見知らぬ町_エド視点(5)
鍛冶屋に教えてもらったギルドはすぐに見つかった。
いわゆる冒険者ギルドのようで、建物の外壁からは剣と盾、そしてランタンとロープが配置された独特なデザインの看板がぶら下がっている。
古びた木製のドアを開けると中には数人の冒険者と思しき人間がおり、カウンターを挟んで反対側には職員が数人いる。ドアの辺りにいた俺に、カウンターにいた若い女が「はーい、こっちよ」と声をかけてきた。ロングストレートの艶やかな茶髪をひとつに纏めた、快活そうな女性だ。
「スセクアの冒険者ギルドへようこそ。お仕事をお探し?」
(ここはスセクアなのか)
スセクアときいて、ようやく自分の居場所を把握した。セクエアはサンルータ国の地方都市のひとつで、ニーグレン国との国境近くに位置する。
俺がいたはずの王都とは五十キロ以上離れている。随分と遠くに飛ばされてしまったものだと驚いた。
(場所がわかっただけでも、ここに来た甲斐があったな)
職員の女は俺の顔をまじまじと見る。
「初めて見る顔ね」
「今日この町に来たばかりだ。どんな仕事があるか見たい」
「あそこに貼り出してあるわ」
女は俺の後方にある、たくさんの紙が貼られた掲示板を指さす。近づいてみると、その貼られた一枚一枚が仕事の依頼書になっていた。
最初に目に入ったのは、ペットの猫の捜索願だった。一週間ほど前から姿を消していると書かれており、報酬額は青銅貨八枚と書かれている。その隣の依頼書も似たようなもので、山をひとつ越えた向こうに届け物をしてほしいというものだった。報酬は青銅貨六枚だ。
「もう少し実入りのいい仕事はないのか? 例えば、指名手配犯の捜索とか」
俺はカウンターに戻り、女に尋ねる。
「オッケー。少し待っていて」
女性は片手を軽く振ると、奥へと向かう。そして、戻ってきた彼女の片手には分厚い冊子があった。
「今うちに来ている依頼はこれで全部よ」
「ありがとう、助かる」
パラパラと捲って中身を確認し、まず自分の手配書が出ていないことにホッとする。姫様についても同様だ。
そのとき、背後の入口のドアが開くカランコロンという音がした。振り向くと、そこには先ほど鍛冶屋で会った客の男がいた。男はまっすぐにカウンターに向かう。
「はーい、ディクス。三日ぶりね。今日は仕事探し?」
先ほど俺の対応をした女性が陽気に手を上げる。
「ああ」
ディクスはそういうと、ギルドの内部を見回す。
「さっき、腕のよさそうな旅人を見かけたからギルドを勧めたんだが、来ていないか?」
「あら、そうなの? どんな人?」
「黒髪の男だ。赤い目をしている」
「黒髪に赤い目? 珍しいわね」
会話が聞こえてきて、耳をそばだてる。明らかに自分のことを話している。
「今のところ来てないと思うわ。ねえ、ハリー!」
カウンターの女性が背後を振り返り、ギルドの仲間に問いかける。ハリーと呼びかけられた男は「黒髪に赤い目? 見てないな」と首を振った。
「そうか、残念だな。もしここに来たら、俺が会いたいと言っていたと伝えてくれないか?」
「それはいいけど、どうしてその人にそんなに興味があるの?」
「少し気になることがあるんだ」
「ふーん」
女性は納得したような、していないような、どっちとも判断できない返事をする。
「流れの冒険者なら、ほかの町に向かったんじゃない? 例えば、王都なら実入りのいい依頼も多いし」
ディクスは「そうかもしれないな」と感情のこもらない声で相槌を打つ。その態度は、俺が王都に行かないと確信しているように見えた。
(このディクスという男、何者だ?)
もしかして俺のことを知っているのだろうかと思い返すが、それらしき人物に会った記憶はなかった。
(幻術で姿を変えてきたのは正解だったな)
ディクスは残念そうな顔をしていたものの、気を取り直したようにカウンターに肘をつく。
その時、カランコロンとギルドの扉が開く音がした。入ってきたのは、おおよそギルドとは縁がなさそうな、品の良いい服に身を包んだ中年男性だ。
「あら、ルーカスさん。ようこそ」
受付の女が片手を上げる。
「また魔法石を依頼したいのだが、どうだい」
「あら、ちょうどよかった。今、ディクスが新しい依頼を探しているところよ」
女はディクスの腕をポンと叩く。
「また頼めるかな?」
「魔法石か。やれないことはないが、一人だときついな。誰か腕の立つやつでパーティーを組めそうな人はいないか?」
「そうねえ。前回組んだヒューゴさんは、奥さんの出産が近いらしいから──」
受付の女はぶつぶつと喋りながら、ギルドに登録している冒険者リストをめくる。
「報酬は十分に払おう」
女に、ルーカスと呼ばれた男が伝える。
(魔法石の収集か)
魔法石は魔導具の燃料になる魔力が詰まった鉱石だが、産出地はナジール国に集中している。つまり、魔法石の収集にいくなら必ずナジール国のかなり近傍まで行くはずだ。
少し逡巡したのちに、俺は彼らに声をかけた。




