第二話 報酬
千佳伊から無茶ぶりを受けた仙。
その日のうちに共通の友人である尾茂井 弧見へ相談した。
『やってみればいいじゃん。司法試験ちょうど来週だし』
「無理無理無理無理!」
『んなの千パーセントわかってる。だから受けて落ちた事実をチカチカに突きつけてやればいいよ』
ライン通話の終わりぎわ、ふいに弧見が声色を変える。
『そんなことよりも昨日投稿した新しいエピソード読んでくれた?』
弧見の声は重々しく沈んでいく。
『まだPVが4しかついてないんだけど、今回の話はつまらなかったのかなぁ?』
「安心しろ。ちゃんと〝応援する〟を押してるだろ?」
連日の要求にうんざりしていた仙は、一気に仕事モードへ切り替えた。
「情報が取っ散らかって時制も適切でないから何度も読み戻る。言い回しもくどいから目が滑る。それから、創作料理のくだりが現実感なさすぎ」
オブラートなしのダイレクトアタック。
弧見が発狂する。
『ギャーー! 聞きたくない! それに今回は料理の話ないのに! ねぇ、読んでないでしょ!?』
「あー……読んだ読んだ。それじゃまたな」
長くなる危険を察した仙は、一方的に話を切り上げた。
「あっぶね。毎回似たような内容だから記憶がフュージョンしちゃうんだよ」
そう呟き、仙はアイマスクを装着した。
翌週に司法試験を受験。
それから半年が経過し、一通の通知書が仙の元に届く。
「……受かっちゃったよ」
幼いころから裁判官である父の書斎で、専門書を片っ端から読み漁っていた仙。
いつの間にか仙には英才教育が施されていた。
すぐにライン通話で千佳伊へ連絡をとる。
「千佳伊! 合格した! 思ったよりも簡単だったな」
『チッ』
即座に返されたのは舌打ち。
いまいましげに千佳伊が続ける。
『な~にが、〝思ったよりも簡単だったな〟だ! 〝処女作が一発で受賞しました〟みたいな言い方しやがって……ムカつく』
「ちょっとは褒めてくれてもいいだろ!?」
『まぁいい。次の第三回口頭弁論から合流してくれ』
千佳伊が興味なさげに話を進める。
スケジュールを聞いていた仙は、ふとあることが気になった。
「これ、仕事をかなり休まないと無理そうだけど……」
『それがどうした?』
「報酬はいかほどなん?」
ピタリと千佳伊の言葉が止まる。
美容師として独立したい仙は、ここでプッシュを始めた。
「開業資金がまだちょっと足りないんだわ」
『……』
「だから、成功報酬で構わないから弾んでくれると嬉しいな」
楽しみに返事を待つ仙。
急に目を輝かせる千佳伊。
『良いことを思いついたぞ!』
「話が飛びそうだな?」
『そんなことはない。報酬の件だ』
そう切り出した千佳伊は大きく息を吸う。
『カケヨメリワードで私の獲得した全額を払うってのはどうだ!』




