本心
そして徳吉は、ふたりにたいして、あらためて話しだした。
「ところで、チョットかくにんしたいんだけど」
「なんです?」
藤柴が聞きかえした。
「ふたりとも、オレがこの書類のなかで、あえて書かず、触れなかった内容って、カンづいてる?」
「どうでしょうか。オレも高井も、たぶん、なんとなくアタマにはありますが、コレはあくまでも、なんとなくなんです。
つまり、ハッキリとぐたいてきに、コトバになっていないというか。言語化されてないというか」
「なるほど」
「でもまあ、あえていうとすれば」
「いうとすれば?」
「徳吉さんて、『今のこの国の政治体制というか、統治機構ってものを、根底から、突きくずしてやりたい』と、おもってたりしませんか?」
藤柴からこういわれて、徳吉はギクリとした。なぜならばソレは、核心を突いていたのだから。
「政治体制や統治機構を突きくずすか、おだやかないいかたじゃないね。もしもオレが、ホントウにそういう思想というか、かんがえかたを持ってるんだったら、それこそ、強制労働施設に送られるどころか、処刑されかねん」
「そうですよね。でも、あの書類を読んでみたとき、オレも高井も、もしもコレをホントウに実行すると、いずれは、今のこの国の政治体制や統治機構とかが、崩れかねないとおもいましたよ。大げさないいかたをすれば、革命でもおきかねないかと」
「革命、ねえ」
「そう、革命ですかね。政治体制や統治機構とかを、今の状態から、ガラリとおおきく変えることになるでしょうから。
それこそ、今の政治体制や統治機構の根底にある、前提条件や基礎とかを、変えることになりそうなので。
そして、この部分を変えるとなると、その上にある統治機構や政治体制とかも、しぜんと、今のカタチとは、おおきくガラリと変わるかなと。つまりは、革命ってことになりそうです」
藤柴からの指摘を聞いたあと、しばらくのあいだ、徳吉はかんがえこんでしまった。なぜならば、そのとおりだったのだから。
「いや、まいった。ヤッパリふたりとも、オレのことを、良くわかってるというか、なんというか。
オレ自身、こういうことは、たにんにバレたらキケンだから、今までダレにもいってなかった。ふたりにはバレてたか、カンがするどい、ホントウに。
でもまあ、ふたりになら、バレたとしても、キケンやもんだいはないか。なんせ、キケンを冒してまで、オレをたすけてくれたんだから。
それにしても、よくオレが、今の政治体制や統治機構を壊したいと、あの書類を読んだだけで気づいたね。
正直なところ、あの書類に書かれてることを実行したところで、『今の社会・世のなかを変える』というところまで、アタマがまわるようなニンゲンなんて、まずいない。とおもったから書いたんだけど」
「でしょうね。もしもあの書類を読んで、今の政治体制や統治機構とかを壊しかねないと、気づくようなニンゲンがいたら、ソレは間違いなく、徳吉さんにたいして、カナリのキケンが及ぶことになりますから。
じぶんから、じぶんの身にたいしてキケンを招くようなことを、用心ぶかくて慎重な徳吉さんが、おこなうとはおもえませんし。
想像するに、アレを実行したとしても、そこまでの変化が起こるとは、ダレにもわからない。と、そうかんがえた。だからこそ、あの書類をつくったんじゃないですか?
正直なところ、オレも高井も、むかし何度も、徳吉さんと会ってハナシをしたからこそ、そういうことが、アタマにうかんだんです。
もしもアカのたにんだったら、あの書類を読んだだけじゃ、そこまで想像することは、まずできなかったとおもいます」
「そうか、そういってもらえるとウレシイ。なんせ、君たち以外に、オレのホンネというか、ホントウの狙い・もくてきに、気づくようなニンゲンがいたら、ソレこそ、特殊ケイサツに捕まって、問答無用で処刑されかねん。
オレの本心を知っているニンゲンが、そうたくさんいてもらっては、こまるからねえ」
こういうと、徳吉はイスの背にもたれた。
「このことを知っているというか、気づいてるのは、君たちふたりだけかい?」
「あとは桂さんですね。オレと高井、桂さんの3人だけですよ」
「そうか、3人だけか。しかもこの3人が、キケンを冒してまで、オレをたすけだしてくれたニンゲンなんだから、あんしんしていいだろうね」
「ええ、あんしんしてください。そもそも、たにんにいえる内容じゃないですし。ヘタにダレかにいえば、それこそ、反体制的な言動となりかねず、オレたち自身が捕まりかねませんから。ですから、オレと高井、桂さんだけが知ってます」
「アリガトウ、さらにあんしんすることができたよ。いかんせん、11年近くも強制労働施設にいれられてたから、猜疑心というか、警戒心がつよくなりすぎてね。気をつけないと、ニンゲン不信になりかねないんだよ」
「そうでしょうね。もしもオレが徳吉さんの状況になっても、ヤッパリおなじように、たにんのことを、カンタンに信用することができなくなりそうです」
(ここまできたら、このふたりには、オレの本心というか、ホンネというか、ホントウの狙い・もくてきってモノを、ハッキリとコトバでもって、ぐたいてきにつたえたほうがいいかもしれん)
徳吉はしばらくのあいだ、目を閉じてかんがえていた。そして、机の上に、かつてじぶんが書いた書類を置いた。
「ふたりとも、この書類を読んだことで、オレのホンネや本心、ホントウの狙い・もくてきってものを、なんとなくではあるけど、カンづいたんだよね?」
「ええ、そうです」
藤柴と高井は答えた。
「ふたりは、あの強制労働施設から、キケンを冒してまで、オレをたすけだしてくれた。さらに、この書類のなかに、あえて書かずにおいたところまで、カンづいている。
ここまできたら、ふたりにたいしては、チャントつたえたほうがいいとおもうんだけど、聞いてくれるかい?」
「ソレはもう。ヤッパリ、なんとなくわかってるだけでは、アタマのなかがアイマイで、モヤがかかってるような気分で、スッキリしないんですよ。
ハッキリとわかってはいなくても、おそらく、徳吉さんがかんがえたことは、オレも高井も、大いに賛成するとおもってます。だからこそ、こうして、あの強制労働施設からたすけだしたんですから」
「了解したよ」
こういうと、徳吉は、机の上に置いた書類をひらきながら、せつめいをはじめた。




