第五話 改修
「それから、仙の住んでいたアパートも解約してあるからな」
「は? ……は?」
混乱気味の黄泉 仙は、勘 千佳伊を二度見する。
「ほれ、オフィス兼住居の鍵」
投げ渡された鍵を、仙はかろうじて受け取る。
目を白黒させていた仙が、深い息を吐いた。
「で、そのオフィスはどこにあんだよ?」
「頻繁に来ているではないか。ん、書類にある事務所所在地を見ろ」
促されるまま仙は住所を確認する。
「……これ千佳伊の家じゃね?」
「そうだ。今週から両親は海外移住だから私と二人きりだな」
その言葉に仙は固まる。
真っ先に反応したのは尾茂井 弧見だ。
「ちょちょちょ、ちょーーーっと待ったーーー!」
「どうした弧見? 他のお客さんに迷惑だぞ。これだから常識のないやつは……」
顔を真っ赤にした弧見が「バンッ!」とテーブルを叩く。
「チカチカが……チカチカが妊娠しちゃう!」
「するか」
即答した千佳伊。
仙も力強く頷く。
「そんな事態になったら不同意だと訴えて社会的に抹殺する」
「おい、私が襲う流れなのか? それに普通は女が訴えるもんだろ?」
「それは普通の場合だ。俺の弁護士生命のすべてをかけて必ずやりきる!」
スケッチブックを取りだした弧見が、猛然と絵を描き始める。
「はぁはぁ……はぁ、い、いけない。これ以上はⓇ⑱に……」
「弧見、ここで漫画を描くなよな」
「そろそろ帰るか」
千佳伊が勝手に帰り支度を始め、仙は必死に弧見を連れだした。
三人で千佳伊の自宅──黄泉法律事務所へ。
「お~、見事に改修工事が入ってるし」
「まだ途中だがな」
「なぁ、俺の部屋はどこになるんだ?」
目を逸らす千佳伊。ついでに話も逸らす。
「そういや弧見。〝妄想家になろう〟には投稿しないのか?」
「ん? ウチはカケヨメ一本だよ。浮気はしたくないし」
「なろうはエピソードを改稿すると、バレてしまう功罪があるよな」
千佳伊が自説を続けていく。
「目次に〝(改)〟と表示されると、何か負けた気がするよな」
「だからって誤字報告が来ても直さないのはどうかと思うぞ?」
突っこむ仙を千佳伊は視界にもいれない。
養生テープをしげしげと見つめながら千佳伊が続ける。
「すべてのエピソードを改稿している作品には勝った気分になれるよな」
「そりゃ気分だけだ。って無視すんな! 俺の部屋は!?」
「……まだ改修工事中だ」
仙の住んでいたアパートはすでに引き払われている。
頭を抱える仙。
ここから大きな政治トラブルに巻き込まれるとはまだ知らない。
「どーーーすんだよ! 俺はどこで寝れば!?」
「ふむ。一緒に寝るか?」




