心服や敬意
第3地区の医者を、ふたたび第4地区に呼ぶという件は、あいての承諾を得て、ハナシはスムーズにススンでいった。医者からの反応にたいして、徳吉は、「わが意を得たり」というキモチになった。
(どうもココさいきん、予想がアタリだしたかもしれない。オレの読みも、冴えてきたかな?)
と、こうおもうのと同時に、
(イカンイカン、こんなコトで有頂天になって、楽観的になりすぎるのは良くない。ゆだんして隙がデキて、足もとをすくわれたり、ナニカの見落としをするかもしれない。こういう、一見すると予想が的中して、あたっているときほど、慎重にならなければ)
とも、おもったのであった。しばらくして、医者たちが、ふたたびこの地にやってきた。そして、未知のびょうき、感染症がまん延している地域にたいして、ちょうさに向かったのである。
そのときに、徳吉たちは、無料の医療サービスのあとに採用した、現地の優秀で有能なニンゲンを、あんない役として同行させた。
医者たちと、あんない役は、おたがいに、とてもハナシが合うようであり、医者のようすを見ていると、「やはり、じぶんと似たようなレベルのニンゲンとのハナシ、かいわに飢えている」という感想を持ったのである。
そして、「じぶんと似たようなレベルのニンゲンが、未知のびょうきに感染し、キケンな状態になるのは避けたい」というキモチを持っているのではないか。という点についても、あたっているとかんじたのだ。
さらに、あんない役をしたニンゲンに聞いてみると、医者たちは、びょうき自体のコトだけではなくて、この地区にかんするコトを、ソレこそ、「人文、しぜんカンキョウ、文化、習慣などを、アレコレと聞いてきた」というコトであった。
コレは、「医者たちは、未知のコトにたいする好奇心、ちしき欲を満たしたい」というコトも、こんかいの来訪の動機・リユウにおもわれた。そして、医者たちのちょうさ結果は、やはり、「ガイコクから入ってきた感染症である」というコトであった。
(大体のトコロは、コチラの予想したコトが、あたっていると見ていいかもしれない。となると)
徳吉は、さらに先のコトをかんがえた。
(こんかい、医者たちは、善意でコチラにたいして協力をしてくれた。でも、『ガイコクから入ってきた感染症』というコトを、医者たちは知ってしまった。
となると、おそらく何人かは、いや、ヘタをすると全員が、『この第4地区では、ガイコク人との接触があった』というコトを、知ってしまったカタチになる。
医者たちが、もしもこのコトを、特殊ケイサツにたいしてハナシをしてしまえば、厄介なコトになる。ツジツマを合わせるベキか)
徳吉は、藤柴を呼んだ。
「どうやら、コチラの想定したコトが、ほとんど合っていたようですね。アタリましたね」
「ソレはソウなんだけれど、チョット先のコトをかんがえて、手を打っておきたい」
「先のコトですか?」
「ソウ、先のコトを。ぐたいてきには、医者たちが、ガイコクとの密貿易を知ってしまい、このコトを、第3地区に返ってから、ダレかにいってしまうかもしれない。
ましてソレが、特殊ケイサツにたいしてつたわり、しられてしまえば、よけいなトラブル・モンダイ・モメゴト、不要なリスク・キケンをまねきかねない。ナンとしても、ソレは避けておきたい」
「たしかにソウですね。タテマエ上、この国では、ガイコクとの貿易や交流にかんしては、禁止されているワケですから」
「まあ、とくべつにきびしく、監視されている。というワケではないが、大っぴらにおこなえるワケではナイ。『体制の目がとどかない辺境の地で、細々とおこなわれている』というレベルであれば、見のがされるかもしれない。でも堂々と、大キボにおこなうコトはデキない。
だから、われわれがいる地区で、ガイコクとの密貿易がおこなわれている。というハナシ自体が、ソトに漏れるのは避けたい」
「とすると、どうしますか?医者にたいしてクチ止めをしますか?」
「クチ止めかあ。たしかに一理あるが」
こういうと、徳吉は、だまってしまった。
(どうしたんだろう?)
