表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/93

60.しおり見つかる(2)/英雄宇一(3)

60.しおり見つかる(2)/英雄宇一(3)


 営業用のボルドーレッドのドマーニに乗る藍河のスマートフォンが鳴った。


「はい」


 路肩に停止する。


雅仁まさひとさん?』


「はい。もえぎさん? お久しぶりです」


『こんにちは雅仁さん』


 丹棟翠にむねもえぎだった。


 時計を確かめた。十五時過ぎ。夜の店には早すぎる。


すみさんに聞いたんだけど』


「いました?」


鮎川あゆかわしおりさんよね?』


「そうです」


『お店に来てくれないかしら?〔バー・アヴァロン〕じゃあなくて、あんの〔クラブ・アヴァロン〕のほうに』


怪我けがは?(……クラブ? バーでなくて?)」


『怪我はないけど……飲みすぎね』


「……親御さんに連絡できる状態ですか?」


『できないわね。完全にグロッキー。彼氏がもうすぐられるみたいだけれど』


「少し待ってもらってもいいですか?」


 探してもらった人に、どういう状況か説明がる。


(昼から飲んでる? 朝、車で今十五時……? 彼氏?)


『はい』


 電話を切って、墨月に電話した。


もえぎさんのところにいた。怪我はない。僕が迎えに行くので事務所で待つように鮎川さんに連絡して」


『分かった』


すみなら適当に安心させるだろう)


 それが仕事だ。


 道すがら、他の営業やお客さんにもハンズフリーで連絡した。


 ビルの横の駐車場に紺のコンチェルトがあった。しおりの車だ。


 隣りにスバルSVXが止まっていた。


(本革。ヴァージョンLか。左ハンドル。どこにでも金持ちはいるんだな)


 燃費は3km/Lと聞く。


 ハザードを点けながらビルの前に止めた。キーを抜いたが、ドアロックはせずに営業カバンをトランクに入れてビルに向かう。


〔バー・アヴァロン〕と〔クラブ・アヴァロン〕のネオンが消えていた。


 明るい店は初めてだった。


 女性が二人。


 奥のソファーに美女が寝ていた。バスタオルがかけられている。


「すみません。容態は?」


「こんにちは雅仁まさひとさん。大丈夫。飲んで寝ているだけ」


「すみません。……もえぎさん、こんにちは……。ご迷惑をおかけして……じゃあ送りますね」


「こんにちは……」


 開けていたドアから青年が声をかけた。東財宇一とうざいいえかずだ。


「ああ、こちら」


 丹棟翠にむねもえぎが手招きした。


「こちらは?」


「東財さん。彼氏よ。――こちら、ホンダの藍河雅仁あいかわまさひとさん」


「東財宇一です。本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。日を改めて謝罪に参りますので……」


 翠だけでなく藍河にもきちんと挨拶する宇一。


「あっ……はい、藍河です。車屋です」


 営業用の名刺を渡した。


「……状況がよく分からないんだけど……?」


小蓮シャオレン――ああ、店のね――小蓮シャオレンのお友だちが呼び出したらしいの。あんに電話がつながらなくて来たんだけど……。小蓮シャオレンはいないし、お嬢さんひとりだし……」


 床にバケツがあった。モップも。


「失礼だけど免許証を見させてもらったら、すみさんの探している子だったから。墨さんとも連絡がつかなくて……大丈夫だった雅仁さん?」


「はい。連絡してあります。親御さんには墨から連絡させています。……お友だちに呼ばれて朝から飲んだ? それはお友だちとは呼ばない」


「ごめんなさい」


もえぎさんに言ったんじゃあありませんよ。すみません……本人には明日、天罰が下るでしょう」


 二日酔いだ。


(かなりキツイぞ)


 開いている酒瓶はパトロン。


(こんな高い酒をもったいない)


「下に運びましょうか」


「はい」


 宇一が軽々としおりを抱いた。痩せてはいるが鍛えているようだ。


 しおりにバスタオルをかけ、車のキーを藍河に渡す翠だった。


「来て……くれたんだ……」


 目が覚めたらしい。


「わたしの……王子さま……。好き」


 頬にキスされる宇一。


 真っ赤になりながらエレベータに乗った。


(若いねえ……)


 藍河がコンチェルトのキーを確かめた。


 キーホルダーが切れていた。本体に濡れた跡がある。


(たぶんキーレスエントリー機能はかないな。飲んでこぼしたか……)


「今度はあんちゃんか……」


「アンちゃん?」


 表に出たところで藍河のスマートフォンが鳴った。


『いたわ……バーに』


 声がこもっている。


「そう良かった(……たぶん化粧室だな……)」


 それ以上聞く藍河でもない。「お大事に」と言って切った。


 降りると、表で制服の警官が藍河の営業車のタイヤに白線を引いていた。


 駐車禁止だったらしい。


鴬鳥うぐいすさん?」


 宇一が巡査に声をかけた。


ぼっちゃん? お知り合いで?」


「ええ。お願いします」


「あっはい。気をつけてくださいね」


 高くない背を丸めながら鴬鳥うぐいす巡査が消えた。


「お知り合い?」


「ええちょっと……」


「コンチェに乗せましょうか」


「はい」


(どんな彼氏かと思ったが……)


 営業の藍河は多くの人を見ている。


 まともそうな人物なので、しおりを送ってもらうことにした。


(俺が送るとしてもついてくるだろうな……)


 やはりキーレスは動かなかった。


(交換だな)


 エンジンを始動させ、後席ドアを大きく開いた。


 藍河が硬貨を払っている間に、宇一がしおりを後席に乗せる。


「もう大丈夫だから」


 声をかけられた眠り姫は夢の中だった。


 藍河が後席のドアを開け、両側ともチャイルドロックする。


「どうして? ああ……そういうことですか」


 しおりが寝惚けて開けないようにだと、宇一が気づいた。


「チャイルドロックしてますので」


 藍河が念をおした。


「はい分かりました」


 宇一がSVXからブリーフ・ケースを出した。


 コンチェルトJX−iに乗り込むと、シートベルトをしてから発進させた。


 無駄のない、上品な運転だった。


 残った藍河はSVXをじっくり見た。


(北米仕様。初期型。……フル装備だ)


 庶民には買えない。


(ふう……)


 店に戻って、翠を手伝おうと考えた藍河だったがめた。


 女性は酔った姿を他人には見られたくないものだ。


 バーの化粧室がどういう状況かは判断できる。何もしない親切もある。


 暗記している顧客の和菓子屋に電話した。探してくれた人たちの礼だ。おちゃけの一つもあればいい。


もえぎさんの好物は何だったっけ? 抹茶まっちゃ大福だいふく?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