第二十話 火災
黄泉 仙は外へ出られない日々が続いていた。
今も部屋の片隅で体育座りをしている。
媚びた視線の勘 千佳伊が、仙にすり寄り耳元でささやく。
「解決しておいたぞ」
左耳を押さえた仙が横目で見る。
「……どうやって?」
「あの国会議員と仙がただならぬ関係だと週刊誌へリークしておいた」
千佳伊の言う国会議員とは、招致問題で真っ黒と噂される男。
週刊誌を千佳伊がバサリと投げ渡す。
「どうせ私や弧見と毎晩ヤッている噂があるのだ。一人くらい構わんだろ?」
見出しには〝不倫〟や〝熱愛〟の文字が並ぶ。
口をハクハクとさせた仙の顔は、ゲームオーバーの色になった。
「相手が女と男では大違いじゃねーか! 終わった……俺の人生……」
千佳伊が悪びれた様子もなく胸を張る。
「炎上に弁明は意味を成さない。別の炎上で上書きが最も有効なのだ」
しかし、仙の悲劇はそこで終わらなかった。
その国会議員とひと悶着あり、週刊誌へのリーク合戦がエスカレート。
すぐに千佳伊の自作自演とバレてしまい、新たな炎上へ。
誹謗中傷が激しさを増す。
「仙、仕事だ。馬鹿どもに法治国家のなんたるかを教えてやれ」
「こんなときだけ弁護士扱いすんのはやめろ」
果ては殺害予告まで届き始めている。
最近は、尾茂井 弧見も遊びにくるのを控えているほどだ。
さすがに洒落にならなくなってきて、警察にも相談した。
だが──。
『事件性は薄いでしょう。何かありましたらご連絡ください』
連日のように相談をしていたら、だんだんと警察も塩対応に。
今夜も手短に電話を切られ、千佳伊が般若の表情となる。
「な~~にが〝何かありましたら〟だ! 何かあってからでは遅いではないか!」
「しかたねーよ……なぁ、なんか焦げ臭くね?」
千佳伊が鼻をクンクンとヒクつかせ、辺りを見回す。
ドアの隙間は紅く染まっていた。
「火事だ!」
「早く逃げないと!」
「待て仙! 扉は開けるな。窓から飛び降りるぞ!」
千佳伊の部屋は二階。
決して飛び降りられない高さではない。
「む、無理! 俺が高所恐怖症なの知ってるだろ!」
「すでに黒い煙が部屋の中に入ってきている! 時間がない!」
手を引く千佳伊と、必死に部屋に残ろうとする仙。
「俺は助けがくるまでここに残る!」
「ふざけるな仙!」
「炎上はいつものことだし、やり過ごしていれば──」
その瞬間、千佳伊の平手打ちが飛んだ。
「人生は非公開にできない! 命は改稿できない! 商法と混同するな!」
千佳伊が無理やり仙を抱きかかえ、夜の空へダイブした。




