ナニをおこなうベキか
数日後、徳吉は、藤柴が高井のふたりを呼んだ。
「どうしました、ナニカありました?」
藤柴が聞いた。
「イヤ、ふたりに意見を聞きたいというか、そうだんしたいコトがあってね」
「ソウですか。ソレは一体ナンですか?」
「こうして今、このそしきに、たくさんの優秀で有能なニンゲンたちが、つまり、じんざいたちが入ってくれたワケだけど、カレら、カノジョらにたいして、今後、一体どういうカタチで協力をもとめるベキか。っていうコトを、一度チャント、はなしあっておくベキだとおもってね」
「協力ですか」
「ソウ、協力。しょうじきなトコロ、さいしょは、すぐれたニンゲンがふえたワケだから、実務的なコトが、スムーズにススムんじゃないか。っていうコトを、つまり、そのていどのコトを、オレはかんがえていたし、期待していた」
「ええ、ソレは私もおなじです」
「俺もです」
藤柴と高井が答えた。
ソレで、このまえ、高井くんがポロっといったコトバが、ひとことが気になってね」
「じぶんがですか?」
「ソウ、キミがいったコトだよ」
「じぶん、ナニカいいましたっけ?」
「ほら、火をつけたらどうなる。っていうコトバだよ」
「ああ、ソウいえば、そんなコトをいいましたね」
ふたりのかいわを聞いていた藤柴が、ココで高井に聞いていた。
「火、ソレはナンのイミだ?」
「イヤ、あたらしく入った連中は、つよいフヘイ・フマン、怒りの感情を持っているダロウ。ナンかソレが、ガソリンや灯油みたいにおもえてね。ソコで、つい、火をつけたらどうなるんダロウ。って、徳吉さんに言ったんだよ、たしか」
「火ねえ。チョット抽象的過ぎて、オレにはピンとこない。でも、徳吉さんは、ナニカ引っかかったんですよね?」
「すこしね」
藤柴と高井は、ふたり同時に、徳吉のほうを見た。
「キミたちも知ってのとおり、このそしきは、オモテ向きは、徴税業務にかんするシゴトをおこなっている。そして、一種のそうだん所にもなっている。ヨロズそうだん所といってもいいか。
コチラが持っている情報とかを、差しつかえない範囲で、そうだん者につたえている。そして、あたらしく加わったメンバーにたいしても、このコトをつたえている」
「おっしゃるとおりです」
藤柴と高井は、ふたり同時に答えた。
「今後、このそしきが業務を拡大していくときに、優秀で有能なニンゲン・じんざいが、ひつよう不可欠になってくる。でなければ、業務を拡大していくコトはデキない。
そういうイミで、すぐれたニンゲンが、たくさん入ってくれたコトは、とてもウレシイ。まさか、無料の医療サービスの提供から、こういう副産物がうまれたのは、カンゼンに予想外だった。
ソレで、このあたらしいメンバーたちにたいして、コチラとしては、たんじゅんに、『コレで、実務的なシゴトをまかせるコトがデキる、そういうニンゲンがふえた』っていうコトを期待し、かんがえていた。コレは、キミたちふたりも知っているコトだよね」
「ええ、ソウです。オレも高井も、そういうツモリでいます」
「コレは、いいかたを変えれば、『実務上のシゴトをすすめる上で、役にたち有効だ。っていうコトしか、カレら、カノジョらにたいして、期待していない』っていうカタチになる。
だから、カレら、カノジョらにたいして、このそしきがおこなっているシゴトが、つまり、『私有ざいさん・資産のデータベース化っていうものが、ミライにたいして、どういう影響をあたえていくのか』っていうコトは、一切つたえていない。
つまり、各々の個人が、じぶんの持っている資産・財産を、ハッキリと知り、にんしきし、りかいすると、ソレは、個人のじゆう・権利っていうモノを、つよくいしきし、にんしきするようになる。だから、今のこの国の政治体制や統治機構っていうモノに、穴をあけるかもしれない。
ソレは、風穴というか、おおきなフネの底に、穴を開けるようなコトであり、あるいは、おおおきなダムに、亀裂をいれるコトになるかもしれない。そういう可能性もある。
ばあいによっては、今のこの国の政治体制や統治機構っていうモノを、突きくずすコトもありえると、オレたちは想定している。
でも、こんなコトを、大っぴらにいうワケにはいかない。そんなコトをすれば、ドコカで、特殊ケイサツのミミにはいりかねない。
こんなコトが、ヤツラにしられてしまえば、ソレこそ、『反体制的なキケン分子』っていうレッテルを張られてしまい、コロサレかねない。だからコレは、われわれだけのヒミツにしている」
「まさか徳吉さん、ソレを、『あたらしく入ったメンバーたちに公表して、つたえる』と、おっしゃいたいんですか?」
「カンがいいね、高井くんは。半分は正解で、半分は違うよ」
「半分ですか」
「ソウ、半分。さすがに、あたらしく入ったばかりのニンゲンにたいして、こんなキケンなコトを、つたえるワケにはいかない。
ソレに、こういうコトは、しょうじきなトコロ、コレ以上、たすうのニンゲンにたいして、つたえるベキじゃナイと、オレはおもう。
今このコトを知っているのは、オレと、ココにいる藤柴くんと高井くん。そして、桂さん。つまり、4人しかいない。
コレ以上のニンゲンにしらせると、ドコカで情報が洩れるともかぎらない。そういうリスク・キケン性は、避けるベキだとおもう」
