第十五話 背景
リビングのソファーで寛ぐ仙。
「しっかし、ずいぶんと拗らせた犯人だったな」
ニュースでは「学生の頃に女子グループからイジメを受けていた」とあった。
被害者がいわゆる〝高嶺の花〟を装う女性ばかりだったことも腑に落ちる。
仙は安堵の息を吐いた。
「ま、お前らが襲われなくて良かったよ。少し心配だったから」
「自分に自信のあるタイプばかりだったし、ウチは安牌だったと思うよ?」
犯人は捕まったが、弧見は眼鏡ファッションを続けたままだ。
明らかに不機嫌な千佳伊が二人を睨む。
「あんな高飛車な女どもと私のファッションが同じだとでも言いたかったのか?」
「……」
「……」
弧見と仙は、千佳伊から目を逸らす。
「服装で〝高慢そう〟とか〝お金かかりそう〟なぞルッキズムにもほどがある」
言い切る千佳伊をよそに、弧見たちはひそひそと話す。
「(……お金かかるのは事実じゃない? それに天狗だし)」
「(高値の鼻ってか?)」
「おいそこ! 聞こえているぞ!」
二人は〝ズレた持論を振りかざさず黙っていれば美人〟を見て残念そうにする。
「なんだか視線が痛いが、まぁいい」
千佳伊は刺さる視線を手で払いのけて続ける。
「彼のような経歴は、創作での陰湿な悪役にも必要だと思わないか?」
「は? あんな特殊な経歴いらんだろ? 陰キャラ属性だけで良くね?」
「読者に好かれないキャラだし、ウチも細かい設定いらないと思う」
不快そうに眉を寄せた千佳伊がノートパソコンを取りだした。
「私の作品のキャラクターシートで〝人生経験が行動を決める〟を説明する」
複数の陰湿なキャラを図解付きで示してきた。
それぞれがどのような人生を経て、陰湿な思考となっていったのかを。
「ほらここ! ちゃんと見よ!」
「あーハイハイ、見てる見てる」
「失敗続きで自信をなくしたのがA、家族からの惨い仕打ちで変わったのがB!」
千佳伊が肩で息をしながら説明を終える。
「どうだわかったか!?」
「出てきて二千文字で退場させられるキャラに、んな詳細な設定なんかいらねー」
「そうだよ。それ書いてる暇あったら続きを書いた方がいいよ」
弧見と仙は、コスパが悪いからさっさと続きを書けと言う。
「だが、それでは読者が納得のいく行動を作れないではないか!」
「だからといって半年も更新止まってるなんておかしいだろ!」
「たった一話で死ぬキャラに、十万文字の設定あるのは笑えないよ~」
返す言葉に詰まり、千佳伊がノートパソコンに視線を落とす。
そこでメール着信に気付いた千佳伊。
「ふむ。大物からコンタクトが来たぞ」
「なんだよもったいぶって。ちなみに誰?」
「古池由利子都知事だ!」
仙の顎が外れ、間抜けヅラとなった。




