見知らぬニンゲン
徳吉は、ジム所にたいして到着したあと、すぐにキロク書類を熟読しはじめたのだが、その後、数日間にわたって、キロク書類を読みこんでいた。
(ホントウにイロイロなコトを、そうだんにきているワケか。近隣住民とのあいだで、トラブルになっている。害虫や害獣で、農作物にひがいがでた。水が不足している。食料が不足したり、ねだんが上がっている。クスリが急に品不足になり、手にはいらない。かつ、ねだんも上がり、こまっている。最近、治安が悪化している。まるで、ヨロズそうだん所だなコリャ)
こうして、徳吉がキロク書類を読みこんでいるあいだにも、来客はおとずれていた。そして、このジム所のようすを、とおくから、ジッと見ているニンゲンがいた。
「あのジム所に、このあいだの3人がいるワケか」
「ええ、そのはずです。どうしますか、斎藤さんも、あのジム所にいきますか?」
と、トナリにいるオトコが尋ねた。
「どうしたもんか」
「ソレにしても、ナゼ急に、ココに来ようとおもったんですか?今まで、藤柴、高井のいうコトに、ほとんど興味も関心も、示していなかったとおもうんですが」
「ソレはなあ、このあいだの言い争いのときに、藤柴と高井が割ってはいってきたダロウ。ヤツラについては、コチラとしても、ハッキリとあらそったり、てきたいする気はない。
でも、だからといって、あんしんしたり、油断するコトもデキない。そういうヤツラなんだよ。だから、あのとき、あいてとの言い争いを、とちゅうで止めたっていうワケだ。
こういうキモチや感情は、オレと言い争ってたヤツラも、たぶん、おなじだったんダロウ。だから、おたがいに、まあ暗黙の了解っていうヤツで、言い争うのを止めた。
第3地区のニンゲンにたいして、むやみにココロをひらくワケにはいかん。ヘタにヤツラにたいして事情をしられると、コチラにとって、ナニカしらのカタチで、フリな事態になるかもしれん」
(とくに、あの藤柴と高井には、用心したほうがいい。ふたりともカンがするどい。わずかなコトから、ソレこそ、些細で断片的コトだけでも、コッチのコトを、見ぬいてしまうリスク・キケン性がある)
「たしかに、おっしゃるとおりです」
「藤柴、高井については、前々から、この第4地区で、ナニやらうごいていた。だからまあ、いちおうは警戒し、注意をはらっていた。ところがだ、このあいだは、オレのまったく知らないニンゲンが、ひとりソコにいた」
「藤柴、高井といっしょにいたっていう、見知らぬニンゲンのコトですか」
「ああ、ソイツだ」
「その見知らぬニンゲンに、ナニカあるんですか?」
「イヤ、とくべつに、ナニカあるっていうワケじゃない」
「といいますと?」
部下である後藤は、怪訝そうなカオをして聞きかえした。
「ハッキリとしたコトはいえんが、すこし、気になるコトがある」
「気になるコト、ですか。ちなみにソレは、どういうコトなんでしょうか?」
「ハッキリと、どうこうっていうワケじゃない。だが、あのときの言い争いのゲンバに、高井、藤柴のあとに、その見知らぬニンゲンがやってきたとき、あのふたりが、ソイツにたいして、妙に気を遣うというか、はいりょしていた。そんな気がする」
「はいりょ。ですか」
「ああ、高井と藤柴は、ソイツが一体、どういう反応をしめすのか。そういうコトを、カナリ気にしていたように、オレには見えた」
「ソレが、ナゼそんなに気になるんですか?」
「オマエ、あのふたりが、だぞ」
こういうと、斎藤は、後藤のほうをジッと見てきた。
「オマエから見て、高井と藤柴は、どういうニンゲンに見える?どんな印象というか、イメージを持っている?」
「ソウですね、ヤツラと会ったコトがないので、まったく面識がないワケなんですが、たにんから聞いたハナシを基にすると、カンがするどいというか、アタマの回転がはやいんダロウとおもっています。
だから、コチラとしても、不要なコトはいえない。そういうイメージというか、印象を持っています」
