11.新しい生活の始まり2
あれから。
色々調べてみたけれど、それらしい書物は見つからなかった。結局、謎のままに終わってしまった。
王都へ来た時から、すでに季節が変わろうとしていた。
・・・
お姉さまが、図書館で調べると言った時。
私は口を滑らした事を後悔した。
嫌だ。
そう言えれば良かったのに。内心は気が気ではなかった。着いて翌日から毎日の様に通いだし、書物を読み耽る姿に見つからなければ良いのにと思っていた。今の私を理解してくれるのはお姉さまだけなのに……
結局、それらしいモノが発見される事はなかった。
お姉さまは、今の現象を調べたかったみたいだけど、私はこのままでいい。以前、私の魂が徐々に薄らいでいて、いずれ消えるかもしれない」と話した事も一因かもしれない。けれど。
七海が消えて、一人ぼっちになる。
それはエレーゼに孤独と言う恐怖を与えていた。
旅をして、王都で暮らして、今まで邸の外に出る機会が少なかったエレーゼにとっても、違う世界の様に感じていた。これが、外で、自由なのだと。こんなにも心情が変化するものなのかと自分に驚く。今はもう、夢の中でも死を願うことは無い。
七海から『改めて、これからも宜しく』と言われて、心から良かったと返した。
・・・
この国で生きる。心の整理がついたことを機に、旅行者ではなく、正式に住民登録を済ませた。ずっと住み続けるのであれば、国からの扱いが違う。税金だけでなく、様々なサービスが受けられる。ここでも保護者は?と言う話が出たのだが、何時も通りに話すと、教会の保護下で暮らす事になった。
教会の周囲にある住宅街。関係者の家が多くを占め、同じ形の建売住宅が並ぶ。その一角に賃借りした家があった。手狭と聞いていたが、一人で暮らしていくには十分すぎる広さだ。
簡単な物だけしかない、ガランとした部屋。持ってきた荷を隅に置き、階下へ降りると待っていたシスター。
「さあ、行きましょう」と穏やかに笑顔を向けた。
この国の住民に与えられる恩恵の中に、学校があった。魔術を専門とした学校は高くて一般市民では通えないが、代わりに生きるのに必要な魔術や知識の学校は広く開校されている。ただ、全日制ではなく週2日らしい。私やエレーゼの年齢になると、働いている子供も居るので通学が難しいという理由かららしい。平日働いてるのに、休日は学校。義務教育らしいが、子供でも大変なんだなと思う。
「途中から入学になるけれど、最初は分からなくて当たり前。周りに早く慣れるよう、私たちも協力しますからね。配布されたテキストは持ちましたか?」
「大丈夫です。シスターアンネ。」
「勉強だけじゃないわ、お友達も早く作りましょうね。子供同士、遊べる子がいないとつまらないもの。」
「正直、不安ですけど努力します」
そういうとシスターアンネががばっと抱きしめた。顔が彼女の豊満な体に押しやられる。
「無理な時、疲れた時があれば何時でも先生に言うのですよ?」
彼女の胸に収まる私。むぐぐ…息がっ!今まさにその時なんじゃ……?
シスターアンネは、私の担当になってくれた人だ。ちょっと感動しいで、暴走がちな人だけど、根が優しい面倒見の良い人だ。そんな人だからシスターやってるんだろうなと思った。
学校は教会の敷地内にあり、授業開始の鐘と共に始まる。
「えー、時期が途中だが。同じクラスで学ぶことになったナナミ君だ。皆仲良くするように。」
はーい、と級友になる子供たちは、こちらを品定めしている。興味深々な子も居れば、隣りの子とこちらをチラリと見てくすくすと笑う子もいる。気分はそりゃ良くはないが、七海からすると随分年下な子もいるので気にしなかった。
それよりここでは、私はナナミ・サトウで登録している。エレーゼの名前の方が、この国ではおかしくないのだが、家出中の身だしマズイから。
「他にナナミ君に質問はあるかな?」
げっ。そう思ってると前の方の勝気そうな女の子が声を上げた。
「ナナミ・サトウって変わった名前なのね。どこから来たの?」
「北領の小さな島から来ました。すっごく田舎だったから、皆こんな名前です。」
ふーん、と明らかにガッカリしたようだった。それきり興味を無くしたようで、隣の女の子と話しだした。
「あー、それじゃナナミ君の席は……と。」
「はい!お、俺の隣空いてますっ」
「おー、じゃあハンスの隣に座ってくれ」
席に付いて、隣のハンス君と挨拶する。
「これからよろしくね」
「こっちこそ。分からない所とかあれば、何時でも相談に乗るよ」
「ありがとう」
この国での、初めての授業。親切な子が隣になってくれて良かった。ホームルーム後は、授業で知識科目だったっけ。




