意外なコト
(吉兆とまではいかないにしても、どうやら今のオレは、ツイているのかもしれない)
ふたたび乗りこんだクルマのなかで、徳吉は、このようにかんがえていた。
「さっきの言いあらそい、すぐに収まって良かった。長引いて、メンドウくさいコトになるのはカンベンだし」
高井が、藤柴にはなしかけた。
「ソレは同感。オレたちに、直接的にかんけいない件だっけど、時間がかかって、ココで立往生っていうのは避けたかった」
「余計なコトで、ムダに時間を食ったか」
「そういうコトになるか」
ふたりの他愛もないかいわを聞きながら、徳吉は、ひとり、沈思黙考していた。
(強制ろうどう施設から、うまくにげだすコトがデキた。そして、のこったヤツラは処刑された。こうかんがえると、なんだかんだいって、今のオレは運が良いんだろう。ツイているっていうコトか。
だったら、今のオレは、ツキがまわってきている。と、こうかんがえたとしても、差しつかえはないかもしれない。
ツキがまわってきて、運が向いてきているんだったら、オレがじぶんから行動し、うごいたとしても、ワルイ方向には向かわない気がする。用心ぶかく、慎重でありさえすれば)
「ソレにしても、チョット気になったのは、あの道の先にいた、ふたりのニンゲンだけど、君たちのカオを見たら、どうも、急にはげしい言いあらそいを、ヤメたように見えたんだけど」
徳吉が、ふたりにはなしかけた。
「ソウですね、オレが、いちばん先にゲンバに着いたとき、ヤツラは、オレのカオを見た途端、急に言いあらそいが、すこし弱くなりましたね。
そのあと、藤柴と、徳吉さんがきたときも、藤柴のカオを見たら、ヤツラはさらに、声高にはなすのをヤメました。『チョット気マズイ』とでもおもったんでしょうね」
「というと、ヤツラがしょぞくする勢力っていうのは、君たちがつくった勢力にたいして、すこし、警戒心のようなモノを持っているとか?」
「警戒心とまで、いえるかどうかはわかりません。でもまあ、オレと藤柴は、第3地区からきたニンゲンであり、いわば、体制がわの出先機関のニンゲン。とでも、おもわれてるんでしょう。
だから、ハッキリと、コチラとてきたいしたり、モメルようなコトは、ヤツラとしても、避けたいんでしょう」
「高井のいうとおりでしょうね。われわれは、ヤツラからみれば、『第3地区からの回し者』とでもいうようなイメージなんでしょう。
そして、この第4地区に住んでいるニンゲンたちは、第3地区以上のニンゲン。つまり、第1地区から第3地区に住んでいるニンゲンや、そこの勢力・そしきのコトを、ココロの奥底では、警戒しているとおもいます。
ハッキリと敵だ。とまでは、にんしきしていないとしても、可能なかぎり、てきたいしたくない。とでもいうような、キモチ・スタンスなんでしょう」
「そういうヤツラをあいてに、個人の持っている私有ざいさん・資産っていうものを、ハッキリとさせて、めいかく化させる。と、言ってみたところで、おそらく、スンナリとは賛同しない可能性がたかいか」
「徳吉さんのおっしゃるとおりかとおもいます。だからこそ、われわれは、この地区に住んでいるニンゲン、そんざいする勢力について、情報をあつめて、ソレを基にして交渉したり、とりひきや、だきょう点を見いだしながら、コツコツとススメていくしかない。と、かんがえています」
(たしかに、あいてがコチラにたいして、不信感だとか、警戒心っていうものを持っている以上、マトモに主張したところで、コチラの意見や案っていうものを、スンナリとりかいして、賛同するとはおもえん。だとしたら)
「ハッキリと主張はせずに、あいてを、コチラの意図する方向に持っていく。というか、誘導していく。っていうカタチになるワケだね、たぶん」
「でしょうね」
「となると、ヤッパリこんかいの件は、吉兆になるか」
徳吉は、こうつぶやいた。
「吉兆ですか?」
高井が、怪訝そうなカオをして、聞きかえした。
「さっき君が、先にゲンバに向かったときに、すこし藤柴くんにはなしたんだけど。カンのするどい君たちが、ふたりとも、すぐに『キケン・もんだいだ』と、はんだんしなかった。コレが答えのような気がする」
「答え、ですか?」
「そう、答え。まあカンゼンに、オレの憶測になるんだけどね。ホントウに、キケン・もんだいがある、避けるべきニンゲンだったら、君たちなら、ふたりとも、すぐに、そうはんだんしたとおもう。
だけれども、ふたりとも、すぐに『キケン・もんだいだ』と、はんだんしなかった。すこしのあいだ、まよっていた。
というコトは、コレは、『カンゼンにキケン・もんだいがある』とは、はんだんしていない。というカタチになる。つまり、見方だとか、捉え方を変えれば、プラスになるかもしれない。っていうハナシだよ」
「オレと藤柴のコトを、チョット過大評価してるような気もしますが」
「イヤイヤ、そんなコトはない。君たちが持っている、キケンを予知したり、察知するセンサーというか、カンのするどさは、尋常じゃない。
でなければ、オレをあの強制ろうどう施設から、こうもつごうよく、つれだすコトはデキんよ。どこかの時点・だんかいで、ミスして、しっぱいしてるハズだよ。
