58.しおり失踪/〔ガレージ二十一〕
58.しおり失踪/〔ガレージ二十一〕
淳が静蓮の手紙を読み終え、段ボール箱に戻すころには朝になっていた。
窓からの日の光が眩しく目を細めた。
電灯を消してから居間に行くと、しおりが起きていた。
「どうしたの兄さん? 目赤いわよ」
「ちょっと読み物を……」
「そう」
しおりは何やら探していた。
「どこかへ行くのか?」
「うん小旅行。明日には帰るから」
「どこまで?」
「ナイショ……ってウソウソ。有馬温泉。卒業旅行の一つなの……あった!」
テーブルの奥に落ちていた車のキーを拾った。四葉のクローバーのデザインの可愛いキーホルダーがついている。
「車で行くのか?」
「うん。大丈夫です。運転には自信があるもん」
「そんな時期が一番事故しやすいって藍河さんも……」
「――兄さん?」
「素直にだなあ……」
「はいはい」
言い過ぎたらしい。
コンチェルトのロックをキーレスエントリーで開け、開けたハッチに〔スナワチ〕の革バッグを入れて閉じると、安全確認をしてから乗り込んでシートベルトをした。エンジンをかけ、もう一度安全を確認してから発進した。
公道の前できちんと一旦停止してから、坂を下っていった。
「ウッ!」
突然、吐き気がした淳だった。
トイレに行くが何も出なかった。
「寝不足かな……」
もう感じなかった。
電話機の横に温泉宿のパンフレットが置かれていた。開いたページの電話番号に大きく赤で丸があった。今夜の宿だろう。
パンフレットの下から時刻表を出し、明日土曜の東京行きの新幹線の時間を確認した。
静蓮に会いに行くためだった。
眠気は感じなかった。
*
認証工場〔ガレージ二十一〕は下町にある。点検整備ができる車の修理屋だ。
ピットで良雄が車の下に潜りこんでいる。
「おーい! 良!」
「はい!」
ピットを出て、店内に向かう。工業油の染みが薄く残ったタオルで顔を拭う。汗がすごい。
「良雄! 内蔵助!」
「はいよ! 親父、内蔵助はよせって言ってるだろう。電話?」
切れている。というかそもそも鳴っていない。
「何?」
「雨が降る」
空は快晴だった。
「はあ?」
「夕立だな」
雲一つない。
「いつもの天気予報か」
KTC工具を横に置き、冷蔵庫の麦茶のパックを口から飲んだ。
「積載にガソリン入れておけ。こんな日は事故が多い」
「あいよ。(毎回当たるが、イマイチ信用できなんなあ)」
一息つく。
「聞いているのか?」
父が一升瓶をビールグラスに傾けている。
「昼には入れておくよ」
もう一口、麦茶を飲んだ。
「ってえ……もう飲んでるのか?」
*
さすがに淳も昼前にはかなり眠たくなってきた。
食事に事務所に帰った時は、欠伸はなかったが半分寝かかっていた。
スタッフといっしょに食べようとした時、電話が鳴った。
この時間に鳴るのは、たいていクレームだった。
「はい、鮎川建設です」
淳が取るまえに、一人が出た。
「社長、お電話です。しおりちゃんの友だちだそうです」
「はい、しおりの兄ですが……」
「あのう、わたし、しおりさんの友人の――」
待ち合わせの場所に時間が過ぎても来ていないらしい。
時計を見た。
あれから六時間以上過ぎている。「こちらも探してみます」と電話を切った。
まず、スマートフォンを鳴らした。切れている。
(違う!)
通話できるはずがない。友人も何度もしているはずだった。
警察に電話しようか悩んだが、先に墨月に電話した。「取りあえず動くな」が墨月の答えだった。
記憶していた温泉宿にも電話したが、やはり着いていないという返事だった。
(まただ。同じことをしている。ルールとは言えない……)
しばらくして墨月から電話があった。警察・消防には連絡がないそうだ。病院に個別に電話するように指示された。淳は事務の女性と手分けして電話した。
他のスタッフも手伝いたかったが仕事が残っていた。
結局、五時までの仕事を四時前までに終わらせ、みんなで探しに出た。
聞かされていない平悟郎だけが現場に残って、マイペースに壁紙を貼っていた。
「貼りにくい……やっぱり雨だな」
傘を用意していた平悟郎が呟いた。誰にも一つは才能があるが、天気予報はその一つだった。
*
墨月から連絡を受けた藍河も走りながら、他の営業に連絡を取った。
「MA2・JX−iのバッキンガムブルーパール。あの可愛いお嬢さんだよ」
そう言うと全員が「あーあの」と声を返した。配送で回っているお客さんにも連絡をした。
紺のコンチェルトはあまり走っていない。すぐ見つかるものだと思ったがなかなか連絡はなかった。




