第三十一話 頭角
黄泉 仙が家を出ていってしまった。
ヘアサロンも法律事務所も臨時休業。
「チカチカどうすんの?」
「今は経営が過渡期だ。暇はない。そのうち戻ってくるだろ」
経済界で頭角を現し始めた勘 千佳伊は多忙を極める。
尾茂井 弧見はマネージャー業で大忙し。
世界的にも知名度はグングンあがった。
だが小説は、更新もPVの伸びも止まり、悶々とした日々。
「チカチカ、やっぱ毎日更新じゃないとPV伸びないよね」
「いや、これだけ有名になったのだ! メディアの陰謀か!?」
支離滅裂な陰謀論を各所で発信し、テレビからも干された。
「チカチカ、急激に減ってる。やっぱり仙の言ってたようにコツコツと……」
「いや違うな。日本の読者が分かっていないだけだ。フランスに行くぞ!」
弧見を引きずって、フランス大使館へ突撃訪問。
突然の千佳伊襲来に、大使館の人たちは軽くパニック。
「私たちは日本語できます。落ち着いて対話しましょう」
「無論だ。私はフランス語なぞできぬ」
「す、凄い! ウチ、フランス人と話してる! ボンジュール!? へぶっ!」
ハイテンションだった弧見を殴り飛ばす千佳伊。
その凄惨な光景に、大使館のフランス人は白目になった。
千佳伊が放つ魔王の覇気で、大使館が包まれていく。
「創作論を宣言しておく。三行以内に名前と目的を示すことを!」
「な、何のことでございましょう?」
「千佳伊だ。要求を呑まなければ爆破させるつもりでここに来た」
千佳伊の笑顔に気圧される大使館の人たち。
「いち早く表明するのが昨今の主流と聞いた。で、どうだ?」
「おぅ……降参します。脅迫の内容はなんでしょうか?」
「話が早くて助かる。来月のジャパンエキスポをジャックしたい。頼めるか?」
しばらく固まった大使館の人が声を絞りだす。
「ブースの一角を千佳伊さまの独占とするのでいかがです?」
「おぉ、出来るのか。ダメ元で言ってみるものだな。では、それで」
踵を返そうとした千佳伊を、大使館の人が呼び止める。
「それでチケットはいくつ用意すれば良いのですか?」
「……三枚で頼む。ほれ、いくぞ弧見」
「ふにゃ? 知らない天井が見えるよ」
千佳伊が寝ぼける弧見を引きずっていった。
──翌日。
仙がソニックブームを起こす勢いで、家へ帰ってきた。
「おい! いくらなんでもやりすぎだろ!」
仙が突きつけたスマホの画面にはトップニュースの記事。
「おかえり仙。おお、意外と写真映りが良いな」
「ウチ、こんなアホづらを全国に晒してしまったの!? いやぁぁぁああ!」
発狂した弧見がのたうち回る中、千佳伊が髪をかき上げる。
「喜べ。弁護の仕事とフランス旅行だ。忙しくなるぞ!」




