視察
エピソード④です
(やはり、まずしいな)
目のまえにひろがっている光景を見て、徳吉は、内心において、このようにおもった。
(この第4地区は、オレの想像していた以上にまずしい。かつていた第3地区も、けっして裕福ではなかった。でもココは、さらにヒドイ)
ある日、この第4地区の現状というものを、「じっさいに、じぶんの目で見てみよう」とかんがえて、徳吉は、各地をまわりはじめたのである。
(ナニゴトも、百聞は一見に如かず。というが、ヤッパリ、ミミで聞いたり、書類や資料を読むダケでは、どうにも腑に落ちないというか、腹にシックリとこない。じぶんの目で、ちょくせつ的にモノゴトを見ないと、実感が伴わん)
現地をあんないしている本田が、徳吉にはなしかけた。
「いかがですか?」
「イヤ、予想した以上に、みなさん、苦労しているとかんじたよ」
「ソウですか。たしかに、ココに住んでいるニンゲンは皆、びんぼうに耐えています。というか、コレがアタリマエの状態なんです。
今の現状にたいして、フヘイ・フマンだとか、怒りの感情を持つ。というコトすら、もはや、あきらめているのかもしれません」
「コレが、アタリマエの状態か。たしかにニンゲンは、『コレがアタリマエの状態だ』とかんがえると、ソレにたいして、不しぜんさ、違和感とかを、次第にかんじなくなるか」
「ハイ、おっしゃるとおりです。ナニセ、そういうワタシ自身、つい最近まで、ソウでしたから」
あんないをしている本田は、つい最近、徳吉たちの勢力・そしきにたいして、入ったばかりのニンゲンであった。つまり、無料の医療サービスをつうじて、あらたに入ったニンゲンのひとりである。
「本田くん自身が、ソウだったというワケか」
「ソウなります」
「ヤッパリ、ニンゲンは、ほかのモノゴトと比較するコトがデキないと、つまり、比較をする対象がまったくナイと、ソレが、アタリマエの状態だとおもってしまう。というワケか」
「ソレは、ひていするコトがデキません。もっというと、比較をする対象がナイ。というダケではなくて、『無知だった』というコトも、今となっては、おおきな要因というか、げんいん・リユウだったと、心底からかんじます」
「無知はコワイ。というのは、ホントウのコトか」
「そのとおりです」
「いちおうカクニンするけど、この土地には、ナニカの天然資源っていうのは、そんざいしていないんだよね」
「ワタシが知るかぎり、ナイとおもいます」
「たとえば、石油や天然ガスだとか、石炭や鉄や銅とかの鉱物資源もナイ。というワケかい?」
「ハイ、ナイです」
(ナニカしら天然資源があれば、ソレを採掘して売るコトで、カネを手にいれるコトがデキるかもしれない。でも、ソレがナイ。となると)
こうかんがえると、徳吉は、この国の置かれている状況というものを、アレコレとおもいだしていた。
(天然資源がナイという以上、ガイコクから、ソレを輸入して、この国でナニカを製造し、加工する。そして、ソレをガイコクにたいして輸出して売る。というコトは、デキないダロウか)
と、かんがえたのであるが、どうやら、コレもむずかしそうであった。アタリマエのコトなのだが、ソレなりに付加価値のたかいモノをつくる高度な製造業となると、せんもん家、エンジニアというニンゲンが、ひつよう不可欠になってくる。
だがしかし、この国では、そういう理数系・理工系の高等教育機関というものが、あっとう的にすくない。ましてや、この第4地区に、あるハズがナイ。
さらにいえば、付加価値のたかい、高度な製造業というものが、産業として成りたつためには、たくさんの電気がひつよう不可欠になってくる。だがしかし、その電気をつくる発電所もナイし、送電網もナイのだ。
そして、物流システムがなければ、つくった製品を、はこぶコトもデキない。そのための整備された道路もなければ、はこぶクルマもすくない。ソレに、鉄道もすくない。
さらにいえば、リッパな港湾もナイし、巨大なフネもナイ。つまり、物流という点でのインフラも、ほとんど整備されていない。