その君たちが、ふたりとも、すこしのあいだ、まよっていた。というコト自体が、こんかいの件の解釈だとか、意味合いをかんがえるときに、たいせつで重要になる一面だと、オレはおもう」
「たしかに、いわれてみれば、ホントウにキケン・もんだいがあって、ワルイ、マイナスのコトだったら、オレも藤柴も、有無をいわずに、かかわりあいになるのを避けてるかもですね。
まあ、かたほうが、ソレに気がつかないとしても、もうかたほうが、ソレに気がついて、かかわるのを止めるかもしれません」
「ソレで、その君たちのあとについていって、オレも、あのゲンバに行ったワケだけれども、ヤツラはふたりとも、オレのコトを、ジロジロと見てきた。たぶん、『ダレだコイツは、見たコトののないヤツだ』と、すこし警戒したんだろうね。
この見ず知らずのニンゲンがいたから、よけいに警戒して、言いあらそいをヤメたのかもしれない。
まあ、オレの素性をしらない以上、『ヘタなコトをいうのはマズイ』と、こうかんがえたんダロウ」
「でしょうね。ヤツラも、まったく知らないニンゲンの目のまえで、あからさまに、ろこつな言いあらそいをするのは、避けたったんでしょう。
ただでさえ、オレと藤柴のコトを、すこし警戒してるのに、ソコに、見ず知らずのニンゲンがいたら、なおさらでしょうし」
「徳吉さんとしては、そういう状態を、じぶんの目で見たっていうワケですが、ソレが一体、なんで吉兆になるんですか?」
と、ここで藤柴が、ハナシに入ってきた。
「じっさいのげんじつの状態っていうものを、一番さいしょの時点・だんかいで、直に見るコトがデキた。こういうコト自体、幸先が良いとおもえてね」
「幸先ですか」
「ヤッパリ、じぶんの目で見て、ミミで聞いて、カラダでたいけんしないと、モノゴトはわからんよ。
腑におちないというか、肌感覚でわからない。書類や資料を読んだり、聞いたりするだけでは、どうにもピンとこない。
この第4地区に住んでいるニンゲンが、今げんざいの統治機構・政治体制にたいして、内心では、つよいフヘイ・フマンを持っているとしても、ソレをオモテには、あまりだそうとしない。
つまり、表面上は、体制の権威にたいして、いちおうは従う。こういうコトを、じっさいに見るコトで、一番さいしょに知るコトがデキた。こういうイミだよ」
「ナルホド、ヤツラが、オレと高井にたいして、オモテ立って、あらそうスガタを見せたくはなかった。
つまり、体制がわにたいして、モメているスガタを見せたり、モメごとがある。というコト自体を、知られたくはない。
こういうコトを、じっさいに、じぶんの目で見るコトがデキた。このコト自体が、吉兆だと、こういうイミですか」
「そのとおり」
「むかし、オレがつくった書類にあるコトを、じっさいにおこなうにしても、まずは、じっさいのげんじつの状態っていうものが、チャントわからないと、うまくいくワケがない。げんじつが見えなければ、ナニをやってもミスしするし、しっぱいする。
でも、これから、ソレをおこなおう。という矢先に、『この第4地区に住んでいるニンゲンが、どういうキモチ・感覚・感情を持っているのか』というコトを、知る機会があった。
コレはつまり、『コレからおこなうコトが、うまくいくかもしれない』という予兆だとか、前触れ、前兆現象になるかもしれない。と、こういう解釈も、成りたつんじゃないかとおもえてね」
「カナリのプラス思考ですね」
「そのとおりだよ。じぶんでいうのもヘンだが、カナリのプラス思考になるダロウね。というか、ムリにでも、プラスの一面を見るようにする。といったほうが、ただしいかもしれんか。
でも、ひとつのジケン・できごと・事象・現象がおきたときに、なるべくなら、ひてい的な解釈・意味合いを持つんじゃなくて、肯定的な解釈・意味合いを持つようにする。
そうすると、おなじひとつのジケン・できごと・事象・現象であっても、ひてい的なニンゲンは、ソコから、プラスの一面・りえき・利点・メリットっていうものを、見つけるコトがデキない。だから、ソレを手にするコトがデキない。
でも肯定的なニンゲンは、ちいさいコトかもしれんが、プラスの一面・りえき・利点・メリットっていうものを、手にいれるコトがデキるかもしれない。
一個一個は些細でちいさいコトでも、コレが、何十どころか、何百、何千個と積みかさなれば、膨大な量になる。さらにいえば、コレが数年、数十年と経てば、さらに膨大な量になる」
「ソレが、強制ろうどう施設での過酷なせいかつで身につけた、徳吉さんの処世術というか、じんせい観なんですか?」
「まあ、そういうコトになる。とはいっても、コレはじっさいに役にたつ、実践的なノウハウだとおもってるよ」
「ナルホド」
「ソレに、こういう視点・発想・かんがえかた・スタンスを持っていると、些細でちいさなコトであっても、ソコから、意外なプラスの一面・りえき・利点・メリットにたいして、気がつくコトもある」
「意外な、ですか」
「まあ、じぜんの時点・だんかいでは、まったく予想もしていなかった、意外なコトだよ」
こういうと、徳吉は、先ほどのゲンバで見た光景というものを、おもいだしながら、ハナシをはじめた。