「ヤッパリ、オマエもソウおもうか。オレも、ソレにはまったく同感だ。ヤツラにたいしては、不要なコトをいえない。
ヘタにナニカを言ったら、すぐにソレに気がついて、察知しかねない。そういうヤツラだ。ゆだんならない」
「斎藤さんも、ソウおもっているワケなんですね。でも、ソレが一体、どうしたんですか?」
「ゆだんならない高井と藤柴が、妙にはいりょして、反応を気にしている。そういうニンゲンが、ソコにやってきたんだぞ。
一体ナンのために、どういう動機・りゆう・もくてきで、ソコにやってきたのか。ソレが気になっているんだ」
「ナルホド」
(コイツのそんざいが、オレたちにとって、吉とでるか、凶とでるか。デキれば、ソレをはやい時点・だんかいで、かくにんをしておきたい)
と、斎藤は、このようにかんがえたのである。そのために、今日こうして、ココにやってきたのであった。
(とはいっても、オレが直に、あのジム所にいくのもなあ)
と、このように、躊躇もしていた。
(類はトモをよぶ。っていうが、あのふたりがつれてきたんなら、あのふたりと、似たようなタイプのニンゲンなのかもしれん。そういう可能性がある。
しかも、ゆだんならない、あの高井と藤柴のふたりが、コイツにたいしては、妙にはいりょして、反応を気にしていた。
そういうニンゲンだと仮定すると、ナニもかんがえず、用心せず、ウカツに接触すると、コチラにとって、ナニカしらのカタチで、マイナスがあるかもしれん。
ヤツラに知られたくない、コッチの情報や事情っていうモノを、いつの間にか気づかれて、カンづかれて、知られてしまう。というケースも、ばあいによってはあるかもしれん。
ソレはナントカして避けたい。そういうリスク・キケン性は、可能なかぎり、はいじょしておきたい。
第3地区のニンゲンにたいしては、いちおう注意するベキだ。不ひつように気をゆるめるワケにはいかん)
「そういうワケで、気になっているワケなんだが、オレがちょくせつ、ソイツにたいして遭遇するのは、今の時点・だんかいでは、まだナンともいえん。だから、ヤツラと面識がない、オマエをつれてきたんだ」
「つまり、ワタシがあのジム所にいって、その見知らぬニンゲンと会ってみる。と、こういうコトでしょうか?」
「ああ、とはいっても、コチラから、『ソイツにたいして会いたい』とまでは、イチイチいうひつようはない。
コッチが、『ソイツのコトが、気になっている』というコト自体を、ヤツラにたいして、しられたくない。
だからオマエは、あのジム所にやってくるニンゲンのなかにまざって、そうだん客のひとりになってもらいたい。
イロイロなコトをそうだんしたい。とかナントカ言って、何度か、ジム所のなかに入ってもらいたい。
そして、もしも、その見知らぬニンゲンと出会えたなら、コチラのないぶ事情をいわずに、まあ探れる範囲内で、あいてのコトを探ってもらいたい」
「わかりました。とはいっても、ワタシは、その見知らぬニンゲンを、まったく見ていないのですが。ですから、カオもわかりません。
もしかしたら、ダレがそのニンゲンなのか。というコト自体、わからないかもしれません。ソレでもヨロシイでしょうか?」
「ソレでもかまわん。もしかしたら、ハナシのながれで、『このジム所に、あたらしくやってきたニンゲン』っていう話題になるかもしれん。
ソレに、高井と藤柴が、妙にはいりょしたり、反応を気にしているニンゲンがいたら、ソイツこそが、その意中のニンゲンである可能性が、カナリたかい」
「ナンだか、雲をつかむようなハナシですね。ホントウに、そのニンゲンと、会うコトがデキるのかどうか。
そして、ハナシをして、探るコトがデキるのかどうか。チョットわからないというか、アヤシイとさえおもってしまいます」
「ソレはしかたない。まあ運が良ければ、ナニカわかるかもしれない。っていうコトだ。そのていどで良い」
「わかりました。では、さっそくあのジム所に行ってきます」
「ヨロシクたのむ」




