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18.春女の帰宅/鳩太郎の仕事
18.春女の帰宅/鳩太郎の仕事
シルクブラックの美しい女性が乗ったタクシーが、豪邸の前に止まった。「山田」とある。
メイドに支えられながら、山田春女が家のソファーに座った。
デカンタのピノ・ノワールのワインをバカラのグラスに注ぐ。
「帰っていたのか」
奥から出てきた夫の山田鳩太郎がピアノの向こうから声をかけた。スマートフォンをしまう。
「お生憎さま」
飲む。
(うまい。……たぶん)
飲み過ぎた春女にもう味は分からない。
「今日はあの女のところじゃあなかったんですか?」
鳩太郎を見ずに春女がチョーカーを外した。
「あなた?」
バカラが煌めく。
「仕事だ。いま大事な時なんだ。分かるだろう」
またバカラに注ぐ。
「仕事仕事……まるで魔法の言葉ね。それは何? 仕事。どうして? 仕事。いつ? 仕事……」
手を大きく回しジェスチャーを繰り返す。
「……仕事……仕事……仕事……」
いつしか春女は眠りについた。
「不自由にはさせとらんだろう……」
言われた鳩太郎がワインを見つめながら、妻を見ずに言う。
(……)
春女を見て溜息をつく。
後ろで立っていたメイドにベッドに連れていくよう命じ、書斎に戻った。




