10.新しい生活の始まり1
2012.10.08
セリフ加執+編集しました。
七海の心情を当初投稿時より変えています。
賑やかな喧騒が目的地に近づくにつれ大きくなっていく。古い背の低い建物の屋上から鳥の群れが一斉に空へ飛び立っていった。
王都。
街中に入ったので、ゆっくりとした速さで進んでいる馬車。人の多さにまず驚いた。通りで仲睦まじく歩く恋人達、買い物かごを手にする女性、商売人の前で止まって品を物色する人など様々だ。白を基調とした煉瓦の建物からなる街。キラキラした緑が地平線まで続く街道も綺麗だったが、この街にもそう思う。どれもが見た事のない新鮮な景色で、好奇心が沸く。
『凄い人だよね。お祭りか何かあるの?エレーゼは以前に来た事があったのよね』
『はい、以前父と母に連れて来てもらったので。でもまさか家出して王都に住む日が来るなんて思いませんでしたが』と微笑した。
本当に。人生何があるのか分からない。
それは彼女だけでなく自分にも。
先の見えない不安はあるけれど。ここまでの旅の期間、エレーゼを含むこの世界の人達と、普通に話が出来る事。それは七海の根底にあった不安を随分と和らげていた。
『今日はお祭りなんかじゃないですよ。王都は何時もこんな感じです。何せこの国の首都ですから』と誇らしそうに話す。
『そうなんだ。今までずっと街道だったのもあるけど、活気があって良い街だね。』
『ええ、この通りは王城まで続くメインロードですから尚更です』
騎士たちが遠征する際に使われるだけあり馬車が幾つも走れる程に幅広い。物流の中心地だけあって、様々な国から来ている人だろう。道行く人々の服も見ていて飽きさせない。
この通りを王城方面に行けば、その途中に図書館が建っているらしい。
国内随一の蔵書数を持つ図書館があるのを聞き、私とエレーゼの身に起こったことを調べてみようと思っている。魔術のあるこの世界でも聞いた事がない現象の様で、ここに来るまでの間、周りにそれとなく聞いてみたが、知ってる人は皆無だった。だが、手がかりがある筈だ。
『……』
『エレーゼ?』
『…何でもありません』
少しの間。呼びかけてみても、エレーゼから返事はなかった。
・・・
停留所に止まった相乗り馬車。幾日か顔を合わせていた乗客たちの中には、互いにカタコトの挨拶を交わし街中へと消えていった。
「おじさん、有難うございました」
世話になった御者に最後に礼を言う。
「ああ、王都に着いたんだ。宿は必ずとるんだぞ」
「はい。今から宿を探しに行く予定ですから」
そうか、とほっとした様子を見せた。
エレーゼの話から、王都は一見して賑やかで華やかだが、実際には貧富の差がかなりあるので、強盗・窃盗なども多くて治安が良いとは言えない。若い女の身の上なのだ。宿無しなど何があるか分からない。
「そいつを聞いて安心したよ。若い身なのに、親が亡くなって田舎から王都に一人でなんてなあ…」
可哀想にと、不憫な子を見る目で私を見る。ここでの私は――北方領の田舎から出てきた元事業家の娘。両親が死んでしまったから会社を人の手に渡し、そのお金で王都で暮らしていきたい、という”設定”。まずい所以外は本当の事を話すが、そうでない所は嘘を付くしかない。その方が本当らしく捉えられるし、質問されてもそう問題にもならないはず。
「宿はもう決めてるのかい?」
「まだですが、旅人の宿泊街があったと思うんで。まずはそこに行ってから決めようと思ってます」
「ああ、それがいい。あそこの宿街なら、土壇場で申し込んでも受け付けてくれるだろうし、サービスも競争があるから良い。今からだとまだいい部屋が取れるだろう。…じゃあ嬢ちゃん、最後だが気をつけてな」
御者と別れた私は、宿場町へと向かっていった。
『宿泊街に行って部屋を確保したら、また宝石を売ってもいいかな?』
ここまでの旅費は、家出する時に持ってきた宝石袋の中身を1つ売ることで足りていたのだが、長期でこの王都に住むとなると、更に宝石を現金に変える必要がある。お財布の中身はまだまだあるが、この王都には銀行があると聞いて、当面の生活費を口座に入れておきたい。
『もちろんです。ここで生活をするのに必要になりますもの。お姉様、そういうのは気になさらないでください』
宿泊街は城を中心とした王都の中で、一番遠い所にある。それは、他所から来る客が便利だからと言う理由だけではない。やはりよそ者だからだ。観光客や商人達、そして異世界だとよく登場する様な冒険者も居た。頑丈な鉄の鎧、帯剣、彼らは王都付近に出没する魔物を倒しているらしい。そんな人たちの中に混じり宿を探し始めた。
各宿呼び込みの従業員が入口でサービスを声高々に言い客を集めている。結局、宿場町全体を回り切る頃には夕日が差し掛かっていた。その甲斐あって、希望の宿に部屋を取れた。
泊まる際に「未成年のようだが親御さんは?」と言われたが設定を話すと支配人を連れて来て一緒に説得してくれた。払うお金も見せた事で、一応泊まる気有りと納得してくれたのだ。ほっとしたが、未成年では何かと不自由らしい。
『ここまで年齢に煩いと思わなかった。15歳から成人なんだし、ちょっとくらい誤魔化してもいいんじゃない?』
『多分、年齢を偽るのは無理だと思います』
何で?
『魔力から人の年齢を測れます。魔力が強くなくても、魔道具を使って調べられてしまうんです。』
『嘘付いたらばれる可能性って?』
『恐らく見る人が見ればすぐ』
不便だけれど、しょうがないようだ。
今は部屋の中に居る。宿泊街の平均くらいの値段だったのにも関わらず広い。といっても元の日本での生活と比べてだけど。住宅事情が違うのだろう。
30畳くらいはありそうな部屋には、今座っているベッド、洗面室、シャワールーム、クローゼット、テーブルといった備え付け以外は無い。年季は入ってそうな建物だが、朝のクリーニングサービスが選択出来たり、モーニングセットが宿泊代金に込みになっているサービス面が嬉しい。3ヶ月間の予約をしたので、当分住居の心配はしなくていい。
結局部屋で落ち着いた頃には、空は暗かった。宿場町は今でも外から賑わい声が聞こえてきているが、これからも野外の一人歩きは極力避けた方が良いだろう。夕食は取らずに私は眠りに落ちていった。
1番希望の宿:舞台話
値段普通
サービスよし
客筋普通の人
色々回った後、あーでもないとガールズトークの後。妥協し合って決めたお宿。朝食が料金にコミコミ宿っていいですよね。中世ヨーロッパ風味なのでバイキングもいいなぁとか思ってたのですが、食材の名前出しまくってしまいそうで怖くなりました。なので普通の朝食になりました。