「クチ止めをしたトコロで、あいてがソレを、チャントまもってくれる保証はナイんだよなあ。かといって、強制するワケにもいかない。あいてにたいして、強制させれるだけのチカラなんていうのは、われわれにはナイからね」
「ソウですね。ソレに、コチラから依頼し、おねがいをしているワケですし」
「コチラから依頼し、おねがいをしておいて、えらそうに上から強制し、めいれいするワケにもいかん。そんなコトをすれば、あいてはかくじつに、まちがいなく不快・不ユカイになり、怒るダロウしね。
ソレに、コチラとしても、あいてにたいして、強制させるコトがデキるだけのチカラ・権限なんていうのは、もともと持ってなんかいない。
じゃあ、あいてが持っている、コチラにたいする好意だとか、善意にたいして期待するか。といわれると、ソレもチョット弱い」
「あいてにたいして、だまっておいてくれ。と依頼し、たのんだとして、『あいてがソレを、だまっていてくれるダロウ』と、好意や善意に期待してみたトコロで、こんなに不たしかなコトはナイですしね」
「だから、あいてにたいして、だまっているように強制し、めいれいするワケにはいかない。そもそも、そんなチカラも権限も持っていない。
じゃあ、かといって、あいてにたいして、だまっているように依頼し、たのんだとしても、『ホントウに、だまっていてくれる』という保証なんていうのもナイ。そんな好意や善意に期待しても、どうしようもナイ」
「となると、八方塞がりにおもえるんですが」
「だから、チョットした小細工をしようとおもう」
「小細工ですか?」
こういうと、徳吉は、医者たちをあんないした、本田たちを呼びよせた。
「どうやら、うまくいったようですね」
藤柴は、徳吉にはなしかけた。
「そのようだね」
「医者たちは、疑わなかったんでしょうか?」
「どうダロウ。もしかしたら、ナカには、『ソレは、ホントウのコトなのか?』と、ギモンにおもったニンゲンがいたかもしれない。
でもまあ、カレら、カノジョらにしても、ソレ以上、このコトを追及するような動機・リユウは、持っていないんダロウね」
「ソウいわれてみると、たしかにソウですね。医者たちは、あくまでも、『未知のびょうき、感染症にたいして、ちょうさをする』という意図・もくてき・リユウで、ココにきたワケですし。
ですから、『ガイコクから入ってきた』というコトがわかれば、『ソレ以上のコトを、深く追求しなければならない』という意図・動機・リユウは、ナイかもしれません」
「まあ医者たちも、『ガイコク人との接触で、びょうきに感染し、伝染し、まん延した』というコトがわかれば、『じゃあ、ナンでガイコク人と会い、接触したのか』というコトまでは、あまり関心がナイんダロウね」
「だからこそ、コチラの小細工にたいして、うたがうコトもなく、気がつかなかった。あるいは、気がついたとしても、ソレ以上、追及する気がなかった。というワケですね」
「ダロウね。追求しなければならない動機がナイ。『ガイコク人との接触によって、びょうきに感染した』というコトが、リユウ・原因だとわかれば、『じゃあ一体ナンで、ガイコク人と接触したのか』というコトまでは、医者たちにとって、関心外のコトだったんダロウ」
「ガイコク人と接触した。というコト自体は、隠すコトなく。というよりも、隠すコトがデキない。つまり、ウソをつくワケにもいかない。たとえウソをついたトコロで、いずれはバレてしまう、リスク・キケン性・可能性がたかい。
でも、『じゃあ一体ナンで、ガイコク人と接触したのか』という、このリユウ・原因については、医者たちにとっては関心のソトになる。だからこそ、コチラの小細工が有効であり、効果的であった。というワケですね?」
「そういうコトになる」
(ホントウにこのヒトは、ニンゲンの心理というか、ココロの微妙な機微だとか、かんがえかたを、絶妙なトコロで突いてくる)
徳吉は、医者たちをあんないした本田たちにたいして、あるコトをつたえて、あんないしたニンゲン全員に、口裏合わせするようにつたえたのであった。
ソレは、『ガイコクとの貿易や交流が、禁止されているのに、ガイコク人と、ナゼ接触するコトになったのか』という点についてである。
