第3話「第二階層」
第3話
ご愛読いただきありがとうございます。
俺はこの空間を見渡した。
広さは中学校の武道館ほど。
そして、端の方――そこに“下へと下りる階段”があった。
東京の地下鉄の地上入り口のようなサイズ感。
まるで「どうぞ降りてください」と言わんばかりに口を開けている。
俺は乾燥肉をゆっくりと噛みしめた。
硬い。 獣臭い。 味は薄い。
――まずい。 だが、うまい。
身体が求めている。 胃が動く。 生きている実感が湧く。
すべて食べ終え、しっかりと休憩し、呼吸を整え、体力を回復させる。
(……行くか)
満を持して、階段を降りた。
・・・・・・・・・・
第二階層
このフロアも、はじめのフロアと同様だった。
広さも光の具合も、まったく同じ。
まるでコピーしたような空間だ。
そして、フロアの中央に――ゴブリンが1体、こちらを見て立っていた。
皮膚は苔のような緑色。
黄色い縦長の瞳。
潰れた鼻。
裂けた口。
黒い鉤爪。
(……さっきのゴブリンと同じだ)
敵の認識を確かにする。
同じ種族、同じ特徴、同じ危険度。
距離はかなりある。
すぐには襲ってこない。
(怪我はしたくない)
第1階層での戦いでは左腕に傷を負った。
包帯代わりに巻いた布には血がにじんでいる。
傷はうずくが、重症ではない。
(慎重にいく……絶対に傷を増やさない)
俺は短剣を握り直し、戦い方を考える。
前回の戦いでは、 “動きのイメージ”はできていたが、 “息が上がること”まではイメージできていなかった。
(……息が上がると、動きが乱れる。そこまで含めてイメージしないといけない)
俺は深く息を吸い、戦闘の流れを脳内で再構築する。
ゴブリンが近づく前に、まず“距離を取る”。
ゴブリンは直線的に突っ込んでくる。
その瞬間、俺は短剣を“突き”に限定して迎え撃つ。
ただし――今回はさらに慎重だ。
・突きは一度に一回だけ
・二回連続で突かない
・突いたら必ず距離を取る
・息が乱れたら攻撃しない
・ゴブリンが疲れるまで待つ
・焦らない
・肩、胸、腹、太ももなど“動きを鈍らせる部位”だけを狙う
・ゴブリンが完全に弱ったら、喉元へ最後の一撃を入れる
(……これなら、絶対に怪我しない)
イメージが固まった。
俺は静かに短剣を構えた。
・・・・・・・・・・
戦闘
ゴブリンが唸り声を上げ、突進してくる。
俺はすぐに後ろへ下がる。
逃げるように見えるが、これは“距離を取るための戦術”だ。
ゴブリンが腕を振り上げた瞬間、 俺は短剣を一度だけ突き出す。
肩に浅く刺さる。
すぐに距離を取る。
息はまだ乱れていない。
ゴブリンが追ってくる。
俺はまた後退し、 ゴブリンの攻撃を躱した直後の一瞬の隙にだけ“突き”を入れる。
胸。 腹。 太もも。
一撃ごとに必ず距離を取る。
絶対に二連続で攻撃しない。
ゴブリンの動きが徐々に鈍くなる。
息が荒くなっているのはゴブリンの方だ。
(……いける)
俺は地道にこれを繰り返す。
そして、ゴブリンの動きが完全に鈍くなったのを確認してから、最後の一撃を喉元へ突き入れた。
ゴブリンは崩れ落ちた。
怪我はない。 想定外もない。 イメージ通りの戦いだった。
ただ――かなりの時間を要した。
(……時間はかかったが、これでいい。これが今の俺の戦い方だ)
ゴブリンの死体は地面へ吸収されるように消えた。
その場に、乾燥肉が残った。
俺はそれを拾い上げる。
(……助かる)
また、下へ降りる階段がある。
東京の地下鉄の入り口のような階段が、 静かに、次の階層へと導いていた。
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