第十二話 出禁
「多摩革とかいうコメンテーターに言われ放題なのは気に入らん」
テレビ夕日から出禁を言い渡された三人。
帰りに竹屋で牛丼をテイクアウトしたのち、事務所で朝の情報番組を見ていた。
「私は放送禁止用語も言っていないぞ? あのくらいで止めるとは軟弱な」
「最近はコンプラとかうるさいからな」
「コンプラって組み立てて塗装するやつだっけ?」
楽しそうに肩を震わせる弧見を無視し、千佳伊が話を戻す。
「しかし、昨今はコンプラに対し過剰な配慮を求めすぎではないか?」
仙は無反応で食事を続ける。
それでも千佳伊は止まらない。
「この表現はⓇ⑱行きだとか。このイジメ表現は真似できるからダメだとか」
「あー、その手のコンプラ警察は定期的に湧くよな」
「私が受けた実話もNGとはどういう了見だ!?」
仙は言葉に詰まる。
中学時代の千佳伊へのイジメは確かにヤバかった。
喉につかえた牛丼を無理やり飲み込み、仙が話題を変える。
「そういった感想はまともに取り合わなくてよくね?」
「いや、マイルドにすると今度はリアリティ警察が湧くのだ」
箸を持ったままの手でテーブルを叩く千佳伊。
「だ・い・た・い・な!」
あまりの強さにテーブルがミシリと音を立てる。
「わざわざ舞台をナーロッパにしてやっているのに、なぜ粘着してくる!?」
「あー……暇だからじゃね?」
「貴族のイジメが現代風で違和感だとか! 言葉遣いが当時と違うとか!」
千佳伊が仙に顔を近づけていく。
「当時の貴族の言葉遣いが必要か!?」
「近い近い千佳伊」
「中世の西洋貴族の言葉遣いが実際に翻訳された例があるか!?」
さらに顔が近づく二人。
「俺が言ったわけじゃねーよ。つば飛ばすな」
「そんな難解な古語を本当に読めるのか!? そもそも当時のフォントが無いわ!」
熱く議論をしていたら、ふいに弧見から声がかかる。
「ねぇ……あんたらチューでもすんの?」
その言葉で仙はハッと我に返り、慌てて後ずさる。
千佳伊との距離はわずか5㎝まで詰め寄られていた。
「チッ、弧見の警告があと数秒遅ければいけたのに」
「ど、どどどどさくさ紛れに既成事実つくろうとすんな!」
「当時の単語で〝キス〟もないよね? 日本の爵位も明治に作られたんよね?」
千佳伊と弧見が頷き合う。
「そうだ。時代考証警察は勘違いも甚だしい。頭が湧いた連中だぞ」
「うっわ、その相手も千佳伊に言われたら屈辱だろうね」
「いや、ちょっとは当時の感じを出した方が良くね?」
二人から睨まれる仙。
「分かりやすく現代日本語に翻訳してやっているのだ! ありがたく読め!」
「そういう読者は出禁でいいよね」
仙は「だからお前らのは読まれないんだよ」という言葉を必死に飲み込んだ。
したり顔の千佳伊。
「納得してくれたようで何よりだ。では次の創作論へ移る」
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