「良かった。カレら、カノジョらにたいして、ソレをつたえる。っていうワケじゃないんですね。しょうじきなトコロ、もしも徳吉さんが、ソレを言ったら、はんたいするツモリでしたよ」
藤柴が、あんしんしたようにいった。
「イヤイヤ、オレはソコまで大胆じゃないよ。そんなに肝が座ったニンゲンじゃない。だから、そんなリスク・キケン性を冒すのは、ゼッタイに避けたい」
「となると、あたらしく入ったニンゲンたちに、一体ナニをつたえるツモリなんですか?」
「つたえるというか、まあ、匂わすというか」
「匂わす、ですか?」
「ちょくせつ的に、ストレートにつたえたり、言ったりするんじゃなくて、まあ『間接的に、暗示する』っていうカタチを取ろうとおもう。『比喩的な表現でつたえる』といってもいいか」
「間接的に暗示して、比喩ですか」
藤柴も高井も、要領を得ないようなカオつきをした。
「くわしくいうと、このそしきのゴールというか、最終もくてき地を、ハッキリと明言せず、つたえるコトはしない。
だから、カレら、カノジョらが、ソレを知るコトはナイ。でも、向かうべき方向性は、ハッキリとつたえる。とでもいえばいいのか」
「スミマセン、おっしゃるイミが、まだわからないのですが」
藤柴がこう聞くと、徳吉は、ふたりのまえに書類を見せた。
「この書類は、むかし徳吉さんがつくった書類ですよね。『個人の持っている私有ざいさん・資産を、めいかく化し、ソレをデータ化して管理する。そうするコトで、徴税業務がはかどる』っていう書類ですよね」
「そのとおり、この第4地区にくるまえに、キミたちふたりが、『コレをつくったのはオレだ』というコトを見ぬいた、あの書類だよ」
「コレは、『ゴールというか、ソレをおこなうと、さいごは一体どうなるのか。そういう最終もくてき地、行きつく先を、あえて書いていない』っていう、あの書類ですよね。ソレを見せるんですか?」
「ないようをすこし変えるかもしれないが、この書類のないようを、資料として配って、あたらしく入ったメンバーたちに、つたえようかとおもう」
「ナルホド、ソレについては、べつにワタシは、はんたいしません。とくにナニも、モンダイ・支障はナイかとおもいます。高井、オマエはどうおもう?」
「オレも、モンダイ・支障はナイとおもう」
「良かった、ふたりとも、とくに異論はナイ。というコトでいいかい?」
「ええ、ダイジョウブです」
(ソレが一体、どうしたんだ?)
藤柴も高井も、内心、こういうギモンを持った。
「スミマセン、コレをつたえるコトで、ナニカあるんでしょうか?」
「たぶん、キミたちのように、この書類に書かれているコトを、つまり、『かくされたゴールというか、最終もくてき地、行き着く先として、今のこの国の政治体制や統治機構を、突きくずし、こわす可能性がある』っていうコトまで、気がつけるニンゲンは、まずいないとおもう。
あたらしく入ったカレら、カノジョらが、いくらアタマが良いとはいっても、さすがに、ソコまでは気づかないダロウね。
まあ、たとえ気がついたニンゲンがいたとしても、そんなコトは、書類にまったく書かれていない。
だから、コチラとしても、ソレを聞かれたトコロで、『知らぬ存ぜぬ』で押しとおせばよいワケだし。あるいは、ソレがデキるともいえるか。
まったく書かれていない以上、コチラとしても、イチイチみとめたり、肯定するリユウも、ひつよう性もない。
でも、この書類に書かれているコトをおこなえば、いずれは、今のこの国の政治体制や統治機構っていうモノを、カンゼンにこわし、崩壊させるコトはデキないかもしれないが、すこし穴を開けるコトくらいは、デキるかもしれない。
そして、あたらしく入ったニンゲンたちには、ココに書かれているコトを、おこなってもらう。『じぶんが一体、ナニをおこなうベキなのか』っていうコトを、チャント知っておくほうが、シゴトの効率は上がるし、すぐれたアタマを持っているニンゲンも、ソレをフルにかつようし、いかすコトがデキるダロウし。
ニンゲンは、『じぶんが一体、今ナニをしているのか』っていうコトが、ハッキリわかっていないと、いくら優秀で有能なニンゲンであっても、そのチカラ・のうりょく・さいのう・才覚を、フルに発揮するコトはデキない。
だから、このそしきがおこなうコトを、ないようを、チャントしらせるベキだとおもう」
この徳吉のせつめいに、藤柴も高井も、ナットクをした。
「ナルホド、たしかにソウですね。じぶんが一体、今ナニをしているのか。ナニをすベキなのか。コレがわからなければ、どんなにすぐれたニンゲンであっても、たいしたコトはデキなさそうです。
そして、徳吉さんのつくった書類は、いちばん肝心要のコトが、つまり、核心・本質・要点である、最終もくてき地、ゴール、行き着く先っていうものが、まったく書かれていない。
というコトであれば、コレに気がつかないニンゲンが、ほとんどでしょうし、たとえ気がついたとしても、コチラとしては、ソレをみとめなければいい。コレなら利に適っていますし、リスク・キケン性も、すくないかとおもいます」
「オレも、藤柴とおなじです」
「ソウか、キミたちふたりが、賛同してくれるならココロづよい。じゃあオレは、この書類のないようを再かくにんし、修正するベキところは修正し、カレら、カノジョらにわたす資料をつくるよ」
「了解しました」




