副作用
「おおきなフネの底に、穴ですか。チョット要領を得ないというか、ピンとこないんですが」
高井が徳吉にたいして、要領を得ないカオで聞きかえした。
「コレはあくまでも、たとえ話なんだよ。ホントウにフネの底に、穴をあけるっていうワケじゃない。
つまり、どれだけ巨大で頑丈なフネであっても、巨大なタンカーであっても、そのフネの底に、ちいさな穴が開いてれば、そこからつねに、フネのなかに水がはいりつづける。すると、どういうことになるのか。っていうハナシだよ」
「そりゃもちろん、いずれ、そのフネは沈みますよ」
高井が答えた。
「そのとおりだよ。ソレで、この船を、今の政治体制・統治機構にあてハメると、どうなるのかってことだよ。
つまり、今の政治体制・統治機構そのものが、いずれは沈むというか、壊れるときがくるんじゃないかって、オレはおもってる。
第4地区に住んでるニンゲンが持ってる、個人の私有資産・財産をデータ化して、ダレがなにを、どれだけ持っているのか。コレを、ハッキリと明確化させる。
ソレによって、毎回、一定額の税を徴収するようにする。コレをおこなうと、おおきなフネに、ちいさな穴を開けるのと、おなじような効果や成果、結果をもたらすとおもう」
「ナゼですか?」
藤柴と高井が、ほぼ同時に聞いてきた。
「なぜならば、個人の私有財産・資産っていうものを、きびしく規制し、制限しているにもかかわらず、結果的に、個人の持ってる私有財産・資産というものが、明確化されて、ハッキリさせるカタチになるから」
この徳吉のコトバを聞いて、藤柴と高井は、ハッとカオを見合わせた。それまでアタマのなかで、モヤモヤとしており、アイマイで、バクゼンとしていたことが、クリアになり、ハッキリしたからであろう。
ハッキリと明確化し、クリアになったせいか、藤柴が、興奮したような口ぶりで、話しはじめた。
「なるほど!!たしかに、徳吉さんのおっしゃるとおりですよ。個人の持ってる私有財産・資産っていうものを、きびしく規制し、制限していて、『あらゆるモノを、公のそんざいである、政府が保有するべきだ』っていうのが大原則で、コレが、今の政治体制・統治機構における、すべての前提条件になってます。
つまり、一番奥底にある根っこ・基礎・土台の部分に、こういうタテマエというか、大原則がそんざいしている。
にもかかわらず、個人の持ってる私有財産・資産っていうものを、ハッキリと明確化し、クリアにするっていうことは、納税者からすれば、『じぶんは今、どれだけの資産・財産を持っているのか』ってういことを、しぜんとかんがえ、意識するようになる。そうならざるをえない。
つまり、納税者である住民のアタマのなかに、『今のじぶんが持ってる私有財産・資産が、どれだけあるのか』っていう視点・かんがえ・概念・発想が、しぜんと、そんざいするようになる。
コレって、私有財産・資産っていうものを、きびしく規制し、制限すべきだっていう、大本というか、一番奥底の根っこ・基礎・土台にある、タテマエや大原則っていうものを、突き崩すことになりそうですね」
「いずれは、そういうことになるかもしれない。つまりコレは、税を収める住人、納税者のアタマのなかに、『じぶんの持ってる私有財産・資産が、どれだけあるのか』っていうことを、ハッキリと明確化し、意識させることになる。
あらゆるモノを、個人が所有するのではなくて、公のそんざいである、政府が所有するべきだ。っていうのが、今の政治体制・統治機構における、一番奥そこの根っこ・基礎・土台にある、大原則であり、タテマエになってる。前提条件といってもいい。
まあ共産主義みたいに、『私有財産・資産というものを、カンゼンに否定する』っていうところまでは、さすがにいってないにしても、個人の持ってる私有財産・資産については、極力、持つべきではない。
そういうモノは、可能なかぎり減らすべきであり、逆に、政府が可能なかぎり、たくさん所有するべきだ。
だから、個人個人が、じぶんの持ってる私有財産・資産っていうものを、イチイチ把握するひつようはない。
むしろ、把握してはいけない。もしも把握するようになると、ソレをさらに欲しがったり、あるいは、減ることをイヤがるようになる。
こういう状態になればなるほど、政府としては、『じぶんの持ってる私有財産・資産が、減ることをイヤがるであろう住人から、強制的に、税を徴収する』ということが、さらにむずかしくなるだろうね。
だからこそ、納税者である住民自身が、じぶんが私有財産・資産を、『なにを、どれだけ持ってるのか』っていうことを、今までずっと、チャント把握ができないようにしてきた。
でも、その結果として、まあアタリマエのことだけど、どの住人が、どれだけの私有財産・資産を持ってるのか、チャントしたデータや資料というものが、まったくそんざいしていなかった。
そのために、『ダレから、どれだけの税を徴収することがデキるのか、徴収する側も、サッパリわからない』こういう状態が、もうずっとつづいている。
