第三十二話 死語
「ですから! あれは言葉の綾で、あくまで創作論です!」
記者会見を終え、控室にて仙がポカリで喉を潤す。
弧見がタオルで仙の顔を拭く。
「お疲れ。録音もされていたから苦しいよね」
「あんとき、〝創作論〟のセリフがあって助かったよ。無かったら終わってた」
「私の発言がすべて創作論と言うのはこじつけが過ぎないか?」
自身の爆破予告を含む脅迫が、原因とは考えない千佳伊。
「昨今のコンプラ警察による言葉狩りもひどいものがある」
「あー、それそれ。表現の自由の侵害だよね~」
「小説は他よりまだマシじゃね?」
漫画、アニメ、ゲームの方が表現の規制が強いと語る仙。
すかさず千佳伊が仙のタオルを剥ぎ取る。
「いーや。小説もひどい。一文の長さやブロックに対する指摘、難読漢字……」
「伝わらないから古い表現をやめろって意見もあるよね~」
「〝独り言ちる〟とか〝くずおれた〟とかか?」
千佳伊が「それだけではない」と首をふる。
「箪笥の肥やし、暖簾に腕押し。あぁ、〝蚊帳の外〟もそうだな」
「難読ってことか?」
「それもだけど、箪笥も、暖簾や蚊帳も、見たことないって~」
クローゼットや収納ボックスへと変化した生活様式。
チェーン店ばかりになった飲食店。
昔ながらの物は見かけることすら難しい。
「CDもダメになりそう。そういや言葉狩りで〝戦闘狂〟もNGらしいよね~」
「〝狂う〟が使えないなら〝ジャンキー〟を使えば良い」
千佳伊が奪ったタオルに顔を埋める。
「おい、嗅ぐな」
「それより、謎のコンプラも厳しくない? ジェンダー問題とか」
弧見の言う通り、世間の流れが小説の表現にまで影響している。
千佳伊が指折り数えだした。
「婦警、女優、看護婦、保母あたりは有名だな」
「〝ウエイトレス募集〟のポスターにも警察湧いたよ!」
「あぁ~、今は〝ホールスタッフ募集〟じゃないと差別と言われるよな」
仙が帰り支度をしつつ、手荷物を確認する。
バッグの中のパスポートを見て「話変わるけど」と呟いた。
「日本語の規制より、英語やフランス語の方が急務じゃね?」
「一理ある」
「ウチ、喋れるよ!」
カタカナ英語を自慢げに話す弧見を、二人はスルーした。
「通訳を雇うか。できればギャンブルしなさそうな人を」
「だな。焼きそばのCMオファーが来なくなるのはゴメンだしな」
「アーユーガイズ、リスニング?」
千佳伊と仙は通訳の必要性を切実に感じ、頷きあう。
そうして三人は、軽口を叩きあいながら控室を後にした。




