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38.静蓮の墓標/聡声プクプク

38.静蓮の墓標/聡声プクプク


 その、静蓮は夢を見た。行ったこともないオシフィエンチムの夢だった。


 それは人が加工されていくさまだった。人はまきになった。石鹸せっけんに、束子たわしに、ブラシになった。金歯は金貨に。ガス室……。――そのどれもが静蓮が心にえがいたオシフィエンチムだった。本当の事を子供に語る大人はいない。


 ユダヤ人の被害者は六〇〇万人といわれているが、その数字にロマニー(ジプシー)は含まれていない。同性愛者も身体障害者も入っていない。本当は何人か未だに分かっていないのが現実だ。


 夢は続いた。無数の白い十字が何列も連なっている。


 墓標ぼひょうだ。


 静蓮はその中に立っていた。


 墓標に囲まれていた。


 目の前の墓碑銘ぼひめいを見た。


(Sun Jin...)


 風化して読みにくい。


〝Sun Jinglian〟――孫静蓮。


 静蓮自身の墓標だった。


 飛び起きた静蓮だった。


「えっ? どっどうしたの?」


 聡声だった。つぶらな瞳が心配そうだった。


「あ……ありがとう」


 寝汗で胸が透けていた。かなりの汗だ。


 聡美を見たら落ち着いた。


 ますますプクプクしている。


 笑いが込みあげてきた。


(絶対わたしが犯人だ……ただし初犯だけど)


 あとは聡美本人が自分の意志で食べていた。


 けれど、その身体がかなでる声は美しく、誰もが魅了された。


 着替えながら静蓮が善いことを思い出そうとした。


 一番好きな思い出はいつもじゅんだった。


 淳の笑顔を思い出した。


 笑顔に包まれて幸せだった。


(会いたいよお)


 悪夢は帰国するまで続いた。



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