じぶんの持ってる私有財産・資産っていうものが、じぶん自身でも、サッパリわかっていない。把握することができていない。
こういう状態がずっとつづけば、アタリマエのことだけど、ダンダンと、個人の自由・権利っていうものは、アイマイになり、薄まっていくだろうね。現に、そうなってきた。
でも逆に、じぶんの持ってる資産・財産っていうものが、なにが、どれだけあるのか。このことがハッキリとわかり、じぶんでチャント、把握することがデキるようになれば、『コレをなんとかして、さらに増やしたい』だとか、あるいは、『減らしたくない。維持したい』とか、ニンゲンは、イロイロとかんがえるようになる。
つまり、じぶんのアタマで、イロイロなことを、アレコレかんがえるようになる。となると、『すべてのことを、党が指導し、指示・命令しなければならない』っていう今のやりかたと、ダンダンと、合わなくなってくる可能性が、カナリたかい。
だから、イロイロなところで、矛盾がでてくるだろうね。矛盾が増えて、おおきくなるほど、イロイロなカタチで、もんだい・トラブルがおきてくるとおもう。
個人の自由・権利というものが、ほとんどそんざいしていない。すべてを党が支配して、指導・命令をしてくる。だから、すべてのニンゲンは、党の命令・指導にたいして、従わなければならない。
もっといえば、すべてのジャンル・分野における、すべての勢力・組織は、党の命令・指導にたいして、従うひつようがある。だから、そのなかに、党員をいれなければならない。
こういう、今げんざいの支配・統治のやりかたじゃあ、個人のじんせいでも、『じぶんの意思・かんがえで、なにかを判断し、選択してえらび、決断・意思決定し、なにかをおこなう』っていうことは、まずできない。極論をいうと、家庭のなかですら、自由がそんざいしていない。
このすべての奥底の、一番の根っこ・基礎・土台には、おそらく、個人の持ってる資産・財産、つまり、私有財産や所有権のアイマイさがある。
おそらく、ここの部分を、ハッキリと明確化し、クリアにしないかぎり、個人の自由・権利なんでものが、成立するとはおもえない。
でも、アタリマエのことだけど、もしも、最初からハッキリと、個人の自由・権利っていうものを、つよく要求し、求めたとしても、ソレは間違いなく、政府や党につぶされることになる。
それこそ、キケンでカゲキな思想を持ってるニンゲンだと、政府や党にマークされて、キケン視されるハメになる。
こういう状態になれば、カナリたかい確率で、強制労働施設に送られることになる。ヒドイばあいだと、秩序・治安をみだすニンゲンと見なされて、処刑されかねない。
個人の持ってる私有財産・資産、そして、その所有権というものを、ハッキリさせることができれば、いずれは、個人の自由・権利っていうものも、しぜんと確立されていくとおもうんだよね。こういうことは、切りはなすことはできないだろうから。
いいかたを変えれば、じぶんの持ってる私有財産・資産、そして、その所有権というものを、ハッキリさせることができれば、そのニンゲンは、ダンダンと、じぶんの権利っていうものを、つよく意識し、要求し、もとめるようになってくる。
そして、権利をもとめ、意識するようになれば、おのずから、自由をもとめ、意識するようになる。
なぜならば、自由と権利というものは、一枚のコインのウラとオモテであって、片方だけを、つごうよく、切りはなすことはデキないワケだから。
でも、あからさまに、個人の持ってる私有財産・資産と、その所有権というものを、明確化し、ハッキリみとめるべきだっていうことを、いえるワケがない。そんなキケンなことはデキない。
だからこそ、この書類を書くときは、こういうことを、あえてハッキリといわず、触れず、アイマイにし、バクゼンとさせておいた。
もっというと、この部分を隠して、違うことをアピールしておいた。ソレはなにかをいうと、『第4地区に住んでるニンゲンが持っている、私有財産・資産というものを、データ化することによって、徴税業務の効率化と、毎回、不安定な額しか税をあつめることがデキず、収入が不安定な状態になるのを、カイゼンすることになる』と、こういう書きかたをしたってワケだよ」
「なるほど、そういう書きかたをすれば、政府や党も、『一定額の税というものを、毎回、安定的に徴収することができる』とかんがえる。だから、じぶんにとって、プラスやメリットがあるとかんがえるでしょうね。
そして、ソレをおこなうことによって、起こるのであろう副作用というか、マイナスやデメリットのことまで、あまりかんがえないとおもいます。なにせ、目先のカネのことしか、アタマにないでしょうから。
おそらく、『税を効率的に、あつめることがデキるかもしれない』という程度しか、かんがえることはないでしょうね。
つまり、コレをおこなうことによって、『じぶんたちの今の政治体制というか、統治や支配のカタチっていうものが、一番奥底の部分から、ガラガラと、崩れることになるかもしれない』なんて、そこまでは、アタマがまわらないとおもいます」
このように、藤柴は関心したようにいった。




