失うとは
私達は自陣に戻り、無事に基地へ帰還することができた。
基地に着いた頃には日が昇り始めていた。あれほどあった頭の中にある疑問や混乱は、その時には整理整頓されていた
私が最終的に出した結論は
私に混乱は必要ない
だった
あれから一言たりとも話さなかった2人だったが、先に口を開いたのは上官だった
イサナ「何故あの時私を助けた」
答えは決まっている
エルナ「私には貴方が必要だと判断したからです」
上官は驚いたように目を丸くした
イサナ「君は面白いな」
窓から差し込む穏やかな光に照らされた彼女は、微かに微笑んだ
イサナ「まずは部屋でゆっくり休まなければな。休むのも立派な訓練だ」
エルナ「ですが上官、私はまだ動けます」
イサナ「そこは『はい上官!ゆっくり休んで明日に備えます!』だろ?」
エルナ「そうですね…1度日記を書いてから考えます」
〜日記〜
今日は初めて戦場に立った。
ナギ上官は敵軍と何か繋がりがあった?
シア方面から聞こえる爆発音は極秘情報のことだろうか
イサナ上官に助けて貰ってしまった。次は足手まといにならないようにしたい
エルナ「かけたー!」
その頃には、イサナ上官は深く眠りについていた
エルナ「今ならバレないよね…!」
私は暗闇の中、ある場所を探した
エルナ「次のためにも訓練しなきゃ!」
そう、私が足を運んだのは訓練場だ。
エルナ「いやー私偉すぎ!」
と、優越感に浸っていると、訓練場には私しかいないと思っていたのに不意に物音が聞こえた
エルナ「人影が見える気がする」
咄嗟に銃を構える。無意識に標的を探していた
…いや、ここは訓練場だ。幽霊だとしても、いきなり撃つのは無礼だろう
ミナミ「ひゃ!?すみません…訓練場を少しばかり使っていました、夜だから戻れと通告に?」
エルナ「いえ、私もちょうど訓練に来たところだよ。ついでに少し話としようじゃないか」
ミナミ「私でいいなら…って私しかいませんね」
エルナ「どうしてここに?」
ミナミ「実は私、意外と体力あるんです。なので新作の銃を試そうとしていて…見られたくないものだったのですが、見られてしまったならしょうがないです」
とミナミは言い、銃を大事そうに抱えた。
そうか、今ならほとんどの人が寝ているから確かに絶好の機会だ
ミナミ「エルナさんはどうして?」
エルナ「私は戦った後なので少し眠れなくて…だったら訓練して実力をあげた方がいいと考えたんだ!」
ミナミ「さすがエルナさん、向上心がお強くていらっしゃる。私なんか訓練よりも設計が好きですから」
それも立派な才能だと思うけれど。
エルナ「そういえば体力があるって言ってたよね、特別なことしてたりするの?」
ミナミ「私を''直してくれる''人が、ミナミは人よりも体力が多いって言ってくださったんです」
少しミナミの言葉が不自然に思えたが、きっと気のせいだろう
エルナ「そうなんだ!私は体力少ないから羨ましいよー」
ミナミ「私の数少ない長所です、奪わないでくださいよ?」
ミナミが少し笑った気がした
エルナ「奪わないって!」
そんなこんな話しているうちに、起床の鐘が鳴ってしまった
ミナミ「今日はありがとう、訓練頑張ってね」
エルナ「ありがとう!」
部屋に戻ると、支度が終わった上官がいた
イサナ「休んでおけばよかったものを…休まなくともメニューは変わらないぞ?」
エルナ「大丈夫です!頑張ります!」
イサナ「良い心がけなのは評価しておく」
思いがけない所で褒められた。つい笑みがこぼれる
エルナ「いつも褒めてくれればいいのに」
イサナ「少ない方が価値が大きいだろ?」
独り言のつもりで言ったのに…別に多くたって価値は変わらないと思う
イサナ「さて、時間稼ぎのつもりだろうが、私にはお見通しだ。食堂行くぞ」
バレてしまった…
食堂に入ると、ヒヤッと寒気がした
いつもと何か違う。なんというか、どんよりしている
よく見てみると、前より席がふたつ減っている。人事異動でもあったのだろうか
エルナ「なんで2つ席が減っているんですか?」
上官の顔が少し歪んだ
イサナ「…戦地で死んだ」
''死''、それは指示官の私では疎遠の物だったが、今となっては身近になっていた
どれほど恐ろしいものかは身をもって実感した
その時、私はどう言葉をかければよいか分からなかった
イサナ「たまには気分転換でご飯を部屋に持っていこう。」
さすが上官。助け舟を出すのがジャストタイミング
エルナ「確かにそうですね、行きましょう」
やはり部屋は落ち着く。隣に座っている上官がいなければもっとくつろげただろうが。
イサナ「今回の22人中20人が生き残った。これは奇跡ということはわかっているだろう?」
エルナ「はい」
私が指示官の頃、30人の編成で23人生き残っていたことを奇跡だと持て囃されていた。今回はとんでもない奇跡だろう
イサナ「だから今は喜ばなければいけない。犠牲になった二人の為にも」
上官が数字で物を語るのは初めてだった。
一見笑顔だが、目が笑っていない、口角を無理やりあげている。どこか悲しげで、言葉で表すなら貼り付けの笑顔だ
エルナ「…そうですね」
その時
私は初めて''死''について深く考えた。
もしその2人の中の1人が私だったら。上官が助けてくれなければ十分有り得ただろう。上官に飛びついた時だってそうだ。少し右にズレていたらどうなっていたか…
そして、上官だったらどうなっていたか…全身から寒気がし、視界が歪んだ。あの頃は上官の代わりはいくらでもいると思っていたのに息が詰まり、胸の奥が痛んだ。身体がその考えだけは受け入れようとしなかった
静かに食事を済ませ、いつもと同じ訓練が再開した。しかし、私にはどこか違って見えた。
エルナ「上官…もう無理ですって…」
寝不足で私の身体はフラフラだ。なのにも関わらず訓練を増やす上官は鬼だろうか
イサナ「私が忠告したにも関わらず、君が起きていたのが悪い」
正論だ
エルナ「ごもっとも…」
その日、久しぶりに私は意識を失った
5話をお読み頂きありがとうございます!
ついに5話ですね!思ったよりも続いている驚きと、色んな人にお読みいただいている喜びが混じっています
次回予告
自分のこと




