69.スマイルスと緑朗
69.スマイルスと緑朗
〔バー・スマイルス〕の地下倉庫には、簡素だが火器一式が揃っていた。
奥に人影がある。
武器庫に妖しく火が灯る。
煙草の火だ。エコーの紫煙が舞う。
手元のAK−47の分解清掃をしているのはスマイルス髭親父だった。
脇に置いているもう一丁は弾倉を装填したまま安全装置を外して、入口に向けられている。
スマートフォンを取った。暗号を確認して接続する。
「あんたにも感情はあったんだな安心したよ」
皮肉たっぷりの英語だった。
『用件は?』
フランス語で話すのは緑朗だ。
「春女だ」
『処理済みだ』
「終わってねえ。昔の女だからか」
静かにスマイルスが言った。
『質問か?』
上に質問はできない。墓穴だ。「必要以上に知るな」がルールだ。
「无冥坊やがロック様の指示は髭親父に話せねえとさ。最近イイ気になってないか?」
スマイルスのほうが先輩だ。无冥を育てたのもスマイルスだ。
『そうだ。昔の女が愛しくて逃がしたんだ』
本気でないのを伝えようとする口調だ。
エコーを吸うスマイルス。
「理由は何だ」
『本部に訊け』
「(昇進の件も今回の件も上からだという意味か?)――言わない気か?」
『最初の質問だが……』
無視して言うロック。
「何だ?」
『私は人間だ』
切れた。
紫煙が地下の庫内に充満していた。
スマイルスが無造作に煙草を消した。
動作確認をする。
「『私は人間だ』? ――『獣でさえ僅かに哀れみを持つ。哀れみを持たぬ私は人間だ』」
シェイクスピアの戯曲『リチャード三世』の台詞だ。
意外にシェイクスピア好きで教養のあるスマイルスに態と言ったのだ。
もう一丁を分解する。
清掃を終えた銃の先は入口を向いていた。
歯軋りが庫内に響いた。紫煙はもうない。




