囲う
(どうしたんだ?ナニカをいおうとして、急にだまったけど)
「ヤッパリ、似たようなニンゲン同士のかいわっていうのは、気づきがある。じぶんひとりだけで、沈思黙考というか、だまって熟考するだけでは、気がつかないコトもあるか」
「どうしました?」
「今のオレは、キミとのかいわを、まあたのしんでいる。まったく苦痛にかんじていないどころか、気分が良くなる」
「ソレは、ワタシとしてもおなじですよ。まったくハナシが噛みあわないニンゲンがあいてでは、まいかい、カナリの苦痛というか、ストレスをかんじます。
でも、徳吉さんや高井とのかいわでは、そういうのを一切、まったくかんじません。ソレどころか、かいわをたのしんでいますよ」
「ソレだよ」
「といいますと?」
「コレもまた、ニンゲンの持っている、一種の欲望なんダロウね」
「欲望、ですか」
「コレも欲望なんだとおもう。ニンゲンの持っているゼッタイ欲である、食欲や睡眠欲や性欲とは違うけど、『じぶんと似たようなニンゲンと、ハナシをしたい』という欲望や欲求は、カナリつよいとおもう」
「たしかに、ソレはつよいですね。誰であっても、気の合うニンゲンとのおしゃべり、かいわは、たのしいですし」
「だがしかし、さっきもいったとおり、ずのうレベル・知的レベルのたかいニンゲンは、この第4地区では、まわりに、じぶんに似たレベルのニンゲンがいない。
だから、おそらく、こりつ感・こどく感っていうものを、つね日ごろから、つよく持っているとおもう」
(ソレが一体、どうしたんダロウか?)
「ソレは、ワタシも賛成です。ソウおもいます」
「つまり、すぐれたニンゲンにとって、この第4地区に住んでいるかぎり、ゼッタイ欲ほどではナイにしても、このつよい欲望というものを、十分に満たすコトがデキていない。
この第4地区に住んでいる、知的レベル・ずのうレベルのたかいニンゲンたちは、こんかいの医者とのハナシ、かいわで、カナリのマンゾク感を、得ているんじゃないダロウか?」
「つまり、フツウのニンゲン以上に、つよいマンゾク感を得ていると?」
「ソウおもう」
「ナルホド」
「よくかんがえてみれば、フダンから、そういう欲望や欲求を満たす場が、そんざいしていない。だから、カナリつよい飢餓感を持っている。
ソコに、そのカナリつよい欲望・欲求を満たすコトがデキる場が、とつぜん現れた。となれば、フツウのニンゲンよりも、つよいマンゾク感を得ていても、けっしてフシギではない。ソレに」
「ソレに?」
「たかい知能を持っている、ずのうレベル・知的レベルのたかいニンゲンほど、抽象的というか、形而上的な欲望や欲求っていうものが、フツウのニンゲンよりも、カナリつよい気がする」
「抽象的で、形而上的な欲求ですか?」
(どういうコトなんダロウか?今いちピンとこない)
「ゼッタイ欲のような、即物的で、わかりやすい欲望ではなくて、『じぶんのずのう・知能っていうモノを、フルにかつようし、つかうコトがデキるような、知的な欲求』とでもいえばいいのか。あるいは、ちしき欲もふくまれるかもしれない」
「知的な欲求や、ちしき欲ですか」
怪訝そうな顔をして、藤柴はいった。
「医者とのかいわなら、ソレを満たすコトがデキるんじゃないダロウか」
こういわれて、藤柴はハッとした。
「ナルホド、たしかにそうですね」
「アタリマエのハナシになるけども、医者であれば、一定以上のずのうレベル・知的レベルを持っている。バカでは、医者になるコトはデキない。
その上さらに、医学という、カナリのせんもん的なちしきを持っている。もっというと、医学以外のちしきを持っていても、けっしてフシギではない。
ああいう知的なシゴトのニンゲンっていうのは、『シゴト以外のコトであっても、イロイロなちしきを得たい』という欲求を、つよく持っている気がする。
こういうニンゲンとのかいわなら、ずのうレベル・知的レベルがたかいニンゲンとしては、じぶんの持っている知的な欲求っていうものを、カナリ満たすコトがデキるかもしれない。
じぶんと同等に、アタマの良いニンゲンとのハナシなら、しぜんと、アタマを使ったハナシをするコトがデキる。つまり、じぶんのアタマをフルにうごかして、回転させて、ハナシをするコトがデキる。
その上さらに、この第4地区に住んでいては、ゼッタイに手にいれるコトがデキない、知るコトがデキないような、たかいレベルのちしき・情報も、すこしは聞くコトがデキる。ソレを知るコトがデキる」
「どうやら、たんじゅんに、『医療をうけるコトがデキないニンゲンにたいして、医療サービスを提供する』というコト以外に、意外な効果があるようですね」
「ソウなるね。コレは、コチラとしては、まったく予想外の成果というか、効果といえる。せっかくなら、この予想外の成果や効果っていうモノを、ただ単に、コレだけでおわらせるんじゃなくて、プラス・アルファで、ナニカを得るカタチにしたいもんだね」
「プラス・アルファを得る。ですか」
「水平思考といってもいいか」
「ほんらいの意図・もくてき・ねらいとはべつに、違ったコトをおこなったり、手にいれる。というワケですか?」
「理想をいえば、ソウなる」
こういうと、徳吉はだまって、すこしのあいだ、ジッとかんがえこんでいた。
「囲っておくべきか」