というコトであれば、発電に必要な石油や天然ガスであったり、あるいは、製造のざいりょう・原料・素材であったり、製造した機械や製品というものを、はこぶコトもデキない。
「ある資源といえば、水くらいか」
「ソウですね。水ならば豊富にあります。梅雨やタイフウの時期もあります。ソレに、冬には雪も降ります。だから、キホン的に、あまり水不足にはなりません」
「その水をいかして、農業をしている。というワケだね?」
「ハイ、とはいっても、小キボな農業です。大キボにおこなうコトはデキていません」
「ちなみに、そのリユウ・げんいんは、本田くんの見るところ、一体ナンだとおもう?」
「まず、たくさんの中小キボの零細農家がおり、各々が、じぶんの田畑を持っており、ソレが基盤となっています。
さらに、大キボな農業をおこなうタメには、トラクターなどの機械がひつよう不可欠になります。ですが、ソレを用意するコトがデキるほど、資金を持っているニンゲンがいません。
たとえ機械を用意するコトがデキたとしても、燃料を補給するばしょがナイです。ソレに、こわれたり、故障をしたときに、ソレを直すコトがデキるニンゲンもいません。
そして、もしも農業を、大キボにおこなうコトがデキたとしても、ソレを売るばしょ、市場がナイですね」
「たしかに、『すべてのモノを、共有党が所有し、管理をする』というのが、この国のタテマエというか、カタチだからね。
各々が、じぶんの意思・はんだんで、じゆうに商売や事業をして、おカネをかせぐ。というコトにたいして、キビシイ規制がかかっている」
「とはいっても、ココは第4地区ですから、体制からの監視は弱いんです。ですから、条件さえそろえば、あるていどであれば、可能になるかもしれません。でも、もしかしたら、ソレ以前のモンダイかもしれません」
「ソレ以前のモンダイ?」
徳吉は、おもわず聞きかえした。
「ハイ、そういう、いわゆる『ニンゲンがつくった前提条件』というよりは、『地形的で、地理的な条件というものが、大キボな農業の普及にたいして、制約をかけている』と、ワタシはかんがえています」
「地形的で、地理的な条件か」
こういうと、徳吉はあらためて、まわりの光景を見わたしてみた。このときは、「まずしいニンゲンのようすを見る」というのではなくて、「この土地の風景、しぜんカンキョウを見る」というカタチで。
(ソレなりに平野がひろがっているが、そもそも、この国は、あっとう的にヤマがおおい。つまり、平地自体の面積というものが、ソレほどではナイ。だから、『傾斜地がおおくて、大キボな農業っていうものが、普及しにくかった』というワケか)
「ニンゲンのチカラで、地形や地理を変えるコトはデキない、か」
「ソウなりますね」
「となると、『すくない耕作面積で、付加価値のたかい農作物をつくり、ソレを売る』っていうカタチが、げんじつ的な案というか、カイケツ策になるかもしれない」
「小キボな農地である以上、ソレが、げんじつ的なカイケツ策だとワタシもおもいます」
「ちなみに、ココには海があるけれども、水産物はどうダロウ?」
「水産物は、ソレなりに獲れているとおもいます。すくなくとも、この地区で、餓死者があまりでていないのは、雨がおおく振り、水がユタカであり、小キボな農業であれば、十分に成りたっているコトと、水産物があるタメに、ナントカなっている。というのが現状です」
「たしか、この海の先では、暖流と海流がぶつかる地点があり、ソコには、たくさんのサカナがおり、ユタカな漁場がある。というハナシは、聞いたコトがあるけれども」
「ソウです。ココから沖合のトコロになるのですが、たしかに、そういう漁場があります。ナンでも、セカイ的に有名な漁場らしいです。
セカイでも有数に、たくさんの種類のサカナがあつまり、そして、たくさんの量が獲れるらしいです。
あと、この地区の海は、砂浜がつづいていて、浅いトコロもありますが、すこしばしょを変えると、水深が、カナリ深くなっているトコロもあります。
しかもソコは、ヤマが海にはいりこみ、つよい風も遮ぎます。ですので、波がおだやかで、フネが風にジャマされず、漁をするのに適しています。そのせいか、水深の深いトコロに棲んでいるサカナも、獲るコトがデキます。
