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24.春女と无冥(2)

24.春女と无冥(2)


 フェラガモの音が木霊こだまする。


 しゃっくり。


 山田春女だ。かなり酔っている。


 苦しくて無意識に首のチョーカーを外した。


 風に飛んでしまう。


「あれ? どこ? あった」


 拾おうとかがんだ。スリットが広がる。


 風が強い。


 また飛んでしまう。


「あれ……」


 裏路地に迷い込むチョーカー。


「待ってー」


 ふらつく。


「待ってったら!」


 外灯が点滅している。点滅の音が響いている。


「待ってったら……」


 風。


 突風が吹いて、さらに奥に消える。かなり強い。


「……待ってよ。もう怒るよ……」


 誰に怒るというのだろう。


 壁によりかかりながら、ようやく今度は確実と思えた瞬間、また突風が。


 素早くつかむ。


「キャッチ! ビンゴー!」


 上手く掴んだ時、外灯が音を鳴らしながら点灯した。


 壁が映しだされる。


 赤いペンキの落書きだった。


「これって見覚えが……」


 ただし今回はより朱色だ。手が赤い。


「デジャ=ビュ?」


 酔っているので記憶が曖昧あいまいだ。


 奥に無造作に置かれた麻袋があった。


(どうしてこんな所に袋が……)


 前よりは酔っていない。


 近づき麻袋にふれる。


(……袋じゃあない。服だ!)


 人が倒れていた。理解するのに時間がかった。


 本当に恐ろしければ声も出ない。尻餅をついてしまう。


 倒れているのは男性だった。血だらけだ。そばに人影があった。


(人が……立って……いる?)


 突風が吹いた。春女がチョーカーをはなした。


 人影が正確にキャッチした。


「ハンサムボーイ……」


 意識を失った。


   *


 ベッドで手を大きく回しジェスチャーを繰り返す春女。


「仕事仕事仕事……まるで魔法の言葉ね。それは? 仕事。何? 仕事。いつ? 仕事。どうして? 仕事……」


 はっと起きる。


 朝だ。太陽が黄色い朝。


 手を見る。きれいだ。匂いをいでみる。うちで使っているマルセーユ石鹸だ。


 千鳥足ちどりあしでチョーカーを探す。


 ベッド近くにはない。床にも。ベッド下まで見る。


「大丈夫ですか? 奥さま」


 メイドが走ってきた。倒れていると思ったらしい。


「大丈夫。大丈夫」


「でも……」


 顔をうかがう。


「大丈夫だったら! あっ」


 でも支えてもらった。


 ベッドに返そうとするメイドだった。


「探さなきゃ……探さ……なきゃあ……」


 頭が痛い。押さえる。


 テーブルに置かれたグラスのウィルキンソンの水を飲む。


「探し物ならみておきますが」


「チョーカー……チョーカー見なかった? チョーカー」


「テーブルにございましたので仕舞しまいましたが」


「出して」


「はい」


「昨日のを、出してちょうだい。お願い……」


「はい。わかりました」


 水が足りず、もう一本開ける。


(美味しい……)


 メイドが持ってきたのは確かに昨日のチョーカーだった。


 一つ一つ違うので分かる。


 残りのチョーカーを見た。スタインウェイ&サンズのグランドピアノの上に広げる。


 全部で四十九あった。初めて数えた。


 一つ一つの記憶を思い出して数えたので時間がかった。


 全部あった。


(じゃ、あれは……夢?)


 昨日のチョーカーは、香水「ココ」の薫りが残っているだけだった。


 メイドに昨日はどうやって帰ってきたかを訊ねたが「いつものようにタクシーでした」との答えだった。「旦那さまに言われベッドに運びました」と。


 嘘は言えない子だった。言えば分かる。


 念のためタクシー会社に確認したが、一人の乗車で忘れ物はなかった。


(夢? ……わからない)


 疑問は残ったが夢ということにした。


 残りの水を飲む。


(ついでにフェラガモも数えよう)




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