医者たちが、「密貿易をしている」と、カンづいてしまえば、ソレをだまっているように、めいれいしたり、強制するコトはデキない。
かといって、だまっているように依頼し、おねがいをしてみたトコロで、あいてがソレを、チャントまもってくれる保証などナイ。
だから、「あいてがイチイチ関心を持たず、たいして気にしないようなコトを、リユウ・原因にする」というカタチで、医者たちに、つたえるようにしたのであった。
その「ガイコクとの貿易や交流が、禁止されているのにもかかわらず、ガイコク人と、ナゼ会い、接触したのか」という、リユウ・原因として、「ガイコクのフネが、沖合で密漁をしていたのだが、時化に遭い、フネが転覆して、陸にながされてきた。何人か、せいぞん者がおり、地元のニンゲンが看病をしたのだが、運悪く、全員が死んでしまった。だから、ガイコク人と接触し、かかわるコトになった」というものであった。
このコトを、本田をはじめ、医者たちをあんないしたニンゲンにたいして、つたえておいたのである。
そして、医者にたいして、ガイコク人と会い、接触したリユウとして、せつめいするように指示したのだ。
(医者としては、『この国にそんざいしていない、ガイコクのびょうきに、一体ナゼ感染したのか』というコトは、おそらく気になるハズだ。
だから、『ガイコク人と、ナゼ、どういうカタチで会い、接触したのか』というコトは、聞いてくるダロウ。その可能性が、カナリたかい。
でも、こういうリユウなら、ソレ以上、うたがうコトはナイ。というか、医者としては、『ホントウに、密漁をしていたガイコク人が遭難し、ながれついたのか』というコト自体を、イチイチうたがったり、追求しなければならない動機やリユウは、まずナイ。
だから、コレ以上、このコトを、イチイチ気にしないダロウし。関心も持つコトはナイ。ホントウに、そのニンゲンが、じぶんの置かれた状況・たちばで、どういうコトが気になり、関心があるのか。というコトを、絶妙なカタチで察知して、気がつくヒトだなあ)
藤柴は、内心において感心してしまった。
(おそらく、本田くんたちも、おなじようなコトをおもったダロウ)
とも、かんじたのであった。
そして、この藤柴の想像というものは、みごとにアタッていた。あたらしく、この勢力にたいして参加し、しょぞくをするコトになった、本田たち地元採用のニンゲンは、「じぶんが参加して、しょぞくをしている勢力のニンゲンが、予想した以上にすぐれている」というコトを、かんじたのであった。
現に、こんかいの一見以降、本田たち、地元で採用したニンゲンたちは、徳吉にたいして、今まで以上にスゴイとかんじ、心服したのである。
本田たちは、徳吉にたいして、「すぐれたレベルのずのう・のうりょく・さいのう・資質を持っていながらも、まわりのニンゲンから、まったく評価されるコトがなかった。そして、ソレをいかすコトもデキず、田舎にうもれて、くすぶっていたトコロを、見つけてもらった」という恩を、かんじていたのであった。
そして、こんかいの一件で、ソレだけではなくて、「じぶんたちを見いだして、見つけだして、たかい評価をしてくれたニンゲンが、おもった以上にすぐれている」というコトを、かんじたといってもいいであろう。
そのせいか、今まで以上に、徳吉にたいして敬意をはらい、徳吉のいうコトを、つまり、めいれい・指示というものを、今まで以上にチャントまもり、おこない、実行するようになったのである。
(こんかいの一件で、地元で採用したニンゲンたちは、どうやら、徳吉さんにたいして、今まで以上に心服し、敬意をはらっているようにおもえる。
つまり、徳吉さんは、期せずして、『部下からの心服だとか、敬意を勝ち取るコトもデキた』というワケか。しかも、カナリすぐれた部下たちから)
「士は、おのれを知る者のために死す。というコトバがありますが、本田くんたちは、そういうキモチや感情を持ったかもしれませんね」
藤柴は、ひとりごとのように、こうつぶやいた。
「どうしたんだい、とつぜん」
「イエ、ナンでもありません。ただのひとりごとですよ」
藤柴は、わらいながらいった。
エピソード④完結です