さらにココでは、おおきな船がうごきやすいから、陸地の近くまで着くコトがデキるほどです。
あと、海藻なども獲れます。ですので、漁業にかんしては、コレから拡大・発展していく余地は、あるかとおもいます。
ですが、農業における農家とおなじく、漁業についても、『各個人が、小キボにおこなっている』というカタチになっています。つまり、『大キボなカタチで漁業をおこなう』というコトは、デキていません」
(一定のキボの船団を組み、サカナを見つけだす、魚群探知機とかを用意するコトがデキれば、ソレなりに産業として、おおきくなるかもしれないか)
「農地、海とハナシを聞いたけれども、となると、ヤマについてはどうダロウか?ナニカの林産物はあるかい?」
「ヤマですか。しょうじきなトコロ、ヤマについては、あまり目ぼしいモノはありません。木を育てる林業はありません。まあタケノコだとか、キノコ、山菜、ヤマイモが獲れる。というトコロでしょうか」
(一次産業である農林水産業は、そういう状態なのか)
「高度で大キボな製造業はムリだとしても、農林水産物をざいりょうにした、加工食品だったら可能かもしれないか。ソレに、水もおおいから、コレをつかって、ナニカしらデキるといいんだが」
「どうでしょうね。ナニをやるにしても、まずネックになるのは、おカネがない。という点ですね。ソレに、各種のせんもん家がいない。というコトも、障害のひとつになるかと」
「たしかに、ナニをやるにしても、その道のせんもん家がいないと、ハナシにならない。シロウトだけでは、たいしたコトはやれないし、つくれない。
せんもん的なちしき・情報を知っていて、せんもん的なぎじゅつ・技能を持っている、せんもん家がいなければ、付加価値のたかいモノを、つくるコトはデキないか」
「おっしゃるとおりです」
「そういうイミでは、やはり、教育機関の不在が。とくに、『せんもん的で、高度な教育をうけるコトがデキる、高等教育がナイ』というコトが、おおきなネックといえるか」
「まさに、そのとおりだとおもいます。もしかしたら、せんもん家になれるだけの素質を持っているニンゲンは、さがしだせば、多少はいるかもしれません。
でも、その当のほんにんが、せんもん的で、高度な学問・技能をまなぶコトがデキる、教育機関がありません。つまり、『せんもん家になるコトがデキる場がナイ』という状態です。コレがおおきな障害であり、ネックだと、ワタシもおもいます」
(まずは農林水産業を、今よりも効率化して、すこしでも付加価値のたかいモノを生みだす。というカタチにしなければならないか。
そして、高度な製造業はムリだから、やはり、『農林水産物をざいりょうにした、加工食品をつくる』っていうコトが、このひんこん状態っていうものを、すこしでもカイゼンさせるのに、ゲンジツ的な方法におもえる。
とはいっても、ナニをするにも、まず第一に、おカネがひつようになる。投資をしなければ、事業はおこなえない。
でも、オレたち自身、資金にヨユウはナイ。ソレに、投資を募ったとしても、まずしいこの地区では、おカネをだせるニンゲンなんていうのは、そんざいしていない)
「このまずしい状態をカイゼンさせるタメに、ナニカしらの産業をつくろうとしても、おカネっていう先立つモノがナイと、どうにもならな。というワケか」
「ホントウに、そのとおりですね」
「その上さらに、せんもん的なじんざいも、そんざいしていない。ときている。今のトコロは、八方塞がりだ」
「やはり、手の打ちようがナイ。というコトでしょうかね。ワタシ自身、今の貧困状態には、ホントウに、嫌気が差しています。
ですので、『ナニカの産業を育成して、すこしでも、ケイザイ状態、せいかつ水準を上げたい』というキモチは、つよく持っています。
ソレが、今こうして、皆さんのおかげで、あたらしいコトを知って、つまり、ちしき・情報を知って、現状について、かんがえるコトがデキるようになった、ワタシ自身の偽らざるホンネ。というトコロです。ですが」
こういうと、本田は、すこし暗いカオをした。




