75.強盗未遂/八芒星
75.強盗未遂/八芒星
玄関で「こんばんは! いらっしゃい!」という淳の声が聞こえた。
(もう来られたの?)
「早いですね」
大きなお腹を抱えた静蓮が奥から出てきた。
「ごめんなさいまだなの……ヒッ!」
静蓮が光りものを見て、立ち竦んだ。
強盗だった。
我に返った強盗が右手を後ろに回した。
左手で「まあまあ落ち着いて」とどうどうしながら「家を間違えたようです」と静かに言った。結婚指輪の蝶のデザインが寂しそうだった。
「あははは……」
静蓮は一瞬の緊張が解けたので笑いが込みあげてきた。
確かに家を間違えている。この家には盗るものなど何もない。
淳が手にしているクリスマスの飾りつけの八芒星は、クロスの余りや廃材から作ったものだ。
強盗はすぐに外に飛びだしていった。が足がついていかない。本人は必死に逃げようとしていた。
淳がポケットの紙幣を握り、強盗を追いかけた。
玄関先で肩を叩き、その手に握らせた。
静蓮にも強盗が泣いているのが聞こえた。
「後でいらしてくれませんか。……今はまだ準備中なので。……これで何か買ってください」
強盗は何も言わず必至で逃げた。
「エンジェル?」
淳が扉を閉めて、静蓮にキスをした。
「あなたらしいけど……」
「僕は彼より幸せさ。君がいるからね」
「この子もいるわ」
静蓮が笑いながらお腹に手をやった。
静蓮のお腹に耳をよせる淳だった。ひどくお腹を蹴っている。さっきの出来事でびっくりしたらしい。
「でもお昼どうするの?」
三日分の食事代だった。
「あっ……」
ベツレヘムの星の飾りつけが終えたころ、揃ってみんながやってきた。
しおりと宇一。二人の子供たちが、父の忠の周りを走っている。
赤ら顔の叔父の平悟郎。
(……もう酔っているのか)
平悟郎が平穏ならそれが幸せの指標だった。
そしてスタッフたち。
みんな家族だった。
淳が手を引かれて、古いアップライトピアノの椅子に座った。
左手でピアノを奏でる。
夜が更ける。




