36.怪談「雪女」(2)/オシフィエンチム(2)
36.怪談「雪女」(2)/オシフィエンチム(2)
静蓮が「雪女」を語り終えると一同がしーんとしてしまった。感動したらしい。
「どうして雪女は男を殺さなかったの?」
質問がきた。
「だって子供がいたから」
「そんな口の軽い男ならさっさと殺しちゃって子供も雪女にすればいいのよ」
そう言う子もいた。「子供も……」と残酷な子も……。
次の語り手は、スコットランドから来た赤毛の子だった。
「ロンドン塔に行ったとき、閉じこめられたイングランド王エドワード五世とその弟リチャードの幼い幽霊を見たわ」
「犯人はリチャード三世でしょう?」
「つまらないわ。だって、本当はヘンリー七世が勝手に作ったお話ですもの」
眼鏡をかけた少女が言った。殺めたのはリチャード三世ではなくヘンリー七世だと言いたいらしい。
「だってちゃんと見たもの」
赤毛の子が言い返した。
「見たんならアン王妃はどこに行ったの?」
「アンは……。ヘンリーがみんな殺しちゃったんだもん、いないわ」
そう断言した。
「じゃあ、あなたは幽霊を見たことがあるの? ないの? どっち?」
「いるのかも知れないけど私は見たことがないわ。おばあちゃんも見たことがないんですって。――そう言ってた。本当に恐いのは人間だって」
質問された眼鏡の子が言い返した。
「何よそれ。何なの?」
「おばあちゃんはポーランドのオシフィエンチムにいたの」
一同が青褪め息を呑んだ。
静蓮はきょとんとした。聡声も知らないようだが、他のみんなは全員知っているようだ。
「オシフィエンチムには幽霊はいなかったっておばあちゃんが言ってたわ。今でも幽霊は出ないんですって」
少女は続けた。
「オシフィエンチムって何?」
静蓮が質問した。場所なのか物なのか人なのかはっきりしない。
「収容所よ」
赤毛の子が英語で教えてくれた。
「キャンプ?」
「強制収容所よ」
(コンセントレーション(集中)キャンプ? 神経衰弱?)
わからない静蓮だった。
「ナチの強制収容所よ。〝アウシュヴィッツ〟」
そばかすの子がドイツ語で言った。
〝アウシュヴィッツ〟のポーランド語読みが〝オシフィエンチム〟だ。
静蓮の背中が凍った。
今でもオシフィエンチムにあるアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所には幽霊は出ない。幽霊が出るには雰囲気がいる。ロマンスがいる。強制収容所にロマンスはない。あるのはただ墓標だけだ。




