第六話 空気
改修工事も終わり、平穏が訪れた。
「俺の自制心、GJ」
「なぁ、仙よ。私が下着姿でウロウロしても目を逸らすのは何故だ?」
「さーて、今日はカレーだぞ」
リビング兼相談室にはカレーの匂いが漂いだす。
遊びに来ていた弧見が口を尖らせた。
「これから髪を切ってもらうのに匂いが気になっちゃうんだけど?」
「食わねーのか?」
「もちろん食べるよ?」
三人で食事を終え、庭に出た。
庭にはヘアサロンに改築したプレハブ。
壁の半分近くがガラス張りで解放感もある。
「俺の新しい城にようこそ!」
「へー、結構いい感じじゃん。ここで寝泊まりもしてんの?」
弧見の問いに仙が力強く頷く。
ヘアサロンが完成するまで、千佳伊と一緒に寝ていた仙。
今では心を無にするスキルも習得済み。
「どんなカットをご所望で?」
「この髪型をおねがーい」
弧見がスケッチブックを広げる。
ファンタジーな髪型。
仙はそれを挑戦状と受け取った。
「任せろ。だいたい合ってるにしてやんよ」
カットが進む間、やたらと千佳伊が話題を振ってくる。
「下着についての感想すらないのはヘタレが過ぎると思わんか?」
「仙、なんか言われてるよ?」
「うるさいな。空気に感想なんかないだろ? お前らの小説と同じだ」
仙の言葉に二人は目の色を変える。
「ふむ。酸素はありがたすぎて、畏れ多くて言葉もないということか」
「何シレッとウチまでディスってんの? ねぇ? ねぇ?」
「頭うごかすな。手元が狂ってしまうだろ」
弧見の前髪が思いがけぬミスでぱっつんに。
笑いを堪えつつ千佳伊が続ける。
「要は感想を送れないような読者もヘタレなのだろう」
「ウチも応援のリアクションはもらうけど、感想はめったにこないなぁ」
ハサミの音が続く中、千佳伊の口も止まらない。
「ヘタレは文章力に自信がないのだろう。可哀想なことだ」
「あー、レビューは確かにセンスが求められるかもね」
「うむ。こんな良い女に手をだせないヘタレは、あっちの自信がないのだ」
黙って聞き流していた仙も、頬がヒクつく。
「自分たちが清浄な空気の側だと勘違いしている作者は大変だな」
「清浄機という評価か? それほど褒められると照れるな」
「感想やレビューの通知がくるとめちゃ嬉しいよね」
どうにも会話が噛み合わない。
仙はズバッと切ることに決めた。
「おい、メタンガスとアンモニア。嗅ぐ人間様のお気持ちも考えろよな」
「ひ、ひどい! ウチの髪だけ切って! 心は切らないで!」
「ふむ。興味深い。エネルギーや肥料になる有益な空気というわけか」
満足げに頷く千佳伊。
「で、私の下着はメタンガスとアンモニアのどちらだったのか聞こうか」
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