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89.大団円

89.大団円


 家の窓から淳が恐る恐るのぞいた。


 静蓮が夕飯の仕度をしていた。お腹が大きいがテキパキしている。


 リビングで秋詠がおもちゃで遊んでいるのが見えた。


「ただいま」


「お帰りなさい。エンジェル!」


 キスをする静蓮だった。


「明日はきっとイイことがあるわ」


 静蓮は為替かわせのことを知っているらしい。


とうさんお帰りなさい」


 秋詠がちゃんと挨拶した。


「ただいま」


 抱きあげる。


「さっきへいおじちゃんてたよ。おもちゃをもらったんだ」


「そうか。良かったね。ちょっとそれで遊んでてくれるかな。お母さんとお話があるから」


「はーい」


(心得ている)


 平悟郎のおもちゃのセンスは一流だった。


「聞いたのか」


「はい……でも安心したわ」


「どうして?」


「帰ってこないんじゃあないかと思ったの……一瞬だけど……そんな気がしたの……だけど帰ってきてくれてそれだけでそれだけで……」


 笑顔だが泣きそうな顔だった。


「ごめん……」


「いいのよ。生きてさえいれば……あなたが家族が生きてさえいてくれれば」


 母を想い出し、静蓮が涙を流した。


「最後まで生きるよ。最後まで」


 呼び鈴と共に、ドアが開いた。


「メリー・クリスマス!」


 キッドだった。


「やっぱり帰ってきてたんだ。探したよ」


 キッドが淳に言った。


「探したって君がかい?」


「うん! 僕だけじゃあないよ」


 外に叫んだ。


「エンジェルは生きてるよ! 生きてる!」


 かなり大きい声に淳はびっくりした。


「生きてるってさ」「良かった」「本当? 顔を見せてよ!」「中に入ろうぜ」「生きてるの?」「見せて。見せてったら!」


 近所の人たちだった。手を振っている。家に入りきらない。


 近所の婦人が頭から血を流す淳を不思議がって、平悟郎に子細を聞いたらしい。


 平悟郎が自分の過失を棚に上げて「そりゃあ大変だ」と騒いでいる時に、家族を迎えにきたキッドと出会ったのだ。


 キッドと平悟郎が橋の管理室に戻るも淳が飛び出した後で、平悟郎の話から頭を打っておかしくなった淳が自殺するんじゃあないかと心配したキッドが、みんなに頼んで探してもらっていたらしい。


 身重で外に出られない静蓮は温かい夕食を家族のために作っていた。


 キッドがクリスマス用の紙製のシルクハットを回した。みんな財布や懐やら封筒から現金を出してシルクハットに入れ、次の人に回した。


 ハットには「今お返ししましょうあの恩を」と書かれている。


 かなり並んでいる。今まで淳に世話になった人たちだった。


あに!」しおりだった。「どこかに行くなんて言わないで」


 かなり平悟郎に脅されたらしい。宇一と子供たちもいっしょだった。


「行かないさ」


 シルクハットが増えていた。みんなのヘソクリや隠し財産だ。


 忠と平悟郎も加わった。


 全額を入れない平悟郎がシスターに叱られている。


 いつの間にか墨月とキッドがテーブルで冷静に金額を計算していた。


 PCとキッドの電卓を確かめ、静かに頷いた。


 どうにか足るようだ。


 歓声を上げ、喜ぶみんな。誰彼なく抱きあった。


 若い巨乳のシスターにいつまでも抱きついていた平悟郎が、他のシスターに張り倒された。


 笑いは続いた。


 淳は窓の外の天上を見ながら「ありがとうございます」と呟いた。


 それに答えるかのように流れ星が静かにまたたいた。


 寒い雪の夜だったが心は温かかった。



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