第八話 星一
「〝さっさと〟がポジティブ寄りというネット情報は甚だ疑問だ」
千佳伊が荒ぶっている。
一般的に〝さっさと〟は中立からポジティブ、〝とっとと〟はネガティブと言われているが、千佳伊の主張ではそんな違いはないとのこと。
「前後の文脈や言葉遣い次第なのに、さっさとが好意的と勘違いし、免罪符にしている輩がうっとうしいと思わないか?」
「別に免罪符にしてるやつはいないだろ?」
「ウチは迷ったらジェミニに聞いてるよ」
千佳伊は「うんうん」と頷く。
「そうだろうそうだろう。不満には皆も同意のようなので、新しい提唱をする」
パワポのページをスライドしていき、千佳伊は自説を続ける。
「〝とっとと〟は直接的、〝さっさと〟は間接的というのが私の持論だ」
「このポッキーうま!」
「それはトッポだぞ。千佳伊、長い話は終わったか?」
引き続き、パワポを次のページに切り替えた。
「おいしい話と好評価なので次にいく」
「おい、誰も言ってねーぞ!」
「着手と完了のイメージの違いがある。〝始めてしまいましょう〟で例文を示す」
曰く「さっさと始めてしまいましょう」は、その作業にまず着手することを促しているニュアンスにやや寄る。
曰く「とっとと始めてしまいましょう」は、その作業を早く終わらせてしまおうというニュアンスだとの主張。
「と、いった感じだがどうだ? 合っているだろう?」
「あ、仙。午後ティーのお代わりお願い」
「残念。これはリプトン」
仙がお茶を用意するべく立ち上がった。
「千佳伊はくだらないこと語ってないで、とっとと終わりにしろよ」
わなわなと肩を震わせる千佳伊。
「……さて、二人の恥ずかしい動画でもネットにアップするか」
「「まてまてーーい!!」」
「なんだ聞こえてるじゃないか。私の声だけ届いてないのか不安になったぞ」
仕方なく話を最後まで聞く二人。
「要は〝さっさと続きを書いて欲しい〟って感想が皮肉に聞こえたってことか?」
「自意識高すぎ。ウケる」
「それだけではない。私が反証したら腹いせに★1を付けられたのだ」
妥当な評価だと思った二人は思わず真顔になる。
それに気づかず千佳伊は続ける。
「★1ハラスメントだと思わないか? 平均点が下がってしまう」
「1つもらえただけで充分だろ?」
「忖度なしだとこんなもんだよね~」
ノートパソコンをそっと閉じる千佳伊。
そして、聖母の笑みを二人へ向けた。
「病院でもセンスの悪さは治らない。二人ともまだ若いのに可哀想な……」
「おい」
「チカチカがいうとおまいう案件だよね」




