔力の結晶だ。余程のことがなければ傷がつくことはない。それが傷ついたと言うことは、それだけの威力の一撃を受けたという事だ。


「その身体も、その時に?」

「ああ‥‥辛うじて一命はとりとめたものの、脊髄にそれなりのダメージは受けてね」


 唯はそう言って儚い笑みを浮かべる。そんな唯に、俺は最大の疑問を投げかけた。


「なぜ、私を探したの?そして、私に打ち明けたの?最悪、殺される可能性だってあるのにどうして?」


 俺はそう唯に問いかけながら、ある可能性を警戒して周囲に意識を向ける。


(態々私の前に現れて正体を明かしたのは、自分の身体をこんな目に合わされた復讐か?だとすれば、既に囲まれている可能性も‥‥)


 しかし俺の考えは、唯の一言で吹き飛ばされる事になる。


「ここにいるのは私だけだから心配する必要はない。私は別に君に復讐したい訳ではないんだ。私のこの身体は自身の愚かな行動に対する報い‥‥いや、それでも足りないくらいだ」

「なら、なぜ私を探す必要が?復讐以外に理由が浮かばないのだけど」

「復讐なんてとんでもない。むしろ逆さ‥‥私は、君に裁いてもらうためにこの街に来たんだから」


 暫しの沈黙が流れる。最初こそ驚きはしたが、俺は目の前の少女の言葉に対してなぜか冷静でいられている。普通ならば取り乱したり掴みかかったりするべきなのかもしれないが、今の俺にはそんな感情が湧いてこない。俺の心は死んでいるのか?いや違う‥‥俺は目の前の少女に憐れみの感情を持っているのだ。それはなぜか?彼女もまた戦いの被害者と言えるからだ。まだ幼い少女が戦場に立たされ仲間の死を目の前で見せられて冷静でいられるわけもない。


「私に裁かれるため?」

「ああ、経緯はどうあれ私は多くの命を奪った。だが、君も知っての通り私達魔法少女は国の法では裁けない存在だ。戦いの中で起きた仕方の無い出来事として全て処理されるだろう。そうしなければ誰も魔法少女になりたがらないし、なったとしても率先して戦おうとはしない。それに、そんな事が起きれば管理出来てなかった上の責任にもなるからね」


 そこまで言うと、唯は少し間を置いてから再び口を開く。


「そこで私は自らを罰してくれる存在を求めた。あの事件の生存者か遺族をね。だが、私一人の力ではそこまで調べるのは不可能に近かった。そんな時、テレビで君の姿を見た。優雅に魔物と戦うその姿は、忘れもしない4年前のあの魔法少女と瓜ふたつだった。ならあとは簡単だ。君を探し出して君に裁いてもらおうと考えたんだ」

「なぜ、私があの時の遺族だと分かったの?」

「それは君が私を斬る瞬間『よくも家族を』と僅かながら呟いているのが聞こえていたんだ」


 唯はそこまで言うと、腕に力を込めて車椅子から立ち上がろうとし始める。だが、脚の動かない彼女が立ち上がれるわけもなくその場で地面に崩れ落ちた。そして彼女はゆっくりと体制を立て直し、かなり不格好ではあるものの土下座に近い形となった。


「4年前、私は貴方の家族を始め多くの方の未来を奪いました。今の私には何も償う手段がございません。ですので、この身を以て償わせていただきたく思います。勿論、私の命程度で償えることではない事は重々承知しておりますが、私にはこれしか出来ません。生きたまま切り刻むも、ゆっくりと時間をかけて焼き殺すもよし。全て貴方様のお好きなようになさってください。誠に申し訳ございませんでした‥‥!」 


 そう言って頭を下げる彼女の身体は僅かながらに震えており、地面には涙が落ちているのが見えた。恐らく、彼女はこの場所に来てからずっと堪えていたのだろう。


「‥‥‥‥」

 

 俺は無言のまま、彼女を見下ろしている。数年前の俺であれば、即焼き殺しているか首をはねている。だが、今の俺にはそれは出来ない。


「私はあなたを殺すつもりはないわ。正直、あなたを殺すのであれば今の日本政府のほぼ全員を殺さなければならなくなる。あなた一人の罪ではない‥‥この世界そのものの罪よ。だからあなたは殺さない。あなたはその不自由な身体でこれから先も生きていきなさい。それがあなたへの罰よ」


「許す‥‥‥のか?この私を‥‥?」

「許しはしないわ。おそらく私は、あなたにとって最も残酷な罰を与えたまである。その不自由な身体では、満足に入浴や排泄だって出来ないでしょう?つまり誰かに介護される屈辱を死ぬまで味わうことになる。自身の罪の意識に苛まれながらね」

「そう‥‥‥か‥‥‥」

「さて、あなたにはもう一つ責任を果たしてもらいましょうか」

「出来る事であれば何でもしよう」

「とはいえ、流石にそのままでいられると居心地悪いわね」


 俺はそう言って彼女の身体を抱えて、車椅子に座らせた。


「あなたには遺族である私に説明責任を果たしてもらう。というのもワルプルギスの夜はその魔力の流れなどから、扉の出現場所をある程度予測できるから世界中から魔法少女や軍隊が集結して迎撃できるはず。でも、4年前はそれが無かった。それはなぜ?一体何があったの?」

「‥‥‥私が知っていることはそこまで多くはない。そして私が話す内容は、ある意味では言い訳になるかもしれない。それでも良いだろうか‥‥‥?」

「ええ、構わないわ」


  俺の返事を聞いた唯は、一呼吸置いてからゆっくりとかたり始めた。


「‥‥4年前は明らかに異様だった。世界各国のレーダーなどで計測された情報を元に国連が導き出した出現場所は本来オーストラリアだった。だからこそ、日本を始め世界中の主力はオーストラリアに集結させられ、この国に残っていたのは中堅から新人までの魔法少女と自衛隊を含めた最低限の防衛戦力のみ。私もその一人だった」



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