表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/93

87.天使

87.天使エンジェル


 毛布にくるまっていた淳が肩をらされた。


「おい! 大丈夫か?」


 心配そうに顔をのぞきこんだのは楫本かじもとだった。


「大丈夫かい? うなされていたが……」


 淳が目を覚ますと、ストーブの前に衣類が丁寧に並べられていた。


 跳開橋ちょうかいきょうの管理室だった。


ね橋の上で何をしていたんだね。もう少しで凍死するところだったぞ」


「ここは……? 僕が見えるの?」


「はあ?」


 楫本が飲み物を手渡した。


「見えるよ……ああこれか」


 テーブルにあった眼鏡を差しだした。


「(さっき眼鏡……)あっありがとうございます」


 ココアをもらいすする。湯気すら温かい。


 眼鏡が曇った。


「帰ってきたんだ……帰ってこれたんだ。神さまありがとうございます」


 信心深く祈った。


「ヴァンホーテン?」


「ああキッドが好きなんだ。あったまるにはちょうどイイ。まだあるよ」


「ありがとうございます」


 注がれたカップの十字の傷に目が止まった。


「キッドのカップだがどうしたね? 味はうまいと思うんだが……」


 楫本が「洗ってなかったかな」と呟いた。薬指に金の蝶が止まっている。


「ちょっと混乱してて……変な夢を見ていたみたいです……天使が……」


「……そんな時もあるもんさ」


 うなずく楫本だった。


「たまにはゆっくりしなさい」


 ストーブの火が揺らぎ、ねた。


「天使を見たことはありますか?」


「むかし一度見たよ」


 楫本が顔を歪め一笑した。


「今も見えてる」


 あごで前を指示した。


「どこに?」


 振り返る淳。


「君だよ。むかし君の家に強盗に入ったことがある」


 もう一度顎を使った。


「泥棒に追い銭してくれた。エンジェルだよ、君は。あの後キッドに会ったんだ……」


「え?」


 思い出せない。


(髭が……)


 ようやく思い出す。


(ああ強盗さんだ。昼御飯三日分の)


「君がこんなことしてちゃあいけないな。みんなのお手本にならなくちゃあ」


 楫本はズレた淳の毛布を直した。楫本は淳をよく知っているようだ。


「すみませんでした」


 深く丁寧ていねいにお辞儀した。


(痛い!)


 腰に傷みがあった。足も。


(怪我だ。今日の。現実だ。……だとすると為替かわせはない。――寒い)


 毛布を重ねる。


(あの蝶のデザインは……)


 楫本の指輪が視界に入った。


「つかぬことをおうかがいしますが」


「何だい?」


「その指輪はどちらで?」


「これか……妻と娘にお揃いで買ったんだ……どうかしたのかね?」


 指輪を見ながら楫本が想い出を語った。


「静蓮が……妻が同じ指輪をしているので」


「そりゃそうだ」楫本が笑った。「奥さんの指輪は娘があげた物だからなあ」


「妻をご存知なんですか?」


「会ったことはないよ奥さんにはね……聡声さとえという名を?」


「妻の幼馴染みです……」


 合点がいく淳だった。


「……聡声さんの?」


「そう……父親で、強盗だった。……今は橋の管理人さ」


 楫本が制御パネルを見やった。オールグリーン――正常に運行されていた。


「聡声さんは……」


「これも何かの縁だということかなあ……」


 答えず楫本が呟いた。


 ストーブの薪が跳ねた。


「(そう……こんなことをしている場合では……。みんな待っているはずだ)帰らなくちゃ……」


 毛布をたたみみ、生乾きの服を着だす淳だった。


「まだ温まって行きなさい」


「ありがとうございます。お礼は必ずさせていただきますので、今日はこれで失礼します。本当にありがとうございました」


 深く深く礼をして、外に飛びだした。


「おいおい! どこに行くんだ! キッドが迎えに行っているのに……」


 楫本の声は淳に届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