予想
徳吉は、ゲンバを見に行ったときにした、本田とのかいわを、ふとおもいだしたのである。
(オレが、『この海の先で、暖流と海流がぶつかる地点があり、ソコには、たくさんのサカナがおり、ユタカな漁場がある。というハナシは聞いたコトがある』とハナシをしたら、カレは、『沖合ですが、そういう漁場があり、セカイ的に有名な漁場らしい。セカイでも有数に、たくさんの種類のサカナがあつまり、そして、たくさんの量が獲れるらしい』と、たしか言っていたが、ナゼそんなコトを、カレが知っているんだ?
マトモな教育をうけていない。さらに、本屋がなくて、本も買うコトがデキないし、図書館もナイ。テレビもラジオも、マトモに普及していない。カレがガイコクの情報を手にいれるコトなんて、デキるとはおもえんのだけど)
コレは、とても些細であり、ちいさなコトであった。だがしかし、ダンダンと、徳吉のなかで、奇妙な違和感が芽生えはじめた。
(たしか、カレは、『すこしばしょを変えると、水深が、カナリ深くなっているトコロもある。おおきなフネもうごきやすいから、陸地の近くまで、着くコトがデキるほどだ』ともいっていた。
でも、オレが見たトコロ、猟師のフネは、とてもちいさかった。ソレに、カレ自身も、『個人が小キボな漁師をやっているダケだ』ともいっていた。『おおきなフネ』なんていうのは、あのばしょには、そんざいしていないダロウ。
徳吉のアタマのなかで、ソレまでバラバラだったコトが。つまり、一見すると、まったくナンのカンケイ性も、かんれん性もナイような、ちいさなコトが、ダンダンと、ツナガリはじめていた。
「そういうばめんを、じっさいに、じぶんの目で見たのか、あるいは、ダレかに聞いた。っていうコトか」
こうつぶやくと、徳吉は、地図をひろげた。
(この国は島国で、四方を海にかこまれている。でもアタリマエのコトだが、海には国境線をしめす塀だとか、カベなんてものはナイ。ガイコクのフネが、この国の近くにやってきたとしても、けっしてフシギではナイ。
ガイコクのフネがやってきたトコロで、この第4地区の海だったら、体制側の監視なんていうものは、ほぼそんざいしていない。
ソレに、セカイ有数の漁場だったら、ガイコクのフネがやってきて、ココでコッソリ漁をしたとしても、オカシクはナイか。
そして、とおい国からフネがやってきたとき、この国には、ガイコクのフネが立ち寄れるようなミナトはすくない。
そもそもの前提として、コッソリやってきて、漁をしているんだったら、体制側が管理するミナトには、立ち寄るコトはデキないハズだ。でもニンゲンである以上、どうしても、新鮮な水や食料とかは、ほしいハズだ。
となると、コッソリと秘密裏に、ココでソレを売るニンゲンがでてきたとしても、けっしてフシギではナイか。
本田くんのいう、『おおきなフネ』っていうのは、このあたりにはナイ。となると、ソレは、ガイコクのフネのコトかもしれない。ガイコクのおおきなフネが、漁をしにやってきているのか。
ソコで、ガイコク人をあいてに、ナニカを売っているニンゲンがいるのかもしれない。商品をはこぶのに、とおい沖合では不便だ。でも水深が深い上に、ヤマがつよい風を遮るばしょまである。となると、ソコで商売をしているんダロウか。
こうかんがえてみると、本田くんのいった発言と、このガイコクの商品や製品のそんざいも、いちおうは、ツジツマが合うような気がする)
このような仮説が、徳吉のなかにうかんできた。
(さて、コレはどうしたもんか。気がつかず、見なかったコトにするベキか)
と、このようにもかんがえた。だが、ソレと同時に、
(べつにオレは、ガイコクとの貿易や交流にたいして、ハンタイ意見は持っていない。というよりも、むしろ、体制側に気がつかれない範囲で、ソレをしても良いとさえおもっている。
