第5話「第十階層の扉」
第5話
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闘うたびにしっかり体力を回復させ、下のフロアへ降りる―― その繰り返しで、俺は九階層のゴブリンを倒した。
これまで倒した九体のゴブリンからは、すべて乾燥肉が一片ずつ得られた。
手元には、いま倒したゴブリンの乾燥肉を含めて三片の乾燥肉がある。
水分は壁から摂取している。
乾燥肉と壁の水分―― 生きていくにはこれで十分なのだと知った。
それに、徐々に息も上がらなくなってきている。
少し身体能力が上がってきていることを感じる。
いまの所有物は短剣一本と乾燥肉三片。
何日経ったのかはわからない。
いよいよ次が第十階層目だ。
階段を降りた先の第十階層は、これまでと違い“小さな空間”だった。
中学校の教室ほどしかない広さ。
そして、その壁には――大きな扉があった。
重厚な石造り。
両開き。
取っ手はなく、押し開けるタイプのようだ。
扉の表面には、粗い三角形の連続模様が刻まれているが、意味はわからない。
(……息子との時間を思い出す)
◆
某RPGのダンジョン。
百階層まであり、十階層ごとにボスがいる。
そして、そのボスは宝箱をドロップする。
十階層のボスが何だったかは思い出せない。
だが、五十階層のボス――サラマンダーはよく覚えている。
その日、夕食の後、俺はいつものように息子の隣でゲームをしていた。
「父さん、今日はサラマンダーだよ。強いよ?」
「イモリだろ? 攻撃してれば倒せるだろ」
「……ほんとにそれでいくの?」
「ここまで全部それで勝ってきたんだ。問題ない」
息子はため息をついた。
戦闘開始。
俺は勇者、剣士、魔法使い、僧侶――全員で攻撃を選択した。
サラマンダーの炎がパーティーを焼く。
HPが一気に減る。
それでも俺は攻撃を続けた。
「お父さん、回復しないと!」
「攻撃してれば勝てる」
「いやいやいやいや!」
次の瞬間、サラマンダーのブレスが炸裂し―― パーティーは全滅した。
「だから言ったじゃん!!」
「……すまん」
息子はコントローラーを俺から取り、 オートセーブから再開した。
「いい? まずは準備。いきなり攻撃しないの」
「準備ってなんだ」
「見てて!」
戦闘開始。
「勇者は攻撃力アップの魔法!」 画面の勇者と戦士が光に包まれる。
「魔法使いは防御力アップの魔法!」 パーティー全体が淡い光に包まれる。
「僧侶は防御力ダウンの魔法!」サラマンダーがどよんっとした光に包まれる。
「はい、父さん。攻撃していいよ」
俺はサラマンダーに攻撃を仕掛けた。
すると――驚くほどのダメージがサラマンダーに入る。
サラマンダーの攻撃を受けても、ダメージが少ない。
こちらの攻撃も防御も明らかに強くなっている。
「ほらね! こういう戦い方があるんだよ!」
「……なるほどな。これは強い」
「だから言ったでしょ!」
HPが減れば、僧侶が即座に回復魔法を使う。
僧侶はほぼ回復に専念させる。
その結果――俺はサラマンダーに勝利した。
息子は満足げに笑っていた。
◆
(……この扉の向こうにはボスがいる)
直感でわかった。
ここまで各階層にゴブリンが一体ずつだった。
まさか、今の自分にとって圧倒的に強いモンスターがいるとは思わない。
だが――不安になる。
(いまの自分で勝てるのか……)
ドアを開けたら、もう闘うしかない。
少しだけ覗いて中を観察したいが、少しでも開けたら閉じることはできないのではないかという不安がよぎる。
(そうだ……いったん鍛えよう)
もう少し身体能力を上げたい。
息切れがもっとしない身体に仕上げてから扉を開けたい。
俺は階段を駆け上がり、上層へ戻った。
ゴブリンはいない。 さらに上層へ。
とうとう第一階層まで戻ったが、ゴブリンは一体もいなかった。
とりあえず第九階層に戻り、筋トレやランニング、ダッシュを繰り返す。
残りの乾燥肉三片がなくなるまで、身体を鍛えて過ごした。
腕が張り、足が重くなり、息が荒れる。
だが、確実に身体は強くなっていく。
とりあえず、今できることはここまでだ。
(……行くしかない)
俺は第十階層の大扉の前に立った。
どんなボスがいるのか不明。
勝てるのだろうかという不安が、胸の奥で静かに揺れた。
それでも――大扉に手を伸ばした。
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