だったら、儲けがあるワケだし、ないよう次第では、オレたちも、一枚噛んでもいいかもしれない)
このようにかんがえたのであるが、すぐに徳吉は、アタマからコレをけした。
(イヤ、イカンイカン。まだナニも、ウラが取れていない。オレのカンゼンな憶測にすぎない。憶測でナニカを決めたり、はんだんするのはキケンすぎる。不用心きわまりない。
まずは、オレの想像したコトが、カンゼンな妄想にすぎないのか、ソレとも、アタリなのかをかくにんするベキか)
そのあと、徳吉は、本田を呼んだ。そして、本田にたいして、「ナゼ、セカイ的に有名な漁場であると知っていたのか。ソレをドコで知ったのか」というコトと、そして、「おおきなフネが、陸地の近くまで着くコトがデキると、ナゼ知っているのか。おおきなフネなど、そんざいしていないハズだが」というコトを、聞いたのであった。
さいしょ、本田は、すこしだけバツの悪そうなカオをした。その表情は、「シマッタ」という、一種の後悔の念であったり、あるいは、「ナンていおうか」という、とまどいを表しているように、徳吉には見えた。
「イヤ、コレはべつに、責めているワケじゃない。しょうじきに答えてほしい。オレとしては、たんじゅんに、『可能なかぎり、ただしいコトを知りたい』というコトだよ。
コレが、このコトを聞く動機・リユウだよ。べつにオレは、体制側のヤクニンや、特殊ケイサツのニンゲンじゃあナイ。だから、ウソ偽りなく、ホントウのコトを、おしえてもらいたい」
徳吉がこういうと、本田は、そのリユウ・ワケをいいだした。そしてソレは、徳吉の予想したとおりであった。
(ヤッパリ密貿易か)
「ちなみに本田くんは、じぶん自身が、そのガイコクとの貿易や交流にたいして、つまり、密貿易にたいして、かかわったコトがあるかい?あるいは、じぶんの目で、その光景やようすを、見たコトがあるとか?」
「イエ、ワタシ自身は、そういうコトにたいして、かかわったコトなどありません。今までずっと、セケンの片すみで、ヒッソリといきてきましたから。
ソレに、じぶんの目で見たコトもありません。ですがまあ、こういうトコロに、ながねん住んでいますから、ときどき、そういうハナシであるとか、ウワサなんかをミミにして、聞いたコトがある。というくらいです。そのていどです」
「ソウか、アリガトウ。もうシゴトに戻ってよいよ」
本田が立ち去ったおと、徳吉はふたたび、「ガイコクの商品や製品を取りあつかっている」という書類を読みだした。
(オレたちが、ガイコクとの貿易や交流にたいして、一枚噛もうとしても、そうカンタンに、うまくいくとはおもえない。
おそらく、コレを生業にしているニンゲン・勢力・そしきが、もうすでに、そんざいしているハズだ。ソイツらとのあいだで、モンダイ・トラブル・モメゴトがおきかねないか。
オレとしては、モンダイ・トラブル・モメゴトは、可能なかぎり阻止し、ふせぎ、避けておきたい。既得権益を持っている対象に、ヘタに手をだすと、ひつよう以上に、あいては過敏になって、カゲキに反応し、ハンタイ・ていこうし、トラブル・モメゴトになりかねない。
こういうコトは、カナリたかい確率で、後々あらそいごと、ケンカ、たたかい、紛争のリユウ・げんいん・要因になる。
たしかにオレたちは、第3地区の出先機関として、一定の権威を持ってはいる。でも、つよい武力までは持っていない。カンタンな警備や警護をするていどのチカラしかない。
となると、死人やケガ人がでるような、でかいキボのはげしい闘争っていうのは、けっして得策じゃない)
「今はまだ、オレのアタマのなかだけに留めておこう」
こうつぶやくと、徳吉は、このコトを、一旦はわすれるようにした